与謝野晶子

『晶子からあなたへ』レビュー(1)

 

■世界120位の日本

日本社会の女性の地位について時折ニュースで耳にしますが、2021年の男女平等ランキングですと対象153カ国中、日本は120位だそうです。
日本より下のランキングには、西アジアやアフリカの厳格なイスラム諸国が名を連ねるばかり。上位をヨーロッパ諸国が占めるのは予想通りとして、同じアジアでは36位ラオスを筆頭に、54位シンガポール、65位バングラデッシュ、69位モンゴル、79位タイと続きます。東南アジアで世界最大のイスラム人口を抱えるインドネシアは101位。何かとライバル視しがちな韓国は102位、中国は107位。現在軍事政権が支配するミャンマーでも109位ですから、日本の120位が先進国としてはちょっととんでもない数字です。

堺の地域情報サイトとしては、この日本の状況を見たら「あの人」はなんと言うだろうか、と考えずにはいられません。
「あの人」とは、もちろん与謝野晶子のこと。与謝野晶子は、恋の歌を詠む「情熱の歌人」、『君死にたまふことなかれ』で「反戦の詩人」のイメージが強くありますが、女性の人権についても強く訴えた芸術家でした。
もし与謝野晶子が、現代の日本を、世界を見たら何と言うだろうか? そんなIfを舞台にした作品が、2022年10月2日、堺市東文化会館で上演されました。題して『晶子からあなたへ』。脚本・演出は、阿笠清子さん。今回の記事は『晶子からあなたへ』のレビューとなります。

 

■パンデミック再び!

 

緞帳があがると、舞台中央には紫の着物姿の能面の女性。『君死にたまふことなかれ』を歌い舞うと姿を消します。入れ替わりに現れたのは大学生風の女性。どうやら与謝野晶子好きらしい。紫の着物の女性は、もちろん紫色が好きだった与謝野晶子。大学生は、晶子を追いかけてきたという着物姿の3人の女性とも出会います。この女性たちは、それぞれ「らいてう」「菊栄」「わか」と名乗るのですが、大学生ならずとも晶子ファンなら、当然彼女たちの上の名前もすぐにわかるはず。すなわち「平塚らいてう」「山川菊栄」「山田わか」。
大正時代、与謝野晶子と誌上で「母性保護論争」を繰り広げ、日本の女性人権活動史に名を残した4人なのです。この中では山川菊栄が、一番遅く生まれ、そして89才の長寿で1980年に亡くなっているのですから、4人はもちろんこの世の人ではありません。

 

▲左から山川菊栄、山田わか、平塚らいてう、そして大学生。

 

かつては火花を散らした4人ですが、「上」の世界では仲良くなっていつも一緒のカルテットになっているとか。しかし、どうも「下」の様子が気になって仕方が無い。
特に2020年になって新型コロナウィルスによるパンデミックが発生すると、他人事とは思えない。何しろ晶子たちの時代にも、スペイン風邪という世界を震撼させたパンデミックが発生していました。
丁度「母性保護論争」が行われていた1918年にスペイン風邪は発生。世界人口の30%近くが感染し、死者数はおそらく1億人を超えたと言われ、人類史上最も死者数の大方パンデミックの一つでした。

一方、現代の大学生は、せっかく大学に入ったものの、新型コロナウィルスのために大学は閉鎖。対面授業が行われないまま大学生活を送ってきた様子。「お節介焼きの晶子さん」は、かつて自分が生きた時代と同じ災害に直面し、未来が見えず困っている大学生を放っておけずに、「下」へとやってきたのでした。

 

■ライブ母性保護論争!

 

▲山川菊栄と与謝野晶子の激論が生ライブで!

 

「下」に降りて来たカルテットと大学生がスマホで遊ぶコミカルなシーンを挟んで、晶子たちカルテットはかつての「母性保護論争」を公開討論会という形で再現します。
「母性保護論争」は、女性の「母」としての社会的機能に注目し、「母」が子を産み育てる期間は国家がこの費用を負担すべきだと主張した平塚らいてうに対し、女性の社会的自立を主張したのが与謝野晶子。この2人に対して、女性は家庭に収まるべしと保守的・反動的な主張をする山田わか、社会主義者として対立するらいてうと晶子の主張を合せてより高度な思想にしようとする山川菊栄という構図が生まれます。

21世紀の日本から見ても、この論争の課題は未解決なままで、先駆的な論争だったということがいえそうです。今、女性の多様なライフスタイルがどれだけ実現しているのか、社会の子育て支援が十分なものなのか……。
大学生がこの論争を聞くことは、決して過去の歴史の1コマを学ぶだけの事ではなかったでしょう。これから社会に出て行く時の羅針盤となる生きた教養を身につけることとなったのでしょうか。
そして物語は、クライマックスへとなだれ込みます。

→第二回へ続く

 


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