インタビュー

アーティストをバックアップする画廊! Arts-B Gallary(3)

 

ギャラリーオーナーの土居勝さんが、堺市西区鳳に「Arts-B Gallary」をオープンしたのは、無名のアーティストを応援したい、そして日本の家庭にアート作品をという二つの思いをつなげて叶えるためでした。プロのアート作品となれば、日本のサラリーマンが簡単に手を出せるものではない。けれど、無名の作家の作品であれば、まだ値段が安くて手に入れやすい。作家も作品が売れていくことで潤うし、知名度があがっていけばステップアップできるかもしれない。この循環を作る拠点がArts-B Gallaryなのです。だから、土居さんはジャンルやテーマにこだわるのではなく、まだ無名の作家ということで、若手や障がいのある方の作品にこだわって企画展を開催しているのでした(第一回第二回)。
第三回の記事では、どこからその思いがやってきたのか、土居さんの半生を振り返ってもらうことにします。

 

■絵描きを目指していたからこそわかる「サインを入れた作品」のすごさ

 

--土居さんは、Arts-B Gallaryの前身Arts-Bの活動を始める前はお勤めをされていたのですよね?
土居「ええ、信用金庫に勤めていました」
--アートと直接関係あるお仕事をされていたわけではないのですね。では、アートとの関わりはどこからなのでしょうか?
土居「もともとアートを観るのは好きなんですよ」
--好きな作家さんとかは?
土居「いっぱいいますよ! 陳腐かもしれませんが、ゴッホは好きですし。『堺でゴッホをみつける』と名刺にも書いていますし。僕も日本人の陳腐な人だから、やっぱり印象派が好きです」
--日本で印象派は大人気ですからね。
土居「ピカソとか、マチスとか、いっぱい好きな作家はいます。これも節操がないと言えばないですよね。シャガールも好きだし」
--では、趣味としては美術館に行ったりとか。
土居「絵を観るのは好きですね。西天満あたりのギャラリーをぷらぷら観に行ったり」
--ご自身で絵を描いたりはなさらなかったのですか?
土居「描いてましたよ。記事には書かんとってくださいよ(笑) 絵描きになりたかったんです。絵描きになろうと、大学を目指したこともありました」
--では中途半端なものじゃなくて、しっかりとアートに向き合ってられたのですね。
土居「そんなことない、そんなことない、そんなことない、うん、そんなことはないですよ」
--(笑) でも自分の中ではとても大切なことじゃないですか? アートへの情熱とかは。
土居「そうそう。だから大学へ行くために勉強はちゃんとやったつもりなんです。デッサンもやったし、受験勉強もやったし。でも自分の限界というのはわかるじゃないですか?」
--はい。
土居「絵で絵描きになろうというのは諦めましたね。だから、こうして(ギャラリーに展示している)みなさんが絵を描いて、サインまで入れている作品を見ると偉いなぁと思いますわ」
--ご自身も絵描きを目指していただけに、作品を描いてサインまでいれることのすごさがわかるということですよね。土居さんが無名の人を応援したいというのは、そういうご自身の経験もあってのことなのでしょうか。やめようと思ったのは、大学を目指す時に何かあったのですか?
土居「いやいや、全然そんなことじゃなくて、自分も一生懸命描いてわかったんだけれど、これは目指す土俵が違うなと。でも、その時にね、僕は振り返ると、僕は上手い絵を描きたかったのかな? デッサンでも、よくいうじゃないですかデッサンが狂っているとか。僕はデッサンが狂った絵とかを描きたくなかった。でも、それは大きな間違いやったと思うわ」

 

■パラリンアートとして区別する必要はない

▲カフェ『メゾン・ド・イリゼ』でこの絵と出会ったことが土居さんに大きく影響した。

 

