すずめ踊りが堺と東北を結ぶ

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■遠野物語
暗闇に包まれたホールは、期待のざわめきを隠し切れませんでした。
「これから何が起こるの?」
そんな子供たちの声。
と、光が差し込み、ステージ上に笛を吹く美しい女性の姿が浮かび上がり、突如その周囲で怪物と逃げ惑う男の激しいアクション!
お芝居『遠野物語』の始まりです。

 

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▲浮かび上がる美女。一体何者なのか……。 ▲激しいアクション!
この日、堺市にある大阪府立大学中百舌鳥キャンパス Uホール白鷺で行われたのは「東北・劇団わらび座」による公演『東北芸能祭in堺』。
親子連れの姿も多く客席もにぎやかな印象ですが、それが舞台上のドラマの展開と呼応するように、笑い声や驚きの声があがり、ライブの楽しさを増加させてくれるのでした。
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▲主人公の福二。演ずるは平野進一さん。わらび座は役者全員が専業のプロという、日本でも数少ないプロ劇団です。
公演は三部構成で、第一部はお芝居の『遠野物語』。
津波で船を失った漁師福二が仕事を探しに故郷を出て旅する中、山でモノノケたちに襲われる所から物語がはじまります。
物語は福二の目線ですすみます。恐ろしい山男に追われ、愛らしい座敷童と遊び、河童に騙され、里人に助けられ、あの世とこの世が錯綜する過酷な旅が続きます。観客はその旅をエンターテイメントとして楽しみながらも、いつしか福二が失ったもの、負った深い傷について知るのです。

 

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▲山男にさらわれて成長した女ヒデと出会う。 ▲逃げ出した福二は、お祭りの村へとたどり着く。
津波で多くを失い、旅に出ざるを得なかった福二は、2014年の東北・東日本の被災者たちと重なります。福二の苦悩・苦しみは、現代の被災者・避難者の苦悩・苦しみと響き合うもの。福二という主人公の名前も、福島第一原発が「フクイチ」と通称されていることと、まるで無縁でないように感じられます。
また『遠野物語』に登場するモノノケたちの背景には、「口減らし」「飢餓」「身売り・人さらい」といった歴史的な悲劇が潜んでいることが、さりげなく示唆されています。それは民話の中で繰り返し語られるほど過去からこの地方が負わされている構造的な歪みが、今と地続きなのだと気付かされます。

 

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▲座敷童と出会い一緒に遊ぶ。 ▲河童と相撲をとったり騙されたり。村人は決して河童のイタズラを咎めない。そこには悲しい理由が……。
2011年は「わらび座」の劇団創立60周年にあたっており、東北に本拠を置く劇団としての使命を握り直し、震災以降は上演作品を「東日本大震災復興支援」と位置付けています。『遠野物語』も、2012年の震災への鎮魂と再生の祈りをこめて上演しています。
福二の旅の行き着く先に描かれたものは、まさにそうした祈りに満ちたものでした。観客である私たちも、福二とともに、笑い泣き恐れ悲しみ、この再生の場に導かれたように思います。
そして、この東北と堺を結ぶ演目が、第二部の『すずめ踊り』です。
■すずめ踊り
はっぴ姿の子どもたちが元気いっぱいに舞台に現れました。
『すずめ踊り』は、慶長8年(1603年)、丁度江戸幕府開幕の年に、仙台城の新築移転の儀式の宴席で、泉州・堺から来た石工たちが、即興で披露した踊りがはじまりだとされています。お城の構造をよく知る石工たちは、その秘密をもらさないため帰郷を許されずに城下町にとどめおかれ、すずめ踊りも受け継がれていきました。
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▲堺の子供たちが練習の成果を見せる時。口上を述べます。

 

堺への「お里帰り」は、実はつい最近のこと。2003年に『みちのくYOSAKOIまつり』に参加した、堺のYOSAKOIチームがすずめ踊りを見て、堺との繋がりを知り普及に乗り出したのがはじまりだとされています。
『東北芸能祭』では、長い準備期間をとっていました。堺すずめ踊り協賛会/堺すずめ踊り連盟/みはら夢雀の協力のもと、堺市内の小学生を対象としたワークショップが開催され、12名の小学生が三ヶ月にも渡って練習を続けていました。その成果を今、披露する時です。
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▲小雀たちの舞。 ▲客席からも温かい視線や声援が送られました。

 

メンバーの一人が進み出ます。
「未熟ではありますが、小雀たちの舞いをご覧ください」
立派な口上に客席も湧きます。
扇を手にとっての舞は、雀が餌をついばむ様に似ているから「すずめ踊り」と名付けられたという説がありますが、子どもたちが踊るといっそう可愛らしさが増します。

