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紙カフェ&ホウユウ 七まちへ移転! 新たな文化発信拠点”邦悠”に!

 

紀州街道は、大阪の高麗橋に端を発し、古い堺を南北に貫いて、和歌山に向かって一路南へと向かう街道です。この街道を下り、大和川を越え、かつて環濠で隔てられていた堺の古い市域にはいってから、七つの町を“七まち”と称します。堺の中でも、特に職人の密集した区域で、かつては鋼を打つ槌音に機織る音が絶え間なく響いていたことでしょう。
2022年、そんな“七まち”に、つーる・ど・堺の母体であるホウユウが新社屋「邦悠」を建て、移転しました。紀州街道が阪堺電車の軌道と交わる直前の、綾之町電停より目と鼻の先。空の広々とした通りに面した新社屋は、町家をイメージした和風建築です。1階には「紙カフェ」が、2階には本業の印刷事務所、そして離れにはレンタルスペースにもなるゲストハウス「知輪」と、これまで分散していた機能がぎゅっと凝縮した形。ファサードには、木製の看板で「邦悠」「紙カフェ」「知輪」の名が掲げられています。
さて、どうしてこの時期に新社屋への移転が行われたのか、社長の田中幸恵さんに話を伺いました。

 

 

■堺らしいエリアへの移転

 

▲ホウユウ株式会社の田中幸恵社長。

 

――どういう経緯があって、新社屋へ移転したのですか?
田中幸恵「もともとはインバウンド華やかし頃の話なんです。その頃、山之口商店街にあった紙カフェでやっていた着物を着ての町歩き『知輪』が好評を博していました。そこで専門スタッフに来てもらって、本格的に着物町歩きをやろうと考えたんです。さらにインバウンドに対応してゲストハウスをやろう。やるならこの綾之町のある七まちエリアだと目星をつけました」
――七まちは、堺大空襲から焼け残ったこともあって、昔からのものが沢山残っているエリアですものね。
田中「そう。私たちは堺、堺と言っているんですが、実は堺の人が堺のことを一番知らない。堺の人にもっと堺の事を知ってほしいと思っていました。しかし、(旧社屋のあった)海山町だと来てもらっても、堺らしいものがあるわけではない」
――海山町のあたりは基本的に大きな工場と住宅地ばかりのエリアですからね。
田中「そうそう。なのでこの辺と思って探してたらあったのよ。土地が」
――ぴったりの場所に。もともとは何があったんですか、ここ?
田中「もとは介護のデイサービスか何かの施設があったんじゃないかな。長く使ってなかったみたいで。ずっと昔は、ハイパーヤングっていう小さなスーパーみたいなお店があったと思う」
――あーありましたね。かなり昔の話ですね。この界隈に市場があって、活気がありました。

 

▲2階の「町の印刷屋さんホウユウ」の事務所スペース。

 

田中「それで設計も終わって、建築にかかろうかという時にコロナ禍になってインバウンドどころじゃない。ゲストハウスオンリーはないな、なんとかお金を稼げる施設にしないといけないということにもなって。じゃあ、本社を移したらええやんとなってん。何しろ、海山町(の旧社屋)は、1階2階合せて198坪もあって、社員十数人には広すぎた! 無駄に広いものだから荷物も増える一方やし、人数に合わせた場所にしようと、本社をこちらに移し、1階を店舗に、ゲストハウスは離れにということにしたんです」
――こちらに移転して、どんな感触ですか?
田中「ともかくご近所さんのウェルカムぶりには驚かされました。ご近所の方がすごく喜んでくれて、お向かいのスナックのママさん、同じ並びの服屋さんも、お客さんを引っ張ってきてくれて。皆さんフレンドリー」
――なるほど。この辺りは、特に下町的、庶民的でご近所の距離感も近いエリアかもしれませんね。では、いよいよお待ちかね。店舗とゲストハウススペースを案内していただけますか?
田中「一階へ行きましょうか」

 

 

■新生”紙カフェ”は気軽に立ち寄れるセルフカフェ

 

 

▲堺もの、紙ものを中心とした物販スペース。

 