土居「その頃に、障がいのもった方の作品をもっと身近に観て、教えてくれる人に出会っていたら芸術観は変わっていたと思うわ」
--では、障がいをもった方の作品に出会ったというのは大きかったんですね。それはいつ頃の話ですか?
土居「大きかったですね。丁度アールブリュットという言葉が出始めたころで、すごいなと思っていましたし、これまでの芸術家と呼ばれる人たちの中にも障がいをもった方だなという人もいるじゃないですか。そういうこともわかっていたんですけれど、実際僕はこのArts-Bというのをやりはじめて、障がい者の作品に触れたのは就労者支援施設『ユウの家』の作品をカフェ『メゾン・ド・イリゼ』さんでたまたま観たことなんです。それがこれなんです(上掲の写真の絵)」

※アールブリュット……「生の芸術」という意味で、芸術教育を受けていない人による芸術のこと。技術や流行に囚われない自由な芸術表現を讃えて名付けられた。

--「メゾン・ド・イリゼ」さんがけやき通りにあったころですね。「ユウの家」さんがお近くにあって。
土居「そうです。たまたまポツンと飾ってあったこの絵を観て、これは誰の描いた絵なんですか? と言うと『ユウの家』という施設の人が描いたんよと。それで『ユウの家』さんを教えていただいたんです。そこからですね具体的に『ユウの家』と関わりだしたのは」
--そういうことだったんですね。
土居「それからAjuとは、堺アートワールドを年に一回やっているでしょ。そこで彼女が幾何学模様の作品を描いていて、そこで出会ったのがきっかけです。だからそれまでは、障がいをもっている方の作品を中心にやっていこうという考えはなくて、僕の目の前にこういった絵が出てきてくれたから、じゃあこっちしようやということになったんです。僕はこの絵でも、僕はこの絵は描けないなと思ったんです。ここに飾っている絵でも、そう思う作品はたんとありますよ」
--アールブリュットという名前がつくまでは、障がいをもっている方の絵は低くみられていましたよね。
土居「それはありますね」
--アールブリュットと名前がついて、それには価値があるんだとされるようになりました。今でもそういう偏見は残っていると思いますが、そのあたりの土居さんの見解はどうなのでしょうか?
土居「アートに関しては障がいのあるなし、画歴のあるなしは、まったく関係ないと思っています。パラリンアートという言葉もあるんだけれど、僕はパラリンピックというのは全然認めるんです。障がいのある人が健常者と一緒の闘いができるはずもないし。だからパラリンピックというのは大丈夫なんです。観てても楽しいし」
--なるほど。
土居「でもアートの世界でそれを区別する必要は全然ないと思います。まったくないと思います。アートに関してはまったく同じ土俵で勝負できる。勝負する必要はないかもしれないけれど、同じ土俵にあるべきものやと僕は思う」
--そう考えると、現状がそうではない中で、障がい者のアートに注目してとりあげるというのは、現状を改めるためという意味もあるのでしょうか。
土居「うーん。どうなんでしょう。今回展示されてる作品の作家の中にも障がいのある方は沢山いらっしゃるですよ」
--でも、それは書いてないですね。同じ土俵でやっている。
土居「そう。Ajuなんかの場合は、はっきり発達障がいがあるというのをカミングアウトしている。障がいをもった方の中にもカミングアウトされている方もいる。それはそれでいいと思うんですよ。ただ僕が展示する時には、それはなにも全然していない。隠すわけじゃないけれど。作家さんの意思によって」
--そういう方針でやられているんですね。土居さんがこの活動をされて何か変わったり、作家さんから言われたことはありますか?
土居「展示できる場所ができて良かった。それだけですよね。それと中には買っていただけて、評価いただけて嬉しい。作家さんの声は。もうそれ以上のものはないですよ」

 

障がい者のアートを健常者と区別する必要はない、同じ土俵に載せるべき。言うだけなら、それは誰にでも言えることですが、それを実践しつづけるのは並大抵のことではないでしょう。土居さんの強い意志や力がなければとうていできることではないと思います。
次回は最終回。アートの世界の現状と、その中でArts-B Gallaryが今後どのような活動をされていくのかをお聞きします。

(→第四回

 

Arts-B Gallery
住所:堺市西区鳳南町5丁517−115 517番地115
電話番号:072-289-5281

 

 


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