インタビュー

ペルシャ生まれ! 世界最古のチーズを輸入したい!(2)

01_sinboku1.jpg
世界最古の文明の地で生まれた世界最古のチーズ、イランの”ペルシアンパニール”を日本で輸入販売したいというのは、20才の大学生シャジャリ ルーインさんです。ひょんなことからペルシャ絨毯の輸入販売業をはじめて今にいたるお父さんと、日本人のお母さんを持つルーインさんはテヘランで生まれました(→前篇)。後篇では、ルーインさんの少年時代のちょっと不思議な夢の話から、チーズ輸入への奮闘をお伝えします。

■原始人になるために社長になりたい

 
01_sinboku1.jpg
▲実は堺っこだったシャジャリ ルーインさん。子どもの頃の夢は原始人!?
 
 
――ルーインさんが日本に来られたのはいつなのですか?
ルーイン「小学校1年生の後半から日本ですね。堺市の登美丘南小学校に6年生まで通いました」
――ルーインさんは堺っこだったんですね!
ルーイン「はい。祖母が堺に住んでいたんです。中学生になって大阪狭山市に引っ越しました」
――今、大学生で輸入販売業を始めたルーインさんですが、ビジネスの世界に興味をもちはじめたのはいつ頃からなのですか?
ルーイン「それが僕はちょっと変わっているところがあって、小学生の頃は原始人になりたかったんです」
――原始人(笑) それはまたどうして?
ルーイン「何にも縛られずに自給自足で暮らしていくことがかっこいいと思ったのです。でも現代で原始人をやろうと思ったら島でも買うしかない。しかし、僕は勉強は苦手でした。なのでスポーツをすることにしたのです。体操、スイミング、空手、ボーイスカウト、ボーイスカウトはそのまま原始人とつながりますね。テニス、少林寺。ちょっとずつかじってすぐやめることも多かったのですが、テニスは8年続いていて、高校もテニスで取ってもらって、大学もテニス推薦で入りました」
――なるほど。テニスプレイヤーとして世界で活躍するトッププレイヤーになれば島ぐらい買えそうです。
ルーイン「でも一回生の時に試合の結果がダメで、これではダメだと思って自分に何ができるか、何が好きなのかの組み合わせで考えてみたのです。たとえば僕はスポーツのトレーナーをすることが出来ますが、ただのトレーナーより、テニスのトレーナーの方が市場が絞られる。特化していって市場を絞っていけば、その市場で一番になれるんじゃないかと思ったのです。それで、出張のテニスのコーチを友達と一緒にすることにしました。ただ教えるだけじゃなくて、球拾いでもいいし、試合の相手でもいい。現役のテニス選手を好きに使えるというのがウリです。最初はお試しの無料期間にして、市民講座とかでテニスを楽しんでいる方などに声をかけました」
――さっそくやり始めたんですね。それでどうなったのですか?
ルーイン「何組か声がかかって結構やったのですが、無料期間が終わった途端一件も連絡がこなくなりました。友達もバイトしないといけなくなって、出張テニスコーチは終わりました」
――人って現金なものですね(笑)

■「売りたい」から、「もっと知ってほしい」へ、

ルーイン「それで自分の個性について、また考えてみたんです。考えてみたら日本とイランのハーフは、この大学には僕しかいない。これは個性だ。ちょうど叔父さんがイランでチーズ工場を経営しているから、それを日本に持ってきて売ってみようと思ったのです。でも食料品の輸入をどうすればいいのかが全然わからなかった」
――お父さんの会社もペルシャ絨毯や美術品の輸入で、食品は扱っていませんものね。
ルーイン「インターネットを調べたら大量に文章は出てくるんですけれど、僕は読むのは苦手です。だから直接話を聞こうと思って、関西空港に行ったんです。でも空港は広くてどこに行けばいいのかもわからず、4回通ってようやく窓口を見つけました。窓口で資料を見せてもらって、必要な書類をおじさんに送ったのですが、英語の細かい資料で、窓口に出してはやり直し。またおじさんに書類を送ってもらっての繰り返しです。すでにチーズは送ってもらっているのですが、検疫所に行って帰ってくる日々を一ヶ月ぐらい続けました。やっと輸入が認められて手元にチーズが来たのがこの6月です」
01_sinboku1.jpg
▲イラン北部にある叔父さんのチーズ工場。イランでは人気のブランドです。

 

