ミュージアム

リニューアル! シマノ自転車博物館(4)

 

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2022年3月にリニューアルオープンしたシマノ自転車博物館はどんな博物館なのかを、シマノ自転車博物館のアドバイザー神保正彦さんの案内で見てきました。これまでの自転車の歴史、現在活躍する多様な自転車とその技術、そしてこれからの自転車と社会について、すなわち自転車の過去・現在・未来を知ることが出来る博物館であることがわかってきました。
今回は、どうしてシマノ自転車博物館が堺に出来たのか、堺と自転車の関わりを中心に見ていきましょう。

 

 

■堺は自転車の産業クラスターだった

 

▲自転車ギャラリーに展示されている人力の限界に挑戦した自転車ヒューマン・パワード・ビーグル(1980年/アメリカ)。車体のSHIMANOのロゴがまぶしい!

 

メインフロアーから、同じ2階の吹き抜け空間に隣接した自転車ギャラリーを通って4階へと向かいます。自転車ギャラリーはメインフロアで展示しきれなかったコレクションから、その一部が展示されています。一部といっても、その数は相当数で、かなり貴重なものもあります。1980年に人力だけで時速91.9キロという世界最高速を記録した自転車。下肢が不自由な人のために作られたロードレース用のハンドバイクなど。自転車ファンは、ここでも時間を使ってしまうのではないでしょうか。

そして4階にあがると、「自転車歴史回廊」とのプレートが掲げられています。その一文を抜き出してみると、
「このフロアでは、当館の調査分析・知識普及・啓発事業活動の成果を集約し、展示とライブラリー、デジタルアーカイブで公開しています」
とあります。この博物館は、ただ資料を展示するだけの静的な組織ではなく、上記のような自転車に関する様々な活動をしている動的な組織であり、その成果がこのフロアには集積されているようです。

 

▲自転車歴史回廊にある堺自転車産業史の年表。

 

神保「堺の話をさせていただきます。この堺にどうして自転車がという話です」
――それは楽しみです。
神保「古墳時代から、古墳を作るために金属加工の技術のある人たちが集まっていたようです。中世にも刃物や鉄砲を作る技術をもった人たちがいました。ここに堺の自転車産業史という年表があるのですが、この最後の所ですね。明治時代以降、堺の鉄砲鍛冶の技術をもった人たちが自転車の修理に携わったのです」
――まずは自転車修理からはじまったんですね。
神保「そして他の理由も沢山あったと思うのですが、修理だけでなく自転車の部品を作るようになる。この年表にあるように、色んな職人が自転車の部品に携わるようになります」
――年表にシマノもでてますね。1921年フリーホイールに島野庄三郎がフリーホイールに着手。翌年に月産3000個。他にも色んな会社があったんですね。スポーク、チェーン、ベル……
神保「堺だけで自転車ができてしまう。堺は自転車の産業集積地、いわゆる産業クラスターになっていくんです。その中のひとつがシマノということで、堺が自転車の町になっていくんです」
――非常に堺っぽいですね。鉄砲鍛冶にしても、色んな工房で色んな部品を担当して別々に作ってそれを合体させたそうです。ある学芸員さんから、堺の町一つが大きな工場になっているんだという話をしていただいたことがあるのですが、自転車もそうなんですね。
神保「はい。大正時代にはほぼほぼ出そろいまして、それが1980年代まで続きます。もちろんこの間にも戦争とか色々あったのですが、1985年のプラザ合意がターニングポイントでした。それまでは日本の自転車は、世界の輸出基地として欧米のスポーツバイクを沢山輸出していました。その一角を堺が担っていたのですが、プラザ合意で円が急に高くなってしまって、輸出競争力が落ちていく。この産業クラスタと呼ばれていたものが、特に台湾エリア、その後中国の方に移っていくんです。そういうこともあり、部品メーカーも減っていきます。今後、堺が自転車の町だというのだとすれば、それは自転車を作る町ではなくて、自転車をどう利用していくかというところだと思います」
――そうでしたか。1980年代というと、このあたりの小学校のクラスに必ず包丁関係と自転車関係のお家の子どもがいたような印象がありますね。それがすっかり変わってしまった。
神保「とくにこの辺は町工場が多かったそうですね」

 

■積み上げられていく自転車の歴史

 

▲自転車歴史回廊には、自転車パーツ開発の歴史がつまっている。

 

