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シェア型書店 HONBAKO(3)

 

御陵通から一条通を越えて大仙古墳に向かう坂道を、シェア型書店HONBAKOの代表取締役牧田耕一さんは、「大仙さくら通り」と名付け、近隣の飲食店を巻き込んで食べ歩きイベントを開催しました。桜咲く春の3日間にわたり行ったこのイベントでは、箱主さんたちと力を合わせて花火まで打ち上げました。HONBAKOの開店は、2022年の9月23日。一年もたたない間に、箱主のコミュニティを築き、それをベースに地域との連携や、大学生とのコラボ、企業とのネット空間でのコラボまで始まろうとしています。
これまでの記事(第一回第二回)に引き続き、まずは牧田さんと共にこのHONBAKOの快進撃を引っ張る店長中道尚美さんにお話しを伺います。

 

■諦めずにいれば広がる世界がある

▲店長の中道尚美さんとオーナーの牧田耕一さんの名コンビ。

 

――牧田さんは子どもの頃からのあこがれから路面へ出たいという思いがあってHONBAKOをオープンさせたとおっしゃっていましたが、中道さんの場合のモチベーションはどういったものなんでしょうか?
中道「いまここでお仕事させていただいているんですが、その前の前ぐらいの時に、小学校の図書館で司書をしていたんです。それも子どもが生まれて絵本の世界に魅せられたとことがきっかけでした。絵本の世界がすごく好きで、子どもが出来てから、図書館司書の資格をとったんです。最初は司書の仕事を七年ぐらいかさせていただいてたんですけれど、ボランティアの側面が多く子どもに教育費がかかるような時期があって、その仕事を辞めて違う仕事についたんです。それから、そのあとまころ企画さんにお世話になっていたんですけれど、この新しい事業でシェア型書店をやるとなった時に、また本に関わる仕事ができるって思ったんです」
――ひょんなことから夢だった本の仕事に再び関われるようになったんですね。
中道「もうひとつ私が運命的だと思っていることがあるんです。私は、子どもの頃はこの裏手にある大仙小学校、旭中学校に通っていて、HONBAKOの隣にあるお店は、私が高校生の頃は喫茶店やったんです。高校生の時には市立図書館に勉強しに行くって親に嘘をついて、そこの喫茶店でお茶飲んで友達とずっとしゃべっていたという」
――思い出の場所の隣で自分の夢だった仕事についてるなんて。

 

▲セルフカフェの機能があるHONBAKOには、中道さんこだわりの商品もいろいろ。こちらは人気のオリジナル栞。紙カフェ製です。

 

中道「私は結構な年になります。まころ企画さんに入った時も、全然違う業界にポンと入って、でもそこから人生が変わった。それまでは、もうできひんかなって諦めるような所があって、石橋を叩いて叩いて叩き割るような」
――割るんや!
中道「ほら、割れたでしょうっていうような性格だったんですけれど、まころ企画に入って、オーナーがすごい行動的だったし、先ほども話があったように、まずやってみないとわからんやんという所でお仕事をさせてもらうようになって、まずポンとやってみようという風に変わったんです。そうしたら、学生時代の友達が昔とは違う私の姿に驚いて声をかけてくれたり、同世代の方が頑張っている姿を見てすごい励みになるといってくれたりしたんです。子育てをしていたころは、私自身もすごいしんどかったけれど、あきらめずにいればまた違う世界が広がるよ、人生がすごい豊かになることがあるよって、お伝えできたらいいなと思うんです」
――人生が豊かになるきっかけがここにあるんですね。
中道「先ほど来ていたご夫婦の箱主さんもそうなんですけれど、最初はここに通っていたんだけれど、店番をしていた箱主さんにやってみたらって勧められて、じゃあやってみようかなっていう風になって。そんな風にここが、そっと背中を押す場所になってるんじゃないか。本との出会いもうそうだし、人との出会いも。私自身がそうだったように」
――このお店で店長をされている中道さん自身が、ひとつの先行事例、ロールモデルでもあるようですね。

 

 

■本屋には可能性がある

 

