安心堂白雪姫 橋本太七さん・由起子さん(前編)
“まごころ”って言葉、よく耳にしますね。でも実際に肌で感じたことって少ないのではないでしょうか。
今回、お話を頂いた「安心堂 白雪姫」の代表 橋本太七さんと奥さま 由起子さんは、お口のなかから”まごころ”が伝わる商品を作り続けるお豆腐屋さん。
お二人は28年前、新金岡町にあるスーパー内で小さな豆腐店をオープンさせました。お客さまのほとんどがご近所さん。この小さなお豆腐店がなぜ、日本全国から注文が殺到するほどの企業に成長していったのでしょうか。
答えは至ってシンプル。すべては、この橋本太七さんのお人柄、そして由起子さんの笑顔のなせる業、なのです。「そんなまさか」とお思いでしょうが、信じてください。本当なんです。
初めてお会いしたのは1年前。その時、由起子さんはこう仰いました。
「わたしは、色々な方とのご縁を大切にしたいんです。訪ねてきてくださってありがとう。」
その暖かい手と包み込むような笑顔は、まるで心に染み入るよう。あの不思議な感覚は、未だに忘れることが出来ません。
「会社を大きくしたいとか、そういった意識はありません。ただ、お客様に喜んでもらうお豆腐を作っていきたいだけ。」
由起子さんの言葉に、
「馬鹿な商売人でいいんです。正直に、真面目に、いいものを作り続けること。儲けるために原価率を低くする、なんて発想自体ありません。」と太七さん。
『安心堂 白雪姫』設立以来、一緒に行動することが当たり前のお二人。何気ないやりとりが、日ごろの信頼感を表しています。
堺市西区土師町にある安心堂白雪姫本店。大きな甕のなかには、きれいな金魚が住んでいます。
石川県出身の太七さん、若い頃はなんと船乗り。海外までの長い航路を行き来するため、乗船のたび由起子さんとの長い別れを重ねていました。心配をかけてしまうのが何よりも辛く、船を降り、地上で仕事を見つけようと決意したのはご長男が生まれてしばらくたった頃。
その後、地元金沢では有名な「芝寿し」の創設者、梶谷忠司氏に師事し、経営学の教えを受ける幸運に恵まれました。
「梶谷氏との出会い。これが私の運命を大きく変えました。」
当初は3ヶ月のみの修行期間だったはずが、「卒業証書のかわりだ」といって渡されたのは、なんと『工場長』の辞令。朝早くから夜遅くまで真面目に働き続けてきた太七さんの姿に、梶谷氏は深い感銘を受けられたのです。
その後も着々と成果を上げてきた太七さん。12年後には、30人あまりだった従業員は120人ほどになっていました。
折しも日本は高度経済成長期、「芝寿し」は急成長。このまま、梶谷社長の片腕として働き続けるものと思っていた矢先、由起子さんが原因不明の病に倒れます。
「あの頃は起き上がることもままならない状態で、お医者にも匙を投げられたようなものでした。主人には随分助けてもらって、用を足しに行くにも肩で担いで連れて行ってくれたり…。そんな時でも優しく、『お、今日はいい顔してるね』って言ってくれるんです。痛みで顔が歪んで、そんな訳がないのに。」
寝たきりの由起子さんと、小さな3人の子ども達の世話…太七さんだけでは到底手が回りません。工場の2階に住居があることが幸いし、周りの人たちが交替で食事の仕度、子ども達のお迎えなど、身の回りのことを手助けしてくれたのです。
「コトコトとお料理の音が聞こえ、いい匂いがしてくるたびに、『有り難い』と心の中で手を合わせていました。私は皆さんのおかげで生かして頂いているんだと、身に染みて感じました。」
お伺いした際に用意してくださった厳選商品のプレート。ひとつひとつのストーリーを語って頂き、美味しさもひとしお。
ところが3年後、奇跡的に病は回復。自由に体が動き、自分の足で行きたいところに行ける…。そんな当たり前のことひとつひとつに対して『有り難い』と感謝し、今に至るといいます。
「助けてくれた皆さんに、主人に、恩返しがしたいという気持ちが強く芽生えました。」
「我々は、良い出会いが数多くあったからこそ、今があるんです。」
この言葉を噛締めて語る太七さん。
芝寿し梶谷社長(後に会長・安心堂相談役)、「実践哲学」を提唱した森信三さん、NHKアナウンサー村上信夫さん等のお名前が挙がります。
「村上信夫さんには長くご愛顧頂いていて、店の25周年では記念にと、NHKの出演も叶いました。」
「森信三さんは『人間は一生のうちに会うべき人には必ず会う。しかも一瞬早過ぎもせず、一瞬遅すぎないときに』という言葉を遺しています。会いたいと思えば、いつか必ず会えるものなんです。」と太七さん。
「もちろん自分から商業界の集まりに飛び込んでいき、知り合える機会を積極的に作ったこともありますが、それでも、度重なる偶然というか、運命と言うか、まさに『逢うべき時に、人は逢う』ことを実現出来ました。」と由起子さん。
さて、「安心堂 白雪姫」には、大きなふたつの特徴があります。
ひとつは豆腐作りに対する妥協のないこだわり。良質の国産大豆と天然にがりを使用し、商品のすべてに大豆の甘み、旨みがたっぷり感じられます。これらはすべて、長い年月をかけ太七さんが考案したもの。
そしてふたつめの特徴。それは、由起子さん直筆のお礼状が、配送されるすべての商品に添えられているということ。
最初は一言を添えたメッセージカードのようなものでした。
溢れんばかりの感謝を伝えるにはこれでは足りないと、今では美しい絵手紙に。
そこには”橋本由起子より”とは入っていません。全て、送り主の名前でしたためられています。
「うちのセット商品はほとんど、ご進物にご利用頂いています。ご注文を下さった方の代わりに、気持ちをお届けしようと思ったんです。お豆腐を通じて、贈り主の心を託す。そんな思いで始めました。」
美しい絵手紙が添えられた、美味しいお豆腐が手元に届く。贈り主に『ありがとう』の言葉が返る。絵手紙に驚いた贈り主は、安心堂白雪姫へ『ありがとう』の言葉を伝える…。
『ありがとう』この言葉が全国へ広がっていきます。まるでキラキラと広がる光のように。
輝く光に吸い寄せられるように、多くの人々が土師町にある本店まで足を運ぶようになりました。
「最初は勝手なことをして怒られるかと思ったのですが、皆さん喜んでいただいて。ほっとしていたところに、私達に会いにと、わざわざ来て下さる方が現れたんです。」
この絵手紙を書いたひとに会いたい。こんな美味しいお豆腐を作ったひとに会いたい…。
“折角来て頂いたのだから何か記念になるものを”と思いたち、用意したのはこの寄せ書き帖、『縁尋機妙』。由起子さん手ずから墨を磨り、ひとりひとりの来訪者に筆で書いてもらうのだそう。まさに直筆、ですね。
現在は口コミだけで全国各地から注文が舞い込みます。お中元、お歳暮の季節には月3000セットを上回ることも。それでも由起子さんは絵手紙をやめるつもりはありません。
「ただただ、有難いの一言なんです。こうしてお買い上げくださるお客様のお陰で今がある。今、健康に、自由に身体を動かすことが出来るのも皆さんのお陰。『ありがとう』を言い続けた自分に『ありがとう』を言ってくださるようになったのも、皆さんのお陰なんです。”おかげさま”の想いを、少しでもお伝えしたくて。」
<つづく>
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