与謝野晶子

大正~昭和初期アンティーク着物ファッションショーin Sakainoma濱

 

潮の気配が漂う浜寺の駅舎あたりから東に向かってまっすぐに延びる道は、緩やかに高度をあげていきます。この道をそのままに丘陵を登り切ると、和泉国一宮大鳥大社の門前の大鳥居へと突き当たります。海から丘の頂きにある神社を一直線に結ぶ、なんとも神秘的な参道です。きっと千年の昔には、海を渡って浜寺に上陸した古代人がこの道を通ったことでしょう。神話の時代なら、海と陸を結ぶ神の通り道だったかもしれない、なんて想像も膨らみます。

今日の取材の舞台であるSAKAINOMA濱 旧福井邸は、その道の途上にあります。

 

▲松の緑が白壁に映えるSAKAINOMA濱。

 

■土地の縁を感じるファッションショー

 

SAKINOMA濱は、旧福井邸と名前が添えられている通り、元々は現在のオーナー福井清秀さんの先代が隠居所として昭和初期に建てた屋敷です。昨年、装いも新たに宿泊施設としてオープンしました。
この日は、贅を尽くした福井邸の屋内をいわば借景し、つーる・ど・堺の松永友美が知輪として主催する「大正~昭和初期アンティーク着物ファッションショーin Sakainoma濱」が行われるのです。

Sakainoma濱は、「堺の建て倒れ」と言われ、建物に財をつぎ込む堺らしい、品の良い趣味的なお屋敷です。玄関をくぐると、しっかりした梁などの構造に、芸術的な建具と内装で構成された美的空間。この空間でどんなショーが行われるか、期待が高まらざるを得ません。

 

▲Sakainoma濱設立の経緯を語るオーナーの福井清秀さん(右)。

 

このショーでは、二間の和室のうち、リノベーションでダイニングスペースと一体化した手前の座敷が客席。奥の座敷を舞台、二間を取り囲む縁側をキャットウォークに見立てて使うという趣向です。
まずは、オーナーの福井さんが登場。大阪堀江で鋳物商を営んでいた先代が建てた旧福井邸を潰すのか遺すのか、その葛藤を乗り越えてSakainoma濱へと生まれ変わらせた経緯を語られます。これだけのお屋敷を潰すのは一瞬、しかし遺すとなれば、維持費も手間もかかり簡単な事ではありません。その決断には、文化的な価値のあるお屋敷への深い想いがあるからこそ。その想いが伝わってきます。

 

▲つるや楽器の六代目にあたる石村真一朗さん。

 

次いで、三味線を手にした男性、石村真一朗さんが登場し、三味線ライブが始まりました。
ビィン、ビィインと、三味線の音が響きます。やはり和楽器は、木と紙と土でできた和の建築に似合うように感じます。
石村さんは、堺区の宿院にある「つるや楽器」の六代目。ようやく知られてきましたが、堺は三味線発祥の地。「つるや楽器」は江戸幕末の文久2年創業で160年の歴史を持つ和楽器専門店ですが、今や堺で唯一の和楽器専門店だとか。
石村さんは、16世紀の堺に中国・琉球を通じて入ってきた三線を、三味線へと生まれ変わらせた歴史や、三味線の種類、魅力についてのトークを交えながら三味線を奏でます。

この日のお客様の中には、ショーの主旨に合わせて和装のお洒落をしてこられた方も少なからずいました。まるでお客様も含めての一幅の絵となっています。三味線ライブの音は観客を包み込み、良い感じで建物と観客が一体化させてくれたようでした。

 

▲ともぞうとしてもお馴染みの、知輪の松永友美。松永の語りでショーは進行する。

 

そして、いよいよアンティーク着物ファッションショーがはじまります。
このショーも一工夫がありました。ただ着物を見せるというものではなく、物語仕立て。男装した知輪の松永友美が語り部となり、モデルは物語中のキャラクターとなって登場します。万葉の時代から景勝の地として知られた浜寺の歴史を背景に、大正昭和の頃には日本指折りの遊興都市でもあった堺に生きた三人の女たち。料亭の女将、遊女、そして与謝野晶子。時代を越え、虚構と現実の狭間も飛び越え、絢爛豪華な着物絵巻が現出したのです。

 

▲モデルは、左から女将役・井上怜さん、遊女役・SUZUさん、与謝野晶子役・瀧川美咲さん。演奏はもちろん石村真一朗さん。

 

このショーは、堺の浜寺という土地だから成立するショーといえそうです。どういう経緯や意図でこのショーが生まれたのか、インタビューしてみました。

 

■インタビュー

●石村真一朗さん

 

▲三味線業界には石村姓が多く、それは三味線の創始者とされる石村近江検校にあやかってのことでしょうとのこと。

 

まずは、トークと演奏で堺生まれの和楽器・三味線の魅力を教えてくれた石村さんです。

--トークでおっしゃっていましたが、こうしたコラボレーションのイベントで演奏されるのは初めてとのことでしたが、やり終えた手応えなどはいかがですか?
石村「誰かの動きに合わせて曲を弾くのはあまりないことで緊張しました。モデルの邪魔をしないように意識をしましたが、一人で演奏するのとは違う楽しみがあって良かったです。みんなで創り上げていくのが嬉しいですね」
--第二部では、小さなお子様がいましたが、石村さんが「騒いでも気にしないですよ」とおっしゃっていたのが印象的でした。
石村「ええ、僕は子どもが騒いでも構わないと思っているんです。どうしても(三味線は)敷居が高いという印象があるでしょう。それに、お子さんのお母さんが気にされるかと思ったんです。僕がいいよと言ったらいいことになるじゃないですか」
--場の空気が和らぎましたね。
石村「それに音楽がはじまったら、お子さんも静かになりましたよね」
--そうでしたね。おしゃべりを止めて音楽に合わせて身体を動かしたり、演奏を楽しんでいました。
石村「これをきっかけに興味を持ってもらえたら嬉しいですね」

