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パンゲアと黄金の南蛮船

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コミュニティカフェ・パンゲアは旧堺港沿いのカフェです。ヘルシーなメニューやキッズルームがあり子育て世代には人気で、先日は堺ではじめての「子ども食堂」が開催されました。
カフェの港を一望できるテラスは、冬は寒すぎて使えずシャッターで閉ざされているのですが、この春にシャッターが開くと以前と様子が変わっていました。金色に塗られた木の構造物がテラスを包むように作られていたのです。
これは千葉県在住のアーティスト中村岳さんの作品です。かつて堺に黄金時代をもたらした南蛮船をモチーフにしており、港の対岸から見るとパンゲアに南蛮船が横付けされているように見える一方、テラスからの展望は遮りません。作品名は「遡及空間」、2016年3月に開催された「さかいアルテポルト黄金芸術祭2016」で製作展示され、芸術祭終了後もそのまま残されることとなったのです。
7月某日。オーナーの湯川まゆみさんと、久しぶりに来堺してパンゲアを訪れた中村さんに、カフェと作品についてお話を伺いました。
■パンゲアとの出会い 
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▲港の倉庫を改装したコミュニティカフェ・パンゲア。南海本線「堺」駅から徒歩5分ほどです。
--芸術祭では、作品の展示場所としていくつか候補があったそうですが、パンゲアを選ばれた理由はなんでしょうか?
中村「堺市市民交流広場や空き家などを下見しましたが、他の建物は完成されている。パンゲアは人の出入りや季節の移ろいがあった。海の近くの境界線にあって、ある種の自由さを感じました。歴史的に見ても海沿いや河原は、アウトローや芸能民が仮設の建物や一時的な市を建てた場所です。僕の作品のテーマは、架空の建物、建築物を作っていく。きちっとした建築物というよりは、河原小屋や仮設、バラック、アジア特有のものに近いんです。隙間を探しながら、絶妙なバランスで成立していくものです。また、ここ(旧堺港)は堺の人たちにとってもシンボリックな場所であるという面白さもありました」
--中村さんのテーマに一番響く場所だったんですね。では、湯川さんは、なぜお店に現代アートを置くことをオーケーされたんですか?
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▲堤防から作品を撮影する中村岳さん。

 

湯川「直観でオーケーしました。実は私は元々現代アートには苦手な印象があったんです。ですが朝岡あかね(さかいアルテポルト黄金芸術祭アートディレクター)さんが、『わけがわからないアートは無理にわかろうとしなくていい。世の中にはわけがわからないものがあるんだと教えてくれる』とおっしゃったのがすごく腑に落ちたんです。世の中、全部を分からなくてもいいんだなと思った瞬間にアートに対する敷居がぐっと低くなりました。わからんけど、カッコいいとかでいいじゃないかって思えるようになりました」
--現代アートへの接し方が変わったんですね。
湯川「(パンゲアの)お客様に対しても投げっぱなしというのが楽でした。美術館だとその作品に対してどうしても説明を求めてしまいます。でも、答えが無いから色んな感じ方があっていい。分からないと言ってしまっていい」
中村「そうなんですよ。美術館やギャラリーの鑑賞者は専門家という前提があった。地域アートはそうじゃなくて、色んな人に見てもらうことで、かなり裾野が広がった。地域アートにもダメな部分もあるけど、美術館では敷居の高さに感じさせてた部分が弊害になっていた」
--まちアートの経験豊富な中村さんですが、今回の作品も場所とマッチした作品ですね。
中村「現代アートは、本来は違和感を感じさせるものだと言われるのですが、でも僕はそうしたくない。ありのままの延長で作品があったら面白いというのがテーマにあった。今日もテラスでは梅干しが干してあったりするのも面白くて、そのまま自然な形で作品が引き継がれた。お店のコンセプトと合っていると思います」
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湯川「お客様も作品だと気づかない人もいるぐらい自然に馴染んでいて違和感がありませんね。でも、これは中村さんには以前お伝えしたんですが、偶然お店にこられた外国人のお客様がテラスでコーヒーを飲んでいて作品に気付き、『これは中村さんの作品ですか?』って聞いてこられたことがあったんです」
--え? 中村さんの作品が置いてあるとわかって来店されたんじゃなくてですか? すごい偶然ですね。
中村「僕がたまたま中国で知り合ったジェリーさんですね。日本が大好きな欧米人で音楽家なんです。気があって、僕は英語もそんなに得意じゃないから、お互いもどかしいけど一所懸命交流してる仲なんです」
--ジェリーさんは一目見て中村さんの作品だとわかったんですね。湯川さんは、完成した中村さんの作品を見てどう思われましたか?
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▲コミュニティカフェパンゲアのオーナー・湯川まゆみさん。