歴史回廊をさらに進むと、ガラス張りの壁越しに自転車工房を見ることが出来る通路に出ました。この通路の壁は自転車部品の歴史展示となっていました。
神保「こちらは外装変速機の歴史になっています。こんな風にできてきたんだよという。これはDURA-ACE(デュラ・エース)という(シマノの)ブランドなのですが、大体4~5年ごとにモデルチェンジして新しくなっています。ここでお解りいただけるように、ペダルだけとか、ハブだけとか、変速機だけじゃなくて、こういうシステムで作っていく。システムコンポーネンツという思想が、技術・機能とデザインの両方に伝わっていくということになります」
――技術・機能とデザインの両方に、ですか。
神保「自転車部品というのは、数ある工業製品の中でも結構珍しくて、機能部品でありながら、外観部品なんですね。これは自転車ならではのことですね。例えば、車のエンジンとかブレーキというのは、基本的には隠されています」
――そうですよね。開けてみたら綺麗だったということがあるかもしれないけれど、元々から晒されているわけではないですものね。
神保「自転車の特にこういう最高級品というのは、すごく外観、表面処理、形状に気を使って作られています」
――確かに綺麗です。この先は棚が開いてますね。
神保「将来の分をちゃんと確保していますから」

 

▲DURA-ACE(デュラ・エース)の2021年モデル。記事冒頭の写真は1978年モデル。どれだけ進化したのでしょうか。棚は未来の分を空けてまっています。

 

歴史展示通路の角を曲がります。
神保「こちらの部屋はオープンなマルチメディアアーカイブ、見ていただける図書館になっています。基本的には自転車関係の書物、それと堺関係の書物です」
――本当だ。堺関係の本もありますけど、部屋全部が自転車関係の書物というのも壮観ですね。

 

 

▲マルチメディアアーカイブ。自転車専門の図書館になっています。

神保「こうやって自転車関係の書物を並べてみるとそうですね。この書物もいくつかカテゴリーがあって、一つは自転車の歴史ですね。それから、自転車のカテゴリー、ロードレースだったり、トライアスロンだったり、マウンテンバイクだったり、ツーリングだったり、そういう自転車の世界を広げていくもの。そしてその中から出てきた人、英雄だったり」
――自転車のヒーローたちの書物ですね。
神保「それから物語、小説だったり、雑誌や漫画もあったりします。最近では環境とか、交通の話、それから健康の話、そういった本も出てきてますね。これは要するに自転車というものがもっている文化、自転車文化というものがこうやって現れているのかなと思います」
――たしかにこの部屋には自転車文化の豊かさがいっぱいにつまってますね。

 

▲1階に展示されている夏休みこども絵画コンクールの優秀作品。

 

神保「そんな自転車というものを文化にしていくときに、もう一つこの博物館の試みとして、夏休みこども絵画コンクールを30年間やっています」
――30年も!
神保「(パソコンの画面から)こちらは昨年の優秀作品です。1階には実際に展示してあります。『博物館内自転車の写生』『人と自転車の生活風景』『夢の自転車』の三つのカテゴリーがあります。小学生が対象なんですけれども、毎年大体3万点もの応募があるんです」
――3万点! 驚きですね。
神保「ええ。私もびっくりしたんですけれど、でも一人一人のお子さんたちがこうやって自転車の絵を描いているってことを想像するとね。この絵画コンクールを通して、一人一人に自転車というものを見てもらう、考えてもらう、そういうきっかけになっているのかなと思いますね」
――いい試みですね。
神保「もう一つありまして、『こんな自転車ほしかってん! コンテスト』というのがあるんですよ。こんな自転車があったらいいよねというのを、実際に企画してもらいます」
――本格的な企画書を子どもたちが書いてくるんですね。
神保「これも結構長くやってまして、一番古いやつは……2008年ですね」
――15年にもなるんですね。こういった企画力や感性をもった子どもが将来、シマノさんでお仕事をされて開発したパーツが、あの歴史回廊に展示されたりすると面白いですね。

自転車が誕生して200年。シマノ自転車博物館に展示されている多様な自転車は、私たちの社会の隅々にまで自転車は浸透していることを教えてくれました。そして、子どもたちの描いた夢の自転車は、こんな所でも自転車は活躍できるよという可能性を示してくれているようです。これから先、きっと実現する自転車も出てくるでしょうね。
さて、次回はシマノ自転車博物館シリーズの最終回です。

 

第五回へ続く)

 

 

シマノ自転車博物館
住所:〒590-0073 堺市堺区南向陽町2-2-1
電話:072-221-3196
web:https://www.bikemuse.jp/

開館時間: 午前10:00~午後4:30(入館は午後4:00 まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は火曜日)、年末年始

 

 

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堺ステージ公式サイト

 

 

 


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