――一階。表から入ってすぐは、物販スペースですね。ざっと見たところ、山之口商店街に合った頃の紙カフェ同様紙ものが多そうですが、おすすめなどありますか?
田中「今はアクセサリー系かな。こちらの古墳のアクセサリーとか。人気なんだけど、マニアックすぎるのもあって」
――前方後円墳以外にも色々ありますね。四隅突出形墳のイヤリングとか、マニアックすぎますよ! 誰向けのラインナップなんですか(笑)
田中「すごいやろ。それでこっちは、古墳友だちの大江畳店さんの畳の縁を使ったアクセサリー」
――以前取材させていただきました。これは可愛いんですよね。
田中「これからもっと堺モノにこだわって商品をそろえていく予定です」

 

▲大江畳店さんのアクセサリーブランド「classica」の畳の縁素材を使ったアクセサリー。これも古墳柄ですね。

 

――それは楽しみですね! で、スウイングドアの向こうは新生紙カフェですか。和空間は同じでも旧紙カフェと印象は違いますね。
田中「前の紙カフェは商店街でアーケードがあったせいか、落ち着いた印象だったでしょう」
――ここは、すごく光が差し込んで明るい印象ですね。内装がどれもえらくこだわってるように見えますよ。
田中「そう。表の看板も、この机も日根野屋さんにお願いしてん」
――おお、日根野屋さんも取材させていただいたの10年も前ですが、素晴らしい木工職人さんでした。
田中「この椅子も座ってみて。これはフランスのデザイナーの作品だけど紙製で、紙とは思えない座り心地。実はこの蓋をのっけてるだけなんよ」
――紙カフェの名にふさわしいですね。デザイン的にもシンプルに洗練されてて、和空間に置いて違和感ないです。

 

▲新しくなった紙カフェ。この奥の離れにゲストハウス『知輪』があります。昔の堺の町家がどれだけ奥に深かったか良くわかりますね。

 

田中「奥の座敷はもちろん大江畳店さんにお願いしてます」
――居心地良さそうですね。ちょっとした商談やミーティングにも良さそうです。ここはセルフカフェということで、お金を払って自分で飲み物を淹れて、ちょっとしたお菓子とかもおいてるんですね。
田中「今日は宝泉菓子舗さんの古墳焼を置いてますが、宝泉さんのいちご大福も置きたいです。紀州街道沿いでケータリングもしているオドルヨウニさんの焼き菓子、カヌレなんかもぜひと考えていて、たとえば今週は宝泉さん、次はオドルヨウニさんといった具合に、色んな堺の味が楽しめるようにしていきたいねん」
――なるほど。このあたりって、観光地でもあるのに、カフェスペースが少ないですものね。通りを歩いている方がふらっと立ち寄って、堺の方も、外から来られた方も、堺の味が楽しめるカフェというのはいいですね。
田中「そうそう」

 

▲深い群青色の畳が美しい座敷スペース。

 

――この対面の部屋はなんですか? ガラス窓越しに作業場らしき所が見えますけど。
田中「これも見てもらおうか。この機械がフードプリンターなんよ。クッキーとかにプリントすることが出来る印刷機。前は会社の片隅でやってたんだけど、せっかくなのでうちの仕事をお客様にも見てもらおうと思ってね」
――おお! 手打ちうどんの実演みたいですね(笑)

 

■七まちの新しい文化発信拠点に

 

▲紙カフェの奥にある離れゲストハウス”知輪”へ。

 

――この奥に、さらにゲストハウスになってる離れ『知輪』があるんですね。本当に奥に長いウナギの寝床、昔の堺のおうちですね。この離れへの入り口がもう素敵な空間ですよ! お部屋は何部屋あるのですか?
田中「四人泊まれる部屋が二部屋あります。まずは一階の檜の部屋『綾之(あやの)』を案内しましょう」
――おお、綺麗な和室。とても柔らかくて暖かいイメージのお部屋ですね。
田中「こっちの部屋は、中庭が楽しめるのがウリなんよ。月蔵寺って知ってる?」
――もちろん。あの柳之町寺町筋にある、お庭を綺麗にされたお寺ですね。

 

▲暖色に包まれた部屋『綾之』。

 

田中「月蔵寺の娘さんと若い庭師さんが組んでやられてるんだけど、そこの庭師さんがこだわりまくってくれて、石も兵庫県から持ってきてくれてね、あの平らな石を舟石と名付けてくれたんよ。あの舟石が大きな石の間を通って大きな海へ出るという景色やねん」
――堺らしい見立てで、ホウユウの船出を祝ってくれてるようでいいですね。
田中「それから、春夏秋冬、ずっと花が咲くように、色んな植物を植えてくれてるねん」
――なるほど、日本の四季を楽しめるわけか。ここに座って庭を見てるだけで楽しくなりますよ。

