ミュージアム

リニューアル! シマノ自転車博物館(1)

▲自転車の原点ドライジーネ(1817年/ドイツ)のレプリカ。

 

自転車、便利ですよね。
ちょっとしたお出かけや通勤通学といった普段使いに自転車という方や、ロードバイクやマウンテンバイクが趣味という方、それに配達や営業に自転車という方もいるでしょう。私たちの暮らしの隅々にまで浸透しているのが自転車です。
2022年3月、堺の玄関口である堺東に「シマノ自転車博物館」が、リニューアルオープンしました。シマノといえば堺発祥の世界的な自転車のパーツメーカーです。そんなシマノの名前を冠した自転車の博物館とは一体どんな博物館になったのか、取材にいってきました。

 

■自転車は自由な乗り物

 

▲堺東に出現した白亜の博物館、それがシマノ自転車博物館です。

 

南海高野線「堺東」駅から、駅前の大通りを北へ徒歩数分という好立地に「シマノ自転車博物館」はあります。白いキューブのような外観で、一階は全面ガラス張りになっておりエントランスにクラシック自転車が展示されている様子が見て取れます。
今回はシマノ自転車博物館のアドバイザーの神保正彦さんに案内していただけることになりました。

――昨年リニューアルオープンされましたが、その理由は?
神保「以前は、大仙公園に隣接して自転車博物館サイクルセンターがあったのですが、開館が1992年ということで、そろそろリニューアルをということになったんです」
――展示スペースもかなり広くなったようですね。案内していただけますか?
神保「一階のエントランスは、フリースペースになっています。こちらは後で観ていただくとして、まずはこちらへ」

チケットのQRコードを改札でスキャンするとゲートがオープン。神保さんは、ゲートを入ってすぐの壁に掲げてある大きなプレートの前で立ち止まりました。
神保「まずはこれを見てほしいんです。自転車の博物館ということで、自転車ってなんやねん? 今更言わなくてもわかってそうですが、色んな方が来られますので、この言葉を書かせていただきました」
プレートには、まずシンプルに「自転車とは What is a Bicycle?」という問いかけが書かれています。

神保「自転車はヨーロッパで生まれました。英語でいえばバイシクル、フランス語でいえばヴェロ、バイシクルの意味は二輪車、ヴェロの意味は速度。ドイツ語ではファールラートといいますが、これも車輪を動かすということで、割と機能的なネーミングになっています。それに対して日本では、なぜか自転車と名付けられて、中国なら自行車ですが、二輪や三輪とか速いとか遅いとかではなく、自らが動かす車という、自らとの関わりが言葉の意味には含まれているなと思うんです。自分の力で進み、行きたい所に好きなペースで行ける。つまり自分の自由なのが、自転車じゃないか。そんな概念をここに来た方と共有したいなという気持ちをこちらに表しています」
プレートには、「自転車とは」に続いて「自分の力で進み 行きたい場所へ好きなペースでいける 限りなく自由な乗り物 自転車」と掲げられています。
このプレートの向いにはシアタールームがあり、「自転車の誕生と歩み」という10分ほどのムービーを観ることができます。こちらのムービーは内容がコンパクトで分かりやすいこともさることながら、アニメーションのクオリティが高くてやたらおしゃれでうならされました。2階のメインフロアーの展示を観る前に、ぜひ観ておいて欲しいですね。

 

■自転車が語りかけてくる

▲2階メインフロアーの歴史ゾーン。ゆったりとした間隔で貴重な自転車が展示されています。

 

