リニューアル! シマノ自転車博物館(3)
リニューアルオープンしたシマノ自転車博物館をアドバイザーの神保正彦さんに案内していただき、19世紀初頭にはじまった自転車進化の歴史をたどることができました。運動性・乗り心地・安全性を追求した結果、紆余曲折を経て19世紀末から20世紀初頭には現在の自転車の原型は出来上がっていました。
では、21世紀の自転車の現在形はいかなるものなのか、自転車を巡る博物館ツアーを続けていきましょう。
■自転車のひろがり
自転車の歴史をテーマにしたAゾーンに続いてBゾーン「自転車のひろがり」を見ていきましょう。Aゾーンが過去の自転車だとすれば、こちらは現在の自転車といった所でしょうか。
神保「Bゾーンはスピードの夢、人に寄り添う自転車、旅の自転車など自転車が使われるカテゴリーごとに展示しています」
――スピードを追求したロードバイクはかっこいいですね。
神保「先ほどのイタリアのロードレーサーの直後のもので、変速機が改良されたりしています。このカテゴリーでも色んな自転車が展示されていますが、これは日本のメーカーが初めてヨーロッパのプロチームにスポンサーした時の自転車です。1964年の東京オリンピックに出場した日本の自転車もあります」
――歴史的にも貴重な自転車の展示も多いですね。
神保「技術の進化でいけば、例えば変速機ですが、かつてはハンドルから手を離してケーブルを引っ張って変速していました。今はブレーキレバーと一体になっています。以前は5枚しかなかった後ギアが今は11枚にもなっています。重量も鉄のフレームで10キロぐらいはあったものが、今はカーボンファイバーで7キロ弱になっています」
――急速に進化しているんですね。
神保「こちらのコーナーは、最新のロードバイクのパーツをすべてバラバラにして並べています」
――すごいですね。これで何個ぐらい部品があるのですか?
神保「約3200個あります。進化した技術の実際の動きを見てもらえる体験展示もありますよ」
――変速機のギアチェンジの体験ですね。昔はハンドルから手を離してレバーを操作していたものが、ブレーキレバーと一体になってるんですね。
神保「今チェーンが回っていますよね。変速のパンタグラフ機構が左右に動いてチェーンを脱線させて隣のギアに移っていくんです。電気式の変速機もあって、これはスイッチを押せば誰がやっても変速します」
――変速機のギアチェンジを手元でできるように進化したとおっしゃってましたが、さらに機械式から電動式にという進化もあるんですね。
神保「自転車の技術で大切なのはフレームなんですけれど、今走っている自転車のほとんどは金属製です。鉄だったり、アルミだったり。こちらの体験展示では、同じ体積だったら、これぐらい重さが違いますよっていうのを実際に持ち上げて比べることができます」
――先ほど言っていたフレームの進化ですね。鉄は重たい、アルミは軽い。持ち上げると明らかですね。
神保「しかし最近のハイエンドのロードバイクはみんなカーボン製になっています。こちらは非常に珍しいメイドインジャパンのカーボン製のフレームです。珍しいという意味は、今はほとんど台湾製か中国製だからです。どれだけ軽いのか、持ち上げてみてください」
――おお軽い。何キロあるんですか?