 

▲堺の四季が楽しめる庭。

 

田中「2階は杉の部屋『御陵(ごりょう)』です」
――あ、扉を開けた瞬間、匂いが全然違う。鮮烈な杉の香りです。
田中「部屋のイメージは、こちらが男性的で、さっきの檜の方が女性的です」
――イグサの畳の緑が、御陵さん(大仙古墳)をイメージさせますね。床も立派なしつらえだ。
田中「この床柱は桜の木なんですけれど、こんなまっすぐな桜の木はなかなか見たことがないでしょう。このゲストハウスは週末中心に埋っていくので、平日はイベントにも使えるレンタルスペースとして活用していきます。ここで落語をしたりとかね」
――お、このふすまもすごいイイ。
田中「庭師の方もそうなんだけれど、大江畳店さんの仲間で中野表具店さんの職人さんがこだわってやってくれたんよ」

 

▲杉のかぐわしさも楽しめる2階『御陵』。

 

――どこもかしこも職人の手による本物ばかりの空間ですね。ここ最近は外国人向けのゲストハウスなんかでは、なんちゃって和風的なものがすごく多くて、本当に残念だなという気がしてましたから、とても新鮮に感じます。
田中「京都でもそういう所が多いもんね。新社屋『邦悠』は職人さんたちが、すごいこだわってやってくれてね。実は、ご近所のあをい屋の辻くんにも一働きしてもらう予定なんです。表に自販機を置くんだけど、それに木製のカバーをつけてもらおうと思ってる」
――何度も取材させていただいている建具職人の辻さんですね。また良いものが出来そうですね。しかし、つーる・ど・堺でも取材させていただいたことのある職人さんたちが結集して、すごいものが出来上がった感がありますね。
田中「そうそう。これまで関わってきたご縁を活かしまくってます」
――昔から堺人は建物に凝ると言われていて、まさに建て倒れの堺の面目躍如といった所ですが、ここまで凝るのは何か理由があるんですか?
田中「堺市も観光に力を入れていて、七まちは景観保全地区になって、観光の重点エリアになっています。昔からの建物も残っているけれど、その価値についてどれだけの人が認識しているでしょうか。私らがこだわっていくことで、ご近所の人たちにも意識が浸透していくんじゃないかと思っているんです」
――地域の古いものには価値がある。大切に継承していこうという意識が強まればいいですね。そういえば、海山町の時には、ペーパーフリマがご近所の方にも評判でしたけれど、綾之町ではどうするんですか?
田中「紙と印刷のイベントはするけれど、ペーパーフリマよりもっとマニアックで少人数対象のものになると思います。紙屋さんに日本の紙について語ってもらったり、印刷屋が自社で作ったオリジナルグッズの展示販売とかね」

 

▲邦悠を拠点に活躍する2人。田中幸恵さんと、”友蔵”として知られる妹の松永友美さん。

 

――新社屋はコンパクトに無駄をそぎ落とした分、イベントもより深く濃くなっていきそうですね。
田中「『邦悠』には、紙カフェの10年間で培ったものが形を変えて生きています。一端集大成して、またここからはじまる。我々がこうしたいと思った妄想も、訪れる人の妄想も実現する場所にしていきたいですね」
――なるほど、これまでも、最初は自分でも欲しくなるような紙もの雑貨を作っていたのが、堺にこだわったイベントをしたり、他業種の方々とコラボレーションしたりと、どんどん夢を実現してきました。『邦悠』移転も、ただ移転したというだけでなく、大きな夢の実現でした。さらにこれからは『邦悠』が新しい文化の発信拠点へとなっていくことが予感できますね。今後の10年先、20年先が楽しみですね。

誰もが立ち寄れる場所となった新社屋『邦悠』。今のところ1階の『紙カフェ』は年中無休で営業する予定とのこと。これまでの紙カフェファンも、ちょっと興味を持ってくださった方も、ぜひ1度足を運んでくださいね。ひょっとしたら、あなたの夢や妄想が、そこで叶う出会いがまっているかもしれませんよ。

 

ホウユウ株式会社
〒590-0925 堺市堺区綾之町東1丁1−8
TEL:0722278231
web:https://for-you.co.jp/

 


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