神保「2階のメインフロアは、ABC三つのゾーンになっています。まずはAゾーン。自転車のはじまり、歴史ゾーンですね」
――扇状の広いスペースにクラシック自転車が展示されていますね。
神保「普通の博物館だと、説明のパネルがいっぱい書いてあって、それが並んでいるような所が多いのですが、そういう説明は全部ここに設置されているタッチパネルで観ることができます。詳しく、さらにもっと詳しくという項目があって、詳細な説明を観ることができるようになっています」
――すっきりした展示になっていますね。
神保「はい。ノイズレスというコンセプトで、自転車もこのスペースにいっぱい並べるということではなく、割とゆったりと贅沢に展示しています。美術館のようにというと、ちょっと大げさかもしれませんが、私たちの展示の考え方は、特に歴史展示では、200年前、19世紀のたたずまい、それを作った人たちの思いみたいなものを噛みしめてもらおうと、このようなコンセプトになっているんです」
――なるほど。この展示からは、美術品に対するようなリスペクトが感じられますよ。
神保「ええ。所蔵している自転車は沢山あるので、もっと沢山並べてもいいのですが、実際にそのコンセプトの議論をつみかさねてきました。出来上がってきた建物に実際にこうやって自転車を置いてみると、自転車が語りかけてくるように感じるんですね」

 

▲ドライジーネ(写真は記事冒頭)の誕生から40年。はじめてペダルがついた自転車ミショ―(1861年/フランス)。

 

――最初の自転車は200歳ですか。生きてるどんな人間よりも、もう大先輩ですよね。
神保「こちらが最初の自転車です。1817年、ドイツのドライス男爵が作ったドライジーネです。ペダルは無くて足で地面を蹴って進みます。それが1861年にパリの馬車職人ピエール・ミショーがペダルをつけます。これで初めて地面から足が離れます。ペダルをこいで動いていくのですが、乗り心地は悪かったようです」
――足が地面から離れるのに40年以上かかったんですね。
神保「それがイギリスに行って、もっと早く走りたいということで、こういう大きな車輪のものが生まれます」

 

▲スピードを追求して前輪が巨大化したペニーファージング(1870年/イギリス)。日本ではダルマ自転車で知られている。車高が高くなったため、事故で怪我を負いやすく安全性に問題があった。

 

――いわゆるダルマ自転車。クラシック自転車といってイメージするのはこのタイプですよね。
神保「乗るのが大変だったし、危なかったようです。そこで、もっと安全に走れるようにということで、こちらにある2台のような形が出てきました。ひとつはこちらのカンガルーです。チェーンとギアで、ペダルを1回転させると車輪が1.5回転します」
――前輪が少し小さくなりましたね。早いし、ちょっと安全。
神保「ヒルマンという人が作ったのですが、それまでの形にとらわれすぎてました。それでもう一つの解決策がこちらです。車輪を左右に配置して倒れません、転びませんので、安全ではあるのですが、自転車の進化の中では本流にはならなかったんですね。なんでかというと、やはり重たくなってしまう。コストもかかるってことなんです」

 

▲安全性に取り組んだカンガルー(1887年/イギリス)。ギアを装着して速度を増し、前輪を小型化した。

 

――どうしても高価になってしまう。
神保「ただ、この四輪自転車で開発された前輪操舵のラック・アンド・ピニオンシステムや、カーブを曲がる時に左右の車輪の回転差を吸収するディファレンシャルギヤの技術は、今の自動車にも使われているほどです」
――この四輪自転車から、自動車が生まれていったんですね。
神保「これは自転車のミニマルパーソナルモビリティという意味では本主流にはならなかったんですけれど、別の乗り物の別の方向性にはいったんです」

 

▲コストがかかるため普及しなかった四輪自転車ロイヤルサルボ(1880年/イギリス)だが、自動車へと発展した。

 

200年前にドイツで産声をあげた自転車。時に遠回りしながらも、ペダル、チェーン、ギアと重要なパーツが発明され、その成果は自動車や飛行機といった乗り物へとつながっていきます。次回の記事では、いよいよ決定的なモデルが登場します。

第二回へ続く)

 

シマノ自転車博物館
住所:〒590-0073 堺市堺区南向陽町2-2-1
電話:072-221-3196
web:https://www.bikemuse.jp/

開館時間: 午前10:00~午後4:30(入館は午後4:00 まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は火曜日)、年末年始

 

 

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