 

●SUZUさん

 

 

遊女役のモデルをこなしながら、ショーディレクターを務めていたというSUZUさん。ショーパートの監督、演出家にあたる方です。
--ショーディレクターとして、どんなショーにしたいと考えられていたのでしょうか?
SUZU「物語性のあるものにしたいと考えていました。ミュージカルじゃないですが、語り、三味線、ショーの全部がつながる、全体として一貫性のあるものにしたかったんです。やっている方はやっていて楽しくて満足なんですが、客観的にはわかりません。逆にお聞きしたいのですが、外から観ていかがでしたか?」
--まだまだ伸びしろがある。随所に工夫する余地があるイベントだと思いました。建物の力もそうですし、やろうとしていることにもポテンシャル、可能性がある。それを活かすのはこれからで、今後が楽しみです。
SUZU「今後は色んなストーリーのものを一個一個のショーで作っていきたいです。物語や浮き出てきたものをリアルに、着物絵巻として表現したいです」

 

●福井清秀さん

 

 

ショーでは旧福井邸が生まれ変わったエピソードを披露してくれたオーナーの福井さんにも話を伺います。

--今日のショーは、sakainoma濱だから成立したイベントだと感じました。
福井「当初は宿泊施設にと考えていたのですが、それだけではない場所であると実感しました。古いものをお召しになってもらって様になる場所だと感じました。だから、ただ単に宿泊を埋めるのではなくて、大切なのはこの建物の価値にあった方々に利用していただくことだと思いました。価値を理解していただける方々に展示とかでも活用していただきたい」
--お客様の中にも和装などで場所に合ったお召し物で来られた方が少なくなかったですね。
福井「今回来ていただいた方との出会い、広がりに期待したいです。これからは、もっと頭を柔らかくして、色んな使い方が出来ると、こちらかも発信していかなくてはいけません」

 

●松永友美さん

 

 

最後は、このショーを取り仕切った知輪の松永友美に登場してもらいます。

--まずは、ショーが生まれた経緯をきかせてください。
松永「昨年の11月の内覧会に先だって、sakainoma熊の間宮菜々子さんから、濱は知輪にいいと薦められたのが最初です。それで濱の内覧会で、福井さんご夫妻と出会った時に、倉に眠る着物を見つけたので見に来てくださいという話も伺いましたが、その時は人も大勢だったので、きっと福井さんは覚えておられないだろうとかってに思ってそのままにしていたんです。ところが、マルシェイベントをされる穴山奈々さんに、濱でハマルシェを開催するからと声をかけていただいて、福井さんに連絡した所覚えていてくださったんです」
--それで着物イベントを開催したのですか?
松永「この時は、カジュアル着物でやったのですが、日を変えてファッションショーをやりたいと考えました。展示してあるものを見ていただければわかると思うのですが、福井さんのお母さんの素晴らしいお着物や帯がありました。でも、ただやるだけではダメ。ここでやる意味がないと意味がない。浜寺の紹介、sakainoma濱の紹介をしたかったんです」
--それで福井さんや松永さんの語りがあり、物語性のあるショーになったのですね。
松永「シナリオは頭にあるけれど、まとめるのが難しかった。そこをSUZUちゃんがディレクションしてくれました。モデルの動きに合わせて強弱がつけられる三味線が良かったので、こんな時は真一朗さんだとお願いしたら引き受けてくれたんです」
--福井さんとの出会いや、SUZUさんや、石村さんをはじめ良い仲間、スタッフに恵まれたイベントだったようですね。
松永「私がやりたいイベントは一方通行じゃないものです。来ていただいた方に、土地の記憶を感じてもらうもの。土地に集まった人同士の交流をつなげていきたいです。皆に仲良くなってもらいたいという狙い通りのイベントになりました」
--今後はどうでしょうか?
松永「新しいシナリオもあります。これからもチャレンジしていきたいですね」

 

 

このショーが、まずはsakainoma濱という建物が持つ磁力、年を経た本物だけが持つ力に人々が引きよせられる所から始まった事がわかります。そこに本物の着物、本物の三味線、本物の歴史、本物の思いと本物が重なる事によって、この場でしか体験できない唯一無二の魅力を持つイベントになったのではないでしょうか。

ショーの終了後、お客様は屋敷を散策したり、モデルとの記念撮影やおしゃべりを楽しんでいました。ショーケース越しにではなく、直に本物に触れることが出来る気軽さもこのイベントの魅力のように思えます。

 

知輪
堺市堺区市之町東2ー1-3堺山之口商店街 紙cafe office WARKS
072-227-4619
https://www.facebook.com/chirinsakai/
chirin@mozu-furu.net

 

sakainoma濱
大阪府堺市西区浜寺元町6-874-15
090-2119-2712
https://www.chillnn.com/17621afc2da2a7#hotelMenu
residence@sakainoma.jp

 

つるや楽器
堺市堺区大町東3丁1-6
072-232-0521
http://tsuruyagakki.hp4u.jp/
tsuruyagakki1862@yahoo.co.jp


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