神保「6.8キロです。この6.8キロというのは、UCI(国際自転車競技連合)の競技規則で決まっています。規則がなかったらもっと軽くできるんですけれど、レースの運営団体として、形状であったりそういう競技規則というのはいっぱいあります。競技はスポーツですから、イーブンな条件ということと、もうひとつは安全性です」
――そうか、あんまり軽くしすぎて壊れやすくなっちゃうと、選手が怪我したり大変なことになってしまいますものね。
このBゾーンには「人によりそう自転車」「いろいろな形の自転車」というカテゴリーがあり、私たちが日常使う自転車から、めったに見ないような自転車まで様々な自転車が紹介されています。気になるいくつかをピックアップしてご紹介しましょう。
■自転車とこれから
神保「Cゾーンは「自転車と作る好循環」ということで、「好循環」がキーワードになっています。例えば体の好循環というのは、自転車に乗ると、当然足を大きく動かします。それで筋力がついたり、血流が良くなってフィジカルが良くなりますし、実はメンタルにも非常に効果がある。心の安定度と活性度のバランスが良くなる。そういう体の好循環」
――それはよくわかりますね。
神保「それから自転車は人の顔が見える乗り物です。交差点で止まれば挨拶ができますし、もちろん仲間と一緒に走ったら楽しいし、自転車というのはそういう特徴があります。交流の好循環。自転車が徐々に町の中に増えていくと、場所の好循環にもなる。最近、自転車の町作りっていうことも盛んに言われています」
――そうですね。堺も取り組みを色々していますね。
神保「それを広げていくと、モビリティ・アズ・ア・サービス(情報通信技術を使って移動を効率化すること)、公共交通機関とつなげたり、シェアサイクルで行った先で電車が使えるなど、色んなその場所の好循環に貢献できます」
――社会の好循環になる。
神保「当然CO2も減るし、健康になれば医療費も削減できるし、何よりも一人一人が幸せになる。そういう社会の好循環を生む。こちらには、このテーマをまとめたムービーもありますのでぜひ見てくださいね」
――わかりました。
神保「それと、こちらにあるのは普通の車いすなんですけれど、このアタッチメントでユニットを取り付けると、ハンドバイクになります。障がいを持った方や高齢化が進んでいる世の中で、自転車でより多くの人が移動の自由をもてるという一つの例です。残念ながら日本ではあまり知られていませが、ドイツやスイスでは少しずつ市民権を得ています」
――なるほどね。大切ですよね。移動の自由というのは。色んな自由がある中でも、移動の自由は根幹の自由の一つだと思います。
神保「不幸にして下半身、足が不自由になられても、この自転車で移動の自由を得ることができます」
――これも自転車でバリアを越える。社会の好循環につながるわけですね。
神保「こうして自転車の歴史を学んでもらって、いろんなカテゴリーの技術を見てもらって、それで終わりではなくて、この博物館では最後に自分も乗ってみようかという風になってもらう。要するに、ここへ来れば、誰もが自転車に乗りたくなるという訳です。それがこちらのサイクルコンシェルジュです」
――お、それはなんでしょうか。
神保「一般の方には、あんまり自転車の種類といってもわかりませんので、実はこちらのモニターがサイクルコンシェルジュになっています。ちょっと画面をタッチしてみてください」
――やってみましょう。例えばリフレッシュを目的にして、どこで遊ぶのか? では近所の街中。どんな風に? 軽快に走りたいですね。と、アンケートに答えていくと、ぴったりの自転車をおススメしてくれるんですね。僕のはクロスバイクがでてきました。
神保「こうするとアドバイスが出てきます。いろんなタイプの人の違いに対応しています。それと最後にこちらの画面を見ていただいて、カメラで撮影をします」
――おススメ自転車に乗った顔ハメ写真を合成してくれるんだ。面白いですね。
神保「先ほどのチケットがありますよね。このQRコードをかざしてください。これで写真をスマホにダウンロードすることができます」
――すごいな。色んな工夫がある。
神保「あまり普段自転車になじみのない方でも、このサイクルコンシェルジュでは、場所・気分・目的を選ぶことで、その時のあなたにとって、こんな自転車がありますよっていう紹介をしてくれて、アドバイスが出てくるんです」
――そうか。これで自分にぴったりの自転車をほしくなっちゃうんですね。生活にもつながる好循環ですね。
さてさてシマノ自転車博物館、実はまだまだコーナーがあります。次回、さらにディープな自転車の世界にみなさんをご案内いたしましょう。
(第四回へ続く)
シマノ自転車博物館
住所:〒590-0073 堺市堺区南向陽町2-2-1
電話:072-221-3196
web:https://www.bikemuse.jp/
開館時間: 午前10:00~午後4:30(入館は午後4:00 まで)
休館日:月曜日(祝日の場合は火曜日)、年末年始
ツアー・オブ・ジャパン2023 堺ステージ