「子ども食堂」から広がる波紋(8)

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子どもたちの貧困が深刻な問題となる中、すっかり認知されるようになった「子ども食堂」は堺市内では急速に数を増やしています。その理由の一つは、堺市独自の取り組みである「さかい子ども食堂ネットワーク」の後押しがあげられます。
社会福祉法人堺市社会福祉協議会が「さかい子ども食堂ネットワーク」の事務局を運営しており、わずか一年ほどで8団体から25団体まで堺市内の子ども食堂運営団体は増加しました。では、この「さかい子ども食堂ネットワーク」を後押しした、堺市の行政は一体どんなきっかけや意図があってこの事業を企画したのでしょうか。
ビル風の強い冬の日、堺東駅のほど近くにある堺市役所を訪れて、担当部署の方にお話をお聞きしました。
■先駆けてはじまった堺市の「子ども食堂ネットワーク」
お会いしたのは子ども企画課の小嶋昭信主幹。
つーる・ど・堺では、これまで「子ども食堂」のテーマで、2つの子ども食堂と、子ども食堂を応援する「子ども食堂ネットワーク」の事務局である堺市社会福祉協議会の取材を重ねてきました。子ども食堂の拡大に「子ども食堂ネットワーク」の果たしている役割の大きさを知ることが出来ました。
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▲子ども企画課の小嶋昭信主幹。


まず、何が「子ども食堂ネットワーク」の立ち上がるきっかけになったのでしょうか。
「これは平成27年度の秋から冬にかけての頃なのですが、ご存じのように子ども食堂について記事が書かれ、メディアが取り上げました。それに竹山修身市長が関心を持たれたのがきっかけです。子ども食堂の取り組みが広がっていることに対して堺市でも何かできることがないだろうか? そういう市長からの問いかけがあって始まりました」
この新しい事業は、行政としては未知な事業だったこともあり、慎重にスタートさせたようです。
「翌28年度には、事業として何が出来るのかの把握と情報収集に努めました。堺市内での子ども食堂に関する情報、どこに子ども食堂があるのか、どんな実態があるのか。事業をする前にそれを把握することが必要でした。そのために一つは、NPO法人SEINさんに委託する形でモデル事業として幾つかの子ども食堂を実施しました。カフェや大学の学食、企業の社員食堂、地域の活動拠点といろんな場所で子ども食堂をやってみたのです。そこで運営する上での準備の仕方や子どもとどのように接すればいいのかを学びました」
では、子ども食堂ネットワークという構想はどこから出てきたのでしょうか? これは堺市オリジナルのものなのでしょうか。
「参考にしたものはあります。関西だと、滋賀県のネットワークで滋賀県社会福祉協議会が事務局をやっている『滋賀の縁 創造実践センター』があります。これは県レベルのネットワークで、滋賀県内の企業も協力し、子どもだけでなく高齢者や障がい者も対象としたネットワークで滋賀県内の全小学校校区に子ども食堂を作ろうとしていました。堺市で事務局機能をおいて問合せをしやすくしたのは、滋賀県を参考にしています。また、全国規模や関東のネットワークなどもありましたが、基礎自治体でネットワークを立ち上げたのは堺市が始めてだと思います」
こうして平成29年度、堺市の子ども食堂ネットワークがスタートします。
■ネットワークに外部からつながる
県単位やより広域のネットワークと比べて基礎自治体のネットワークにはどんな特徴があるのでしょうか。
「広域のネットワークと比較すると、サポートできる密度・濃度の濃さが良い点だといえます」
堺市社会福祉協議会に委託してスタートした子ども食堂ネットワークは、子ども食堂を実施したいと思っている団体、可能性がある団体へのアプローチをはじめました。
「2018年の1月の段階でさかい子ども食堂ネットワークに登録している子ども食堂運営団体の数は27になりました」
取材を始めた昨年の12月の段階で25団体だったので、さらに2団体増えたことになります。
「子ども食堂オープン後も、孤立して課題を抱えむことのないように、情報の共有、課題の共有、そして課題解決の共有を行います。ネットワークが出来た利点の一つは、衛生管理についてや、子どもの関わり方についてといったスタッフ研修も一緒にできることです。また、子ども食堂がどこにあって、いつ開催されるのかもホームページで発信することで周囲から認知されやすくなりました。すでに地元のスーパーや農家などとつながりを持っている子ども食堂もありますが、その一方で今のところつながりはないけれど協力したいという企業もある。企業団体が関心を持っても、子ども食堂ごとに個別に対応することは難しいと思います。ネットワークが出来たことで、協力の受け皿、支援の受け皿としてお話を受けることが出来ています」
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▲西区の「ともちゃんの子ども食堂」ではオリックス宮内財団からの支援で調理器具などを充実させました。

