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速報版『手書き絵看板の世界』レビュー@東文化会館

 

堺市立東文化会館で開催中(2021年2月20日~3月21日)の『懐かしの絵看板・映画ポスター展Ⅳ 手書き絵看板の世界』に行って来ました。前回取材した企画展『ミュシャとチェコデザインの世界』展の時に、岸田隆夫館長と展示品を提供されたコレクター(?)の南明弘さんコンビからお話を伺っていたのですが、これはまた驚かされることになりました。前回も怒濤の展示数でしたが、今回も出展リストを拝見すると合計352点にも上る大展示会ではないですか。しかも、岸田・南コンビから伺った話が濃い! これは全部を紹介する記事を書いている間に企画展が終わってしまう! ということで、慌てて主要なポイントだけを紹介する速報版レビューを書くことにしました。

 

■京都・南座の歌舞伎絵看板

▲歌舞伎絵看板「真景累ヶ淵」(シンケイカサネガフチ・右)と「妹背山婦女庭訓 道行恋苧環」(イモセヤマオンナテイキン ミチユキコイノオダマキ左)。共に作者は信勝。

 

最初のコーナーは歌舞伎絵看板です。これは京都の南座で実際に使われていたものが、丸めたまま倉庫で眠っていたのだとか。その存在を知った岸田館長がとりよせて、今回の企画展を開催したというわけです。しかし、長い年月倉庫で丸められていた絵看板はすっかり丸まっており、それを伸ばすのにかけた年月はなんと半年以上。
岸田「だいたい8ヶ月かかりましたね」
丸まっていただけでなく、痛みも酷く補修も大変だったよう。今回展示されたのは14枚ですが、実はあと何十枚もあるのだとか。

▲「南総里見八犬伝」(ナンソウサトミハッケンデン) 作者は信勝の子である豊國。

 

今回展示されていその14枚のうち、7枚の作者は歌舞伎絵作家の信勝、あと7枚は信勝の息子の豊國によるものです。信勝こと穂束信勝は明治40年生まれで、歌舞伎絵作家としての活躍は戦後の1950年代からで没年は1981年。亡くなる数年前から直前までの作品が展示されていますが、晩年の作品とは思えぬ力作ぞろいです。

息子の豊國は昭和から平成にかけて活躍しています。父信勝とは下書きに関する違いがあるのですが、それはどういうものか、ぜひ現場で見比べてどんな違いかを当ててみてください。ヒントは息子の方にあり、父の方には見当たらないものです。父が偉大なのか、息子が合理的なのか、さて……。

 

▲「鏡獅子」。作者は豊國。

 

非常に見応えのある展示で、この14枚だけでも結構な見る価値のある企画展だと思うのですが、実はおそらくこの企画展がこれらの作品を観ることが出来る「最初で最後の機会」だろうとのこと。

南「大阪では最初で最後になるでしょうね。京都ではひょっとしたらあるかもしれないけれど」
--それは何故なのですか?
岸田「終わったら、南座に返すんです。また倉庫で丸めて保管されることになるでしょう」
--ええっ。館長が8ヶ月もかけて伸ばしたのに!

なんとももったいない話です。3月21日まで会期はあとわずか。興味のある方はお見逃し無く!

 

■戦前の肉筆映画ポスター

▲戦前の肉筆映画ポスター。

 

次のコーナーは「戦前の肉筆映画ポスター」です。ここからは岸田館長に代わって、南さんの解説です。
南「立命館大学の映像学科の先生で竹田章作さんという方がおられるのですが、その親父が南座のまねき看板を手がけていた竹田耕清という人で、この肉筆の映画ポスターを描いていたんです。800点ほどある中から、今回は100点を選びました。大体年代別に展示してあります」

昭和初期から昭和15年頃までのポスターです。当時は毎週のように映画が封切られていたので、相当な点数に上っていますが、一見してポスターそれぞれに個性がしっかりあります。映画ごとにそれに合わせて構図もタッチも工夫を凝らしたようです。

 

▲阪東妻三郎の『近藤勇』。迫力満点のいい絵ですが、傷みもみうけられます。毎週のように描くので、肉筆映画ポスターもあまり大切には扱われていなかったようです。

 

▲「満州行進曲」。監督・清水宏。出演・井上久磨夫。注目ポイントは「パートトーキー」。パートトーキーってなんでしょう?

 

■映画絵看板写真

▲「原紙怪獣現わる」。監督ユージン・ローリー。出演ポール・クリスチャン。ゴジラにも影響を与えたと言われている作品ですね。

 

次のコーナーのテーマはさらにマニアックに「映画看板写真」。映画看板ではなくて、映画看板の写真。これは看板を設置する時に、業者さんが「確かにやりましたよ」と証明するために撮った写真です。もちろん解説は南さん。終戦直後から平成までの時期に京都で映画看板を一手に引き受けていた「タケマツ画房」の2代目社長竹田耕作氏が撮り続けてきたものだとか。このコーナーの展示点数は150点。じっくり観たい派の人ならば、ここまでで丸一日はつぶれそうです。

 

▲「ゴジラの逆襲」。監督小田基義。特技監督円谷英二。出演小泉博。このゴジラは愛嬌のある顔をしていますね。映画館に設置前の一コマのようです。

 

▲名作古典「隠し砦の三悪人」。監督黒澤明。出演三船敏郎。ビルを圧倒する大迫力ですが、隣の「総天然色サザエの」がめちゃ気になります。サザエの、何?

 

■映画ポスター

▲「映画ポスター」コーナとご満悦の南さん。

 

ようやくメジャー感のあるコーナーかと思いきや、そこは南さんのコレクションだけあって、一番マニアック度も強かったかもしれないのが、このコーナーでした。ただ眺めているだけだとなんのことかさっぱりわからないと思うので、ついているキャプションは目を通すことを強くおすすめします。

このコーナーはさらに「邦画ポスター」「洋画ポスター」「海外ポスター」の3コーナーに分れており、合計展示点数は80点。さらにミニコーナーとしてその数に含まれていない(南さんが一番気に入っている)「戦前の映画チラシ・パンフレット」「ディズニー作品1950年代~80年代チラシ等」コーナーまで控えています。

 

▲「非常線」。監督マキノ雅彦。出演小田進。南さんお気に入りの一枚。何が面白いのかは、映画ファンにはすぐわかりますよね。

 

▲少年探偵団だ!「名探偵明智小五郎シリーズ 青銅の魔人 第四部 謎の夜光時計」。監督穂積利昌。出演若杉英二。青銅の魔人だけで第四部もあるのか……。

 

▲超絶絵が上手いとおもったら、それもそのはず生頼範義の「渡世人列伝」。監督小沢茂弘。出演鶴田浩二。しかし、南さんの注目ポイントは、生頼さんではなく、(一般人には知られざる)生頼さんのライバルイラストレーターでした。2人が対比するように展示してあります。

 

▲日本の映画発祥の地は大阪説の南地演舞場(現在はTOHOシネマズなんばが入る東宝南街ビル)のポスター。説を唱えた「武部好伸さんに敬意を表して」と南さん。

 

駆け足でしたが、『手書き絵看板の世界』の速報版レビューをお届けしました。まだまだ書くことが沢山……特に映画ポスターコーナーにあるので、続きは詳細版をお待ちください!

 

 

会場 堺市立東文化会館 2階ギャラリー

料金 入場無料

主催 堺市立東文化会館
〒599-8123 堺市東区北野田1084-136
TEL072-230-0134 FAX072-230-0138
【休館日:水曜日(祝日の場合は開館)・年末年始(12月29日~1月4日)】

 

 

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