――中道さんと箱主さんの関係を見ても、地域や行政、他の企業まで巻き込んでいくお話を伺っても、この短い期間でここまでこれたというのは、すごい事だと思います。オーナーの牧田さんご自身は、その要因はなんだったと思われますか?
牧田「それこそ、最高顧問のなぎらさんであったり、(つーる・ど・堺の)松永友美さんであったり、この辺のキーマンと呼ばれてる人たちが最初に入ってくださったんですよ。その人たちが入ったから、周りもわっと入ったっていうのが、一番最初にスピーティーにいったのは大きかったと思います」
――まずは人を呼ぶ人が来てくれたんですね。
牧田「あとは、シェア型書店って、初めに吉祥寺でブックマンションさんが始まったのが3年か4年ぐらい前で面白いビジネスモデルだってことで、今全国にちょこちょこっとできつつあるんですけれど、多分ここまでしっかりハードを作りこんで、コミュニティに特化している所ははいんじゃないかな?」
――このお店は有形のハード、無形のソフト、両方セットで場にこだわっていますね。
牧田「そして僕が今48歳かな。箱主さんの年代ももうちょっと上ぐらいの方が多くなるのですが、ある程度人生の酸いも甘いも噛みしめて、なんとなくここで人に優しくじゃないですけれど、心地よくこの場を作っていきたいという人が寄ってくれている。それが相乗効果を生んでいるという感じはそごくありますね」
中道「ここの箱主さんは1か月で3000円ぐらいの金額を払って、箱を借りていただいているんですが、じゃあ売り上げが3000円以上あるかって言ったら、多分ほとんどの方はそこまで売り上げが出てないんですね。言ってみたら、本屋さんをしてもらっているけど収支赤ですよね」
――そうなりますよね。
中道「それでも皆さんがここで本屋さんをしてくれているのは、目に見える金額的なものの価値よりも、ここで得られる目に見えないものの価値を皆さん感じてくださっているということやと思うんです。そういう価値観の方たちが集まってくださったおかげで、すごい繋がりが強いコミュニティができた」
牧田「中にはね、売り上げが立たないからやめますという方もいらっしゃるんです」
――それはそういう判断ですからね。
牧田「それは当然ですよね。でも、今ちょっと少なくなったんですけれど、マックスの時は箱主の希望者が20数人順番待ちっていう状態だったんです」

 

▲コミュニティは出来た。これからは本屋としての充実をはかっていきたい。

 

――それではこの事業、ビジネスとしてはどんな感じなんでしょうか?
牧田「この店舗には上段を除いた箱が108人分あります。上段は、場所が高くて昇ってもらわないとダメなので、怪我とかされると怖いから、学生さん限定にさせてもらっています。その上段を除いた下の108が今完全に埋まっている状態。それで大体トントンぐらいです。家賃払って、光熱費払って、人件費払って。うちとしてはここは広告塔になってもらって、本業にシナジー効果が出ればいい」
――つーる・ど・堺も同じようなところがありますね。
牧田「本業は18年間やってきましたけれど、そこでは繋がれなかった所と、たくさん繋がっています。売り上げとかという面では、最初にたてた事業計画通りには行ってないですけれどね。まだまだダメなところはいっぱいあるなと思います」
――今、町から本屋さんというものが消えていっている状態です。小規模なお店はほとんど無くなって、中規模、大規模な店舗もちょっと元気がなくなって消えていきつつある。だから、今後、直接本に触れる場所ってどうやって町に残るんだろう
牧田「それマジで僕、すごい面白いなと思ってて、本屋さんって大型書店ばかり残ってるけど、大型書店ってそれぞれ特徴あるじゃないですか。同じような新刊を売っててもですね。町にあった本屋さんとか古本屋さんって、やっぱり店主の色が出るそうですね。選書にしても、何にしても、見せ方一つとっても。そういう意味で、すごいレアなものとして残れる可能性をすごい感じています」
――本屋さんには可能性がある。
牧田「だから今僕が課題としてすごい思っていることは、コミュニティはすごい成功しているし、ビジネスとしては思い通りに、こっちのことだけに関してはうまく行ってるけれども、お客さんが10か月もするとリピーターとかも増えてくるんです。一般のお客様が」
――うん。すると?
牧田「そうすると、本屋さんとしての魅了がやっぱり薄いんです。コミュニティを面白がって来てくれる方が多いので、どうしても本屋さんとしては見られ方が薄くなっちゃう。そこはやっぱり手を入れていきたいと思う」
――そうですよね。どうしても個人の趣味的なものの集合になっているから、そうですね。
牧田「自分のやりたい事が徹底している方もいらっしゃいます。でも啓蒙というと、おこがましいのですが、もっとコミュニティとして、ここは本屋さんで、来てくださるお客様に満足を与えていきましょうというところまでもっていきたいんです」
――そこはまだまだこれからバージョンアップできる所。
牧田「そうですね。今、入り口の外に冗談みたいにちっちゃい箱があって、絵本を出してますけれど、あそこももうちょっと充実させていって、数を増やしていって、本屋さんとしての機能も充実させていきたいんです」
――僕はあの表の本箱を見てつい扉を開けてしまった口です。
牧田「本を手に触れられる方はブックオフにもあるし、紀伊國屋書店さんに行けば手にとれるけど、多分ここで手に取る本ってまたちょっと違うと思うんですよね。この一箱一箱がやっぱり人なので。そこがちゃんと言語化されて、特別な体験ができるよっていうところまでメッセージとしてできれば」
――中身の充実はまだまだこれから出来そうですね。
牧田「はい。もっともっと面白くなると思う」

 

▲本箱の中の本箱。まだ若い学生の箱主さんの手作りです。

 

 

シェア型書店HONBAKOさん。オープンから一年もまたずに確固たるコミュニティを作りあげ、そこから地域へ、そしてネットや行政・企業などとのコラボへと爆発的な広がりをみせています。しかし、成長の余地はたっぷりとある。むしろ充実の時を迎えるのはこれからではないかと思わせるお話でした。
本好きならずとも、ちょっと足を運んでもらいたくなる本屋さんでした。

 

シェア型書店HONBAKO
堺市堺区大仙中町8−2
https://honbako-cafe.com/

 


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