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シェア型書店 HONBAKO(2)

 

大仙公園近くの坂道にあるシェア型書店HONBAKOさんは、昨年(2022年)9月23日にオープンしたばかり。店内の壁にしつらえられた30cm四方のスペースを箱主に貸し出し、そこに置かれた本を販売しています。
箱は個性的にディスプレイされており、置かれている本も箱主さんの個性を反映してバラエティ豊かなものです。
インタビュー中にも、次々と箱主さんがお店を訪れてきます。代表取締役の牧田耕一さん、店長の中道尚美さんらと挨拶を交わして、店内はにぎやかです。このコミュニティはどのようにして出来たのでしょうか? 前回に引き続き、その秘密に迫ってみましょう。

 

■HONBAKOは出会いの場

 

▲箱主ばんびさんの箱を紹介する店長中道尚美さん。HONBAKOには箱主さんによる新聞部や美術部などもあるそうです。

 

100を優に超える本箱は、それぞれ箱主さんの個人商店のよう。並べられた本を眺めていると、文庫本や絵本、漫画にムック、レシピにヘルスケア、メンタルケア、専門書、スタイルやテーマは千差万別ですが、箱ごとに一貫した個性、箱主の顔が見えてくるようです。30cm四方の世界最小クラスの店舗に置ける商品は限られているため、シビアな取捨選択が課せられます。それゆえ自然に百人百色の箱主の個性が尖った箱だらけになってしまうのでしょう。
――個性的な本が集まっていますね。お店をオープンして路面でお客様と接するようになって、何か印象に残っていることはありますか?
中道「もうありすぎるんですけれど、ある箱主の方は、以前パニック障害を患われて、お仕事も辞めざるを得ないようになって、辛い思いをしていたのですが、箱主になって箱には克服した時の自分の体験を本にされたものを並べていたんですね。こんな本誰も読めへんかなとか言いながら、本を並べて帰られたんです」
――その方にとって、救いになった本なんですね。
中道「それからしばらくして、ちょっとお腹が大きくなられた方がお店に入ってこられて、こちらからはお声がけをせずにゆっくり見ていただいていたんですが、先ほどの箱主さんの箱の前でじっと見てはって、その本を一冊手にとって、私のところに来てくれて、実は私はパニック障害を患っています。今日ここにふらっと入ってきたけれど、この人のこの本に救われる。私はこの本に出合うために、もしかしたらこの店に来たのかもしれない。そう言って、その本を買ってくださって、すごい大切そうに持って帰ってくださったりしたんです」
――箱主さんの思いがあって選んだ本だからこそ、その思いが伝わったんでしょうね。

 

▲箱主のなぎらさんは「最高顧問」と呼ばれているそうです。イベント知らしのポスティングなども、多くの箱主さんが集まってあっという間に終わってしまうそうです。

 

中道「それから、うちの本って一冊につき100円販売手数料をいただいているんですけれど、その100円のうち半分は寄付させていただいているんです。ある時、お父さんに連れられた女の子がうちに来て本を買ってくださったんです。お父さんにご飯を食べられへん子とか、困っている人のために寄付するから、女の子に誰かの助けになったっていうことを伝えてあげてくださいねって、ちょっとだけお声がけをしたんです。そしたら、女の子が、あー誰々くんみたいなって事を言ったんです。多分、ご飯を苦労しているクラスメイトがいるっていうことを、その小学校低学年の女の子は、自分の体感をもって感じてたんですね。それを聞いた時に、私はドキっとして。50円を寄付しますって、言葉面でずっと言っていたし、もちろん誰かの助けになりたいっていう思いで仕組みを考えてやっていたんですけれど、女の子がもっと身近にそういう問題点を感じていたという事にはっとさせられた機会でした」
――お客様から教わる機会だったんですね。それもちょっと普通の本屋さんでは出来ない体験ですね。きっとお店番される箱主さんたちも、そんな経験をされているんでしょうね。
中道「箱主さんがお店番をする時には、キャビネットで好きなものを売っていただくことが出来るんです。ある箱主さんは、お子さんを幼稚園に預けてやっと一人の時間が出来たので、手芸で何か作ろうかなって、ビーズで作ったバッチやったんですけど、1回目は10個ぐらい並べてお店開きをしてくださったんですね。最初はそんなに売れることもなかったんですけど、月1回毎月毎月ここでそれをするようになって、回を重ねるごとにディスプレイも綺麗になって、作品も増えていったら、どんどん他の箱主さんとかにもファンが増えてきて、このお店以外にもマルシェとかにも出店するようになったんです」

 

▲箱主たなかしゅうごさんのアイディアではじまった箱主さんにお便りを出せるポスト。追随する箱主さんもあらわれ、直接会えなくてもやりとりすることが出来るようになりました。これも多層的な箱主コミュニティの形成につながっていますね。

 