 

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▲大人たちも一緒に舞って、勢ぞろい! お見事です。
すずめ踊りという縁で、東北と堺を結ぶつながりが今後も続いていってほしい。そう強く感じました。
■舞踊集「故郷ー故郷(ふるさと)ー」
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▲朗朗と響き渡る歌で第三部の幕開け。 ▲翁が水田にみたてた雪の田んぼにたてた「稲」に舞をささげる『雪中田植え』。

 

再び漆黒となった舞台に一筋の光がさしこみ、浮かび上がったのは農民たちの姿。農民たちの歌声に導かれるように現れたのは白衣の翁でした。
第三部は、東北各地に伝わる歌舞を舞台用にアレンジしたものが上演されます。
はじまった翁の舞は、『雪中田植え』。幽玄な翁の舞は、会場を神秘的な世界へと導きます。

 

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▲櫓をこぎ、網を引く男たちの力強い姿がまさに芸術的です。 ▲海原に響き渡り、海のはらわたから魚群を引きずり出す力が満ち溢れています。
ついで、がらりと世界を変えたのは『沖揚げ音頭』。「北海道のニシン漁で歌われていた作業歌一連の総称」で、漁師に扮した歌い手・踊り手が登場します。腹の底から絞り出す声が朗朗と響き渡り、鍛えた肉体の力を振り絞って櫓をこぎ網を引きます。
これが役者の力でしょうか。まるで板の上が北の大海原になったかのようです。
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▲春の花々の誕生の喜びが溢れ出た『雛子剣舞』。岩手県の北上市や奥州市江刺区に伝わります。 ▲もともとは盆供養の芸能で、凶作・飢餓とともに定着・発展しました。左手は腰に添え、使いません。

 

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▲『じゃんがら念仏踊り』。福井県いわき市。

 

▲江戸時代初期に伝わった踊念仏が定着しました。
そして、『雛子剣舞』『じゃんがら念仏踊りと続き、なんとも楽しかったのが「虎舞」。大きな虎の舞台装置や、何匹もの色とりどりの獅子舞ならぬ虎舞が登場し、躍動します。客席も大喜びです。

 

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▲翁が虎をなだめたりしつけたり、ユーモラスなパートも。 ▲勇壮で恐ろしい虎たちが舞います。
フィナーレは、喜びに満ちた『虫送り』『さんさ踊り』。明るい光が舞台に満ち、自然と共に生き、大地や海の恵み、恐ろしさを知る東北の人々がはぐくんできた文化、舞踊や歌の力をまざまざと見せつけてくれました。

 

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▲第三部を通じて翁が舞い、各地に伝わる歌舞の根底に通じる精神を表現しているようです。 ▲若さの躍動する『さんさ踊り』。
■民俗芸能の魅力、歌舞の力
すべての演目が終わり、余韻に浸る観客たちが、会場を後にします。
ロビーでお客様と会話を楽しんでいた、翁役の安達和平さんにお話を伺いました。
「今回の公演では、子供から障がいをもつ方までたくさんの方に見てもらえたのがよかったです。客席から、叫ぶ声や色んな声があがって、民俗芸能の原点に戻ったように思います」
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▲記念撮影に応じる安達さん。お面の下も柔和な『翁』ですね。
『わらび座』で営業を担当している山内晶代さんもその魅力を強調しました。
「今回10年ぶりに歌舞の舞台をしましたが、とても好評でした。歌舞の力を再認識しました。これからはもっと歌舞に力をいれようと思っています」
12年に始まった『東北芸能祭』は、ベトナムや沖縄でも公演されてきたそうです。
「沖縄でも地元の民俗芸能とコラボをしたんです。堺の『すずめ踊り』の子供たちも、どうなるかハラハラしていたんですけれど、リハーサルの時よりもバッチリ出来て感動しました」
『東北芸能祭』は堺の後、遠野で公演されフィナーレを迎えるのだとか。
「劇団・わらび座は、小西行長を取り上げた舞台も予定しています。来年も堺で公演しますので、ぜひいらしてください」
小西行長は、堺出身の戦国武将。商人階級出身でキリシタン大名としても有名な人物ですが、大きくクローズアップされることはありませんでした。堺ゆかりの武将がどのように取り上げられるか楽しみです。
すずめ踊りでつながった東北と堺の縁。これからも長く続いて行ってほしいですね。
劇団わらび座
※次回公演は「ジュリアおたあ」。小西行長の養女として育てられた女性のお話。9月28日〈日)開催だそうです。

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