 

湯川「すごいのが出来たなぁ(笑) 想像してたよりはるかに大きかった」
--そのすごい作品を会期終了後も残すことにされた、その決め手は何かありました?
湯川「そもそも残すとは思ってなかったんですが、もっと長期間置くものだと思っていたんです。だから、置いてくれるならいいやんと思って」
■まちとアーティストに起きた変化 
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芸術祭では中村さんだけでなく、多くのアーティストがパンゲアを作品制作の拠点(アーティストインレジデンス)とし、パンゲアのスタッフやお客様とアーティストとの間には交流が生まれました。直接アーティストと触れ合ったことも、作品を置く決め手になったようです。
湯川「アーティストの皆さんがみんなめっちゃ自然体で、人柄のいい人たちばかりで。日常的にアーティストと触れることはあまりなかったので、こういう人たちがやっていることなんやと思って、それでいい思いをさせてもらいました」
中村「柴辻(石彫家の柴辻健吾さん)なんか、どこに行ってもムードメーカーですよね」
湯川「柴辻さんはずっとお店の隣りの空き地で作品を制作していて、よくお客様を制作現場に案内したんです。『僕はかまいませんから』とおっしゃるので」
--柴辻さんはまちの人との交流をまちアートにおけるアーティストの使命だからと望んでおられましたし、そんな交流やパンゲアのスタッフの方にも随分良くしていただいたことが作品制作の活力になったそうですね。
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中村「思えば(アーティストが利用したパンゲアの2階スペースの)キャンプが、芸術祭の一番の作品だったかもしれないですね(笑) 散らかっていると朝岡さんが血相を変えて片付けに来たり」
湯川「今回のように中村さんがまた来てくれるきっかけにもなったり、不思議なつながりが出来た。それも面白かったですね」
中村「僕が面白かったのは、関わっている人たちの考え方が変わっていく、柔軟になっていったことですね。たとえば実行委員会で『ギャラリーいろはに』のオーナーの北野さんも、ギャラリストとして型にはまっている所があったと思うんですよ。それが会期終了後の後片付けの頃には、片付けそのものを楽しんでいる風にも見えて、だいぶ柔軟になったなと感じました」
--中村さん自身は、堺で作品を作ったことで何か変化はありましたか?
中村「ずっと参加している(京都の)木津川アートもそうだけど、拠点みたいなものが出来ました。僕は色んな所に行くのが好きなんです。束縛も好きじゃないし、一人でいるのも好きだけど、寂しくないかというとそうじゃなくて、おしゃべりだし、旅先で知り合った人と話したり。でも、自分を知ってもらうのは作品しかありません。堺の作品は今までの作品の中で珍しいぐらい、自分の作品がこの先どうなっていくのかを見ていけるのが刺激的です」
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▲天気のいい日はアートに包まれてパンゲアでカフェタイムを。
中村さんの来堺は、海沿いの野外に置かれた作品ということもあり、安全面からも作品の状態を確認するという目的もありました。完成から半年近くを経た作品でしたが、まったく大丈夫とのことでした。
すでに長年ずっとパンゲアにあったかのように馴染んでしまった中村さんの作品「遡及空間」。作品ごしに見る港や、港のシンボル龍女神像も魅力を増して見えるよう。季節が移ろう中で、作品に切り取られて様々な顔を見せてくれるでしょう。この作品は今後も末永くパンゲアで楽しむことが出来そうですね。
コミュニティーカフェ・パンゲア
営業時間:火曜日:12時~18時
水木金土日:11時~18時
定休日は、月曜日
〒590-0895 堺市堺区戎島町5丁9番
TEL:072-222-0024
e-mail:info@pangea-sein.com

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