――苦労してようやく準備が整ったんですね。
ルーイン「はい、それでまず、東京で開催されているチーズのイベントに持って行くことにしました。チーズだけのイベントとなると東京までいかないとなかなか無かったのです」
――いきなり東京へ。やっぱり行動力がありますね。そういうチーズの専門イベントでも、ペルシアンパニールというのは他にないものなのですか?
ルーイン「他にはなかったですね。『パニール』というと、あああれかとチーズのことだと知っている方がいるぐらいでした。ここでは好評で用意したチーズはすべて売り切れてしまったのですが、大阪ではワインショップの方から違う意見をいただくことになりました」
――どんな意見ですか?
ルーイン「ワインに合わせるには塩辛いと指摘されました。イランではパンに塗ったり野菜と一緒に食べるので、塩気があっても緩和されるのですが、ワインと合わせるチーズの楽しみ方には合わなかったのです」
01_sinboku1.jpg
▲日本人の食習慣に合わせて塩分を押さえた新製品も開発しました。
肝心の輸入しようとしているチーズが日本人の舌に合わない。ここで諦めてしまっても不思議ではありませんが、ルーインさんはまたも行動力があるところを見せます。
ルーイン「丁度夏休みだったので、イランのおじさんの工場に行って、塩分を押さえたタイプのペルシアンパニールを2種類新たに作ってもらったのです。これを日本に帰って、ワインショップの方にもう一度試食してもらったら、これならワインにも合うとお墨付きをいただきました」
――それはペルシアンパニールの販売に向けて弾みがつきますね。
ルーイン「それだけじゃなくて、気持ちも変わってきました。イランでパニールの作り方や歴史を教えてもらって勉強しているうちにペルシアンパニールはいいものなんだ、イランがチーズ発祥なんだということを知りました。イランと日本のハーフである僕も知らないのだから、日本の方はもっとイランのことを知らない。それで『売りたい』という気持ちから、『もっとイランのことを知ってほしい』へ変わってきたのです。イラン人が知っている日本の情報量の方が、日本人がイランのことを知っている情報量よりはるかに多いですよ」
--たしかイランでは日本のアニメが人気だったりもするんですよね。
ルーイン「ええ。ドラマの『おしん』も大人気です。一方、日本ではどうでしょうか。日本人が知っているイランのものといえばペルシャ絨毯ぐらいじゃないでしょうか。でも、イランにはペルシアンパニールだけでなく、たとえばピスタチオも名産ですし、美味しいものがいっぱいある。チーズというやりやすい所からはじめて、もっと広げていきたいと考えていますし、クラウドファンディングを始めたのもお金というよりは、知ってほしいということです。僕がやりたいのはチーズの会社ではなくて、イランからの輸入会社なのです」

■新しい人類という個性

――ルーインさんの挑戦に対してご両親はどう言っているのですか?
ルーイン「子供の頃からですけれど、両親は僕のやることに対してあかんとかはなくて、やりたいならやりなさいという態度でした。今回だったらお金は出してあげるから自分で頑張りなさいという感じでした。ただ言われたのは、ペルシャ絨毯と違って食品だから、人の口に入るものだから気をつけないといけないよ、と。ペルシャ絨毯ですと腐ることもなくて、時間がたてばプレミアがつく場合もあるけれど、食品はそうはいかない」
――食品は責任が重いですものね。そういうアドバイスも含めて、応援してくれているのですね。
ルーイン「今は父の会社のフード事業部ということで、全面的に協力してもらっています」
01_sinboku1.jpg
▲ペルシアンパニールに含まれるビタミンD3が神経伝達や疲労回復に効果を発揮するのではないか? 卒論のテーマとして研究する予定です。
――そのままお父さんの会社を継ぐという気持ちはないのですか?
ルーイン「僕としては、今支援してもらった事業部を大きくして独立して、ペルシアングループのグループ会社を作って、お父さんの会社を吸収したいと思っているぐらいです。ペルシアンブランドを日本で確立したいと考えています」
――輸入を通じて両国の架け橋になるような目標ですね。ところで、ルーインさんは、今20才ですから国籍は二重国籍ですよね? 日本では22才でどちらかの国籍を選ばなくてはなりませんが、どうするつもりですか?
ルーイン「日本を選ぼうと思っているのですが、イランの法律は日本と違っていて、多分なのですが国籍を破棄する書類自体がなさそうなんですよ」
――昨今の多重国籍を認めるのが当然の国際情勢の中で、日本のような国は珍しいですからね。
ルーイン「日本にイラン人がよく来た時期があって、丁度僕世代のイラン人とのハーフが多いのですが、みんな同じ問題に突き当たっています」
01_sinboku1.jpg
▲「簡単にうまくいかない方がいい」とルーインさん。長い目で見て、コツコツとペルシアンパニールを広げていきたいそうです。

 

――ルーインさんは、個人のアイデンティティとしてはどんな風に感じているのですか?
ルーイン「日本とイランが混ざり合っている感じで、分けることはできないですね。日本とイランの真ん中、日本イラン人という存在なんだと思います。僕は日本イラン人という新しい人類です」
--いいですね。今、その新しい人類がどんどん増えている日本で、ルーインさんのように考えるのは、凝り固まった考え方から自由になって、風通しがよくなりますね。
ルーイン「僕も今日、こうして取材していただいたり、いろんな人の考え方を聞いて、20才の年はターニングポイントになりました。大学の先生にも色んな方を紹介してもらったりして、普通の学生ではできない経験です。チーズにも感謝しないと」
ルーインさんの挑戦は、チーズの輸入にとどまらず、日本とイランの両国の架け橋になる大きな挑戦でした。きっと、ルーインさんが活躍することによって、ルーインさんだけでなく”新しい人類”……それはいわゆる”ハーフ”だけでなく、自分独特の個性を自覚し自立した人たちのことではないかと思うのですが……彼らが活躍できる場がどんどん増えることにもなるのではないでしょうか。
さて、後日談。
ルーインさんから、オリジナルの塩分濃度のペルシアンパニールをいただいて料理に使ってみました。エスニック食材にありがちなとっつきにくさはなくて、チーズサンドイッチにしてよし、シチューに入れるとコクが深まってよしと使いやすい食材でした。これが遠く離れたイランの人たちが日常に食べているものなのかと思うと、その食べやすさに驚くほどです。見知らぬものでも、いざ触れてみると垣根を感じないものもある。見知らぬものに対して、ちょっとした挑戦をすることで、日常の生活が豊かになる。そんな体験をさせてもらったのでした。
ペルシアンパニールを食べたい。あるいは、ルーインさんの挑戦を応援したいという方は、下記の連絡先まで。また2018年12月現在はクラウドファンディングに挑戦中です。こちらへの応援もよろしくお願いします。
株式会社西亜
住所:大阪市中央区北浜1丁目9番15号 EM北浜ビル1階
電話:070-1058-6481
★クラウドファンディング

灯台守かえる

関連記事

Remodal

Remodalテスト

Write something.


PAGETOP

remodal