Sakai Experience JAPAN(SEJ) 堺の能舞台で能楽体験!(後編)

 

Sakai Experience Japan(SEJ)は、海外の人向けに堺を体験してもらう新事業。その準備として、ツアーガイドを目指す方々向けに、堺能楽会館での能楽体験会が催されました。狂言師安東元先生を講師に迎えて能舞台と能面を体験した前編に引き続き、後編では参加者が役者として狂言の舞台に挑戦した様子をお届けします。

 

■はじめての能舞台で狂言体験!

▲安東先生の熱演を同じ舞台で見ることができるのも、めったにできない体験です。

 

果たして、この日はじめて能舞台を踏んだ参加者が、狂言の舞台に参加できるのでしょうか?
注目の演目は「盆山(ぼんさん)」。盆山とは、盆栽に似ていてお盆の上に作った箱庭のようなもので、大流行していたそうです。この盆山を趣味としている男が、沢山盆山を持っている知人の家に忍び込んで盗もうとするお話。
お話の前半部分、家に忍び込み、盆山を見つけてつい大騒ぎをしてしまう所までを、安東先生が一人で演じられます。大騒ぎしたものだから、当然家人に気づかれて、知人は忍び込んできた男の存在と、盆山を手に入れようとした意図に気づき、からかってやろうと考えます。
ここで、キャラクターチェンジ。安東先生がからかう知人役を、参加者は盗みにはいった男役を引き受けます。男は盆山の影に身を潜めて隠れようとしますが、頭隠して尻隠さずの状態。知人が、「あそこに隠れているのは犬だろうか? 犬なら鳴くはず。もし人なら刀で切ってやる」とうそぶくと、男はあわてて犬の鳴きまねをします。
こうして知人は、次々と男に無理難題をふっかけてからかっていくのですが、参加者は安東先生の指導のもと、犬の鳴きまね、猿の鳴きまね、最後には鯛の鳴きまねをする男を演じあげます。

 

▲「ぼんさん」で忍び込んだ男を演じるゼインさんと櫻井さんの二人は、安東先生から「鯛」の身振りを教わりました。

 

この男役を務めた参加者の櫻井勲さんに感想を聞きました。
――能舞台に立った経験はいかがでしたか?
櫻井「一日予想出来ない体験をさせてもらって、自分の知っている世界がさらに広がった気がしました」
――面をつけた体験はいかがでしたか?
櫻井「よそでは絶対につけられないと思いますし、あんなに大切なものをつけさせてもらえることの特別感と、つけてから舞台を歩くことの怖さとか、それをいつもされている方々に対しても敬意が増すというのがありますね」
――演技もされましたね。
櫻井「先ほど演技させてもらった時に、舞台の後ろから見ることが出来る尊さというか、唯一無二感もすごかったですね」

 

▲能楽に関する安東先生の話をすぐに英語で通訳できるのも、日本の精神文化に精通しているゼインさんだからこそ。

 

櫻井さんと一緒に舞台に立ち、体験会でお手本となる通訳を務められていたゼインさんにもお話を伺ってみました。
――今日の感想はいかがですか?
ゼイン「めちゃめちゃ良かったです。先生がすごい! 素晴らしかった。基本的なことや、能楽がどこから生まれてきたかを教えてくれて、すごく勉強になった。もっと外国人、日本人でも、そういうルーツを知ればもっと日本文化を大事に出来るんじゃないかと思います」
――能舞台に立つのは初めてですか?
ゼイン「二回目ですが、先生が違っていて、安東先生の流れが、僕にはすごく合っているので、心に当たりました」
――ゼインさんは、ステージに立つようなことはされていますか?
ゼイン「はい。僕もアーティストとしてお客様の前で色々な事をしています。瞑想であったり、仏教に関係のあることを現代風にして、みんなに見せる表現をしたりしています」
――コンテンポラリー(現代)アートをされているんですね。普段されていることと、能舞台がすごくマッチしていますね。
ゼイン「能舞台は全部意味があって、深くてすごいです。言葉よりも本当に体験ですね。体験しないと絶対に分からない。ここは神が宿っているような感覚にされる。神聖な感覚になりますね」
――仏教やアートの事を良くわかっているゼインさんのような方が通訳されるというのも素晴らしい事だと思います。
ゼイン「日本の文化は特に深いので、どのことでも深いので、外国にはその文化がないから分かりづらいですね。僕は去年日本に住んでから、その深さを何回も感じてきました。知らない方がそこに注目されたら、絶対に感動するはず。全部意味からできているから、そこを体験されたら日本はすごいなってわかってくる。みんな、寿司とか着物とか、それも素晴らしい日本文化だけど、その深いところを教えられていないです」
――それはとても大事なことですね。ますます期待できます。

 

■Sakai Experience Japanへの期待

 

▲旅行会社に長年勤められているローレンスさんからの質問に答える安東先生。

 

どうやら、Sakai Experience Japanの体験ツアーは、日本文化を深く体験できるものになりそうです。では、この日、素晴らしい体験会をリードしてくださった安東先生にもお話を伺ってみましょう。