――すごい発展だ。
中道「オーダーも入るようになって、近隣のお店のスタッフさんのバッチをオーダーされたり、インスタを見たという台湾からのお客様がお土産用にと30個も買っていかれたこともありました。最初は、子どもの手が離れたから、ちょっとだけなんかやってみようかなと、ここで始めはったことが来るたびにヴァージョンアップしているし、その箱主さん自体がキラキラしてくるんですよね。キラキラしているその方を見て、また他の方がその方を応援したくなったり。ここでは誰かが誰かの背中をトンと推すようなエピソードが沢山あるんです。私に喋らせたら、多分2時間ぐらいはその話ができます」
――1年に満たない期間で経験の密度がすごいですね。
中道「人と人が触れ合うことがあったり、人と本が触れ合うことがあったり、かけ合わさったりして。ここにいらっしゃる方々も、元々はお知り合いじゃなかった箱主さんが、まるで旧知の仲のように仲良くなって一緒にイベントしたり、私たちがイベントするって言ったら、みんなお手伝いに来てくださったり」

 

■コミュニティから地域へ、そして……

▲親子工作教室をする箱主なおきちさんの作品。右下にあるのが万華鏡。

 

――イベントというと、三階のシェアスペースでイベントという話が先ほどありましたね。どんなイベントがあるんですか?
中道「丁度明日、初めてやるイベントがあります。手先がすごく器用ななおきちさんという箱主さんと、絵がとても上手なばんびさんという箱主さんがコラボをして、上で親子工作教室をされるんです。それで今日も来ていらして、これを見てください」
――なおきちさんの作品ですか。すごく細かいですね。小さな万華鏡もちゃんと見えるんですね。
牧田「まじですごいなこれは。ちゃんと見える」
――なおきちさんやばんびさんの箱のディスプレイをみてファンになった方も来ますよね。箱主さんではなくて、HONBAKOさん主導のイベントもあるんですか?
牧田「こんな風に早い段階で箱主さん同士のコミュニティもできて、もうほとんど自走している状態が出来たので、次はやっぱり地域に出ていこうとなりました。(2022年)9月23日にはオープンで、11月23日には、この周辺の飲食店さん10店舗を巻き込んでスタンプラリーをやったんです。それがすごい好評やって、その飲食店さんがもっとあんなことをやりたいと言ってくださったんで、3月31日から4月2日までイベントをやったんです。で、この前の通りには名前が無いんですよ」
――あ、ないんですか?
牧田「御陵通りって、よく言うじゃないですか。それはそこの一条通までなんです。浅香山なんたら線というややこしい名前だから、勝手に名前つけたとうと思って、大仙さくら通りという名前をつけて、食べ歩きのイベントを企画したんです。ハニワ部長が来てくれたり、自転車タクシーも。それと大仙公園で花火をあげました」
――花火までやったんですか!
牧田「それも箱主さんに、みんなで私たちの花火っていう風にしたいから、企業からの協賛とかではなく、自分たちであげたいっていう呼びかけすると、キャンプファイヤーとかマクアケのようなクラウドファンディングじゃなくて、私設のクラウドファンディングで、この銀行口座に振り込んでくださいってやって、クリアすることができたんです」
――周辺地域に広がってますね。

 

▲大仙さくら通りの食べ歩きイベントのボードを手にしたHONBAKOの代表取締役牧田耕一さん。

 

牧田「それだけじゃなくて、社協や大学生との連携もすすめています」
――大学というと?
牧田「公立大学です」
――あ、もと府大の。
牧田「本箱の一番上の段は、なかなか利用しにくいので、そこを使って何かできないか、大学生と打ち合わせをはじめているんです」
――このHONBAKOを起点にまた広がっていくというのが面白いですね。非常に展開のスピードも早いですが、当初からそこまで考えておられたんですか?
牧田「コミュニティを作るということと、地域と連携して何かというところぐらいまでは考えていました。そこから、今は読書を起点にしたアプリを一緒に開発しましょうとか、メタバースってありますよね? 堺市さんと一緒にメタバース空間を作ったMetaSAKAIさんという企業があるんですけれど、そこの方も来てくださって、一緒にメタバース上でこんなん作りましょうかという話があったり」
――ネット空間にまで広がっているじゃないですか。
牧田「ネットといえば、月に一回インターネットラジオで、HONBAKORADIOっていうのをやっています。泉南にいこらもーるというショッピングモールがあり、その中にいこらじおというラジオステーションがあるんです。そこに僕と店長が行って、箱主さん一人ずつゲストでお招きさせてもらって、一時間番組で箱主さんのこだわりの本とか、その本を選んだ理由とか、そういった人生を送ってくられたかを聞くっていう番組をやっています。今、二回目までの分、youtubeにアップされています」
--独自メディアで発信力も身に着けたってことですね。

 

 

コミュニティを起点として、地域へ、そしてネット空間へと広がっているHONBAKO。これだけ広がっていくのは、やはりHONBAKOのコミュニティの魅力があるのでしょう。インタビュー中の店内での楽しそうな雰囲気でもそれがうかがえます。そして、このコミュニティに関わることで、ポジティブな変化が訪れているのは箱主さんだけではないようです。次回は、店長の中道さんに起きた変化、そして町から本屋さんが次々と消えていく中でHONBAKOの価値についてお話を伺います。

 

(→第三回へ続く)

 

シェア型書店HONBAKO
堺市堺区大仙中町8−2
https://honbako-cafe.com/

 


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