こうした企業の中には、堺ゆかりの大きな企業もいつくかあります。経済的な支援や物資の支援だけでなく、堺で生まれた文化を背景に成長した企業として、子どもたち向けの体験講座を開催したいといった、それぞれの特性を生かした支援の提案もなされているそうです。
「子ども食堂に対する関心が高いこともあって、こちらから企業に対する働きかけをしているわけではないのですが、企業の方から問い合わせやお話をもってこられることが多いのです。これは情報発信の効果だと思います。地元の企業ではない、全国規模の有名企業からも堺市の子ども食堂ネットワークに問い合わせが来るので、受け皿があることで企業からも話が持ち掛けやすいようです」
堺市のネットワーク化の取り組みは、内にも外にも成功をおさめているようですが、他の自治体へもこの動きは広がっていくのでしょうか。
「はい。すでに色んな自治体から問い合わせをいただいています。おそらく来年度には色んな自治体で独自のネットワークが立ち上がるのではないでしょうか」
■子ども食堂への支援は自立を目指したものに
堺市に問合せてきた自治体から、一つ疑問に思われることがあるのだそうです。
「堺市では、子ども食堂の設立の準備のためには補助金を交付しているのですが、ランニングコストは対象にしていません。このことには他の自治体からも理由を問われます。実際、他の自治体の中にはランニングコストに補助金を交付しているところもありますし、堺市で活動されている方からも、不満をもたれる部分だと思います。しかし、補助金ありきで子ども食堂を運営していると、補助金が無くなった時点で子ども食堂が終わってしまいます。子ども食堂は地域に根付いて、長期に続けていただきたいと思っていますので、ボランティアベースの事業で無理して手は広げずに、できる範囲で長く続けるやり方を一緒にさぐっていきましょうと提案しています。私たちは側面から色々なこと、食材の仲介や、情報の提供、研修の提供を行っていきます」
子ども食堂運営団体に自立できる力をつけることを、堺市は支援しているのです。
「民間からの寄付も積極的に紹介しています。また、堺市の別の補助金を受けることは禁止されていないので、団体の活動にうまく沿った形で何らかの補助金を活用してくださるのはいいと思います」
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▲堺区「にしのこ☺まんぷく食堂」では地域からの支援、フードバンクからの支援により、月に一回数十人の子どもに無料で食事を提供している。

実際、この堺市の方針は現在の所、良い効果を見せているようです。前述したとおり堺市の子ども食堂は増加傾向にあります。それも一月に一団体以上という、急速な増加具合です。
「来年度も同じぐらいのペースで子ども食堂を広げてきたいと考えています。現在堺市には94の小学校があります。小学校の数と同じくらいの子ども食堂ができている状態を目標にしています。ただ市が無理矢理に働きかけるのではなく、実施団体の主体性を大切にして後押しする形で広げていければと考えています」
これまで取材をしてきた堺区でも西区でも、子ども食堂の運営に携わった人が、また別の場所で子ども食堂を開設する。そんな細胞分裂のようなことが起きていました。
「子ども食堂に関わりたいという方からの問い合わせが去年から非常に多くあるのですが、高齢の方だと子どもと関わる場を持ちたいという思いから、ミドルエイジの方だと自分の子どもの育児が落ち着いて地域の子どものために何かをしてあげたい。そんな思いをもたれる方が多いように感じます」
これだけ子ども食堂の数が増えてくると、今後のネットワークのあり方も今までと同じようにはいかないのではないでしょうか。
「ネットワークの機能を今後どうしていくのか、議論しながら考えていかないといけないことだと思います。子ども食堂の活動が地域に根づいて持続されるためにネットワークがどのような機能や役割を担うのか、実施者さんも交えて検討していく必要があると思います」
堺市内の全校区にくまなく子ども食堂が出来れば堺市の福祉状況の大きな前進といえるでしょう。しかし、それをもって子どもの貧困対策が万全になるのかといえば、決してそんなことはありません。子ども食堂は万能ではないし、貧困対策という観点から見ればその役割は極めて限定的なものでもあるからです。次回は、子どもの貧困の現状とその中で子ども食堂が果たせる役割について見ていきます。
堺市 子ども青少年局 子ども青少年育成部 子ども企画課
堺市堺区南瓦町3番1号 堺市役所高層館8階

TEL:072-228-7104 FAX:072-228-7106
堺市社会福祉協議会
堺市堺区南瓦町2-1 堺市総合福祉会館内
TEL 072-232-5420

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