――お疲れ様でした。大変皆さん満足されている様子でしたね。
安東「皆さんには、今後はこういう狂言の事を、今度は伝える側に立っていただく方達だと思うので、僕もちょっと熱弁しました。これを通訳をするのは難しいなぁと思いながら、申し訳ないなとも思ったのですが、それは絶対乗り越えていかなと思いますので。特に外国の方に、狂言やら日本文化のことを伝えていこうと思えば、日本の宗教観、神仏習合や万物に神宿るとか、そういう共通認識というものを、まずお互いに確認し合った上で初めて理解していただけるものやと思うので、それをどう短時間で伝える、感じて言うということに尽きるんじゃないかな」
――初日としては、掴みは良かったのではないですか?
安東「今日参加していただいた皆様が今感じたことは必ず、今後お伝えする旅行者の方が感じることだと思うので、今日感じたことを忘れずに、それをそのまま伝えるのが一番じゃないかな」

 

▲橋掛かりを歩くローレンスさん。実は20数年前に、大澤さんの依頼で英語能「ハムレット」の企画に携わったことがあったとか。

 

次に、長年旅行会社に勤め、海外の方向けに日本ツアーを企画されてきたローレンスさんにもお話を聞いてみました。
――今日、参加されて感想はいかがですか?
ローレンス「僕は旅行会社で、もう25年間、日本の田舎への案内をしています。京都の清水寺や奈良の鹿の案内はしません。吉野や岡山の温泉、鳥取砂丘とかね。最初の頃は、日本人か日本に住む外国人ばかりだったけど、2011年頃から、やっと海外のお客様が入ってきた。彼らは平日でも行けるでしょ。日本の方は週末だけだけど。僕は田舎が大好きだから、外国人と日本人を連れて行って案内する」
――日本は山間部に、独特の文化が残っていたりしますしね。
ローレンス「日本には有名な小歩危大歩危や祖谷渓などがあって、僕は観光バスで一度に何十人もつれていきます。5月1日から11月1日の間まではキャンプしたりしてね。これには目的があります。地元で生まれた人には、何が特別なのか自分でも当然わかる。地元の人が自慢しても、若い人は興味をもたないのは、はっきり言わないといけないけどね。それは置いておいて、これは面白いと思うよ。ただ、地方はもうボロボロになっている。民宿がない、廃墟になっていくので泊まる所がない」
――確かに地方の疲弊。過疎化の問題は深刻です。
ローレンス「僕は関西ばかりだけど、白浜や天橋立、だんだん毎年ダメになっていく。でも解決法は難しいね」
――そうですね。では、そのような状況の中でSakai Experience Japanの活動はどうなっていくでしょうか?
ローレンス「僕はこれまで10回以上引っ越しをしてきて、また久しぶりに浜寺にもどってきました。ずっと住むことになると思います。去年の10月に友美さんと出会って、(この事業で)体験や経験をアピールしたい。今日は相談だけじゃなくて、一緒に考えないといけないでしょ。外国人に向けてどう説明するのか、どれぐらいの値段をつけたらいいか、日本人だけだと多分わからないでしょう。海外の方は家族で来ることが多いので、ちびちゃんも参加できる? 参加できなかったらもうダメです。日本の文化との違いもある。特にコロナになってからは、旅館でスリッパを履くのが日本文化ですといっても、そんな何千人も履いたかわからないものは履きたくない人がいる。わざわざスリッパを買いに行きますってね。僕は平気だけど。そういうことをどうするか考えるために僕はいます」
――多くの日本人が見向きもしなくなった日本の地方の文化に愛情をもって接してこられて、プロとして長いキャリアを持つローレンスさんがいらっしゃるというのは、本当に心強いですね。

 

この体験会の様子を客席で最後までご覧になっていた、大澤館主にも感想を尋ねてみました。
――今日の体験会を見ていただいてのコメントを頂けますか? これから海外の方に能楽会館で日本文化を紹介しようということですが。
大澤「そんなすぐにはわからないとは思います。ただね。勇気を出して舞台に上がってくれはったのでね。こんな経験は、おそらく今後もできないでしょうと思いますわ」
――そうですね。参加者の皆さんも、他ではできない体験だったということをおっしゃっていましたね。日本で唯一無二ですよね。
大澤「そうそう。だから今日はちょっと人数が多かったかな。もう少し人数を絞った方がいいんとちゃうかな?」
――確かに、その方がより濃く体験が出来るでしょうね。ありがとうございます。

 

▲Sakai Experience Japan代表の松永友美さん。能面をつけると視界が極端に狭くなるので、能舞台を歩いてもらうのも注意深く見守ります。

 

最後に、代表の松永さんに一言いただきましょう。
――お疲れ様です。今日のイベントいかがでしたか?
松永「開始時点で時間が押したのでどうなるかと思ったのですが、安東さんのおかげでなんとか時間通りに終わることが出来て、そっちの方がドキドキしました」
――これからどう広げていきたいとか、可能性はどう感じられましたか?
松永「今から皆さんにアンケートをとって感想をいただいて、改善点があればブラッシュアップしていきます。でも、今日は皆さんの笑顔が沢山見られたから、ご満足いただけたという手ごたえはありましたね」

松永さんの言うとおり、初回ということもあって、ややドタバタしたところもありましたが、体験会は参加者の満面の笑みが溢れる中、無事終了しました。安東さんが言うように、この日心に感じたことを参加者の皆さんが持ち続けて、お客様を案内する時に感動を伝えて欲しいなと思います。きっと素晴らしい体験ツアーになることでしょう。

 

 

堺能楽会館
住所:〒590-0974 大阪府堺市堺区大浜北町3丁4−7

 

紙カフェ
住所:〒590-0925 大阪府堺市堺区綾之町東1丁1−8
web:https://kami-cafe.jp/

 

 


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