劇場から世界を変える!! アジアンユースシアターフェスティバル(3)

 

アセアンを中心に12カ国14団体の演劇を志す子どもと若者、約160名がマレーシアのリゾート地コタキナバルに集結しました。今年で3回目となるアジアンユースシアターフェスティバルです。フィリピン、ベトナム、シンガポール、マレーシアなど歴史的にも堺と関わりの深い国々が名前を連ねるこのフェスティバルに、筆者も日本チームに帯同してきました。日本チームのFREAM! theatreが開会式に続いてトップバッターとして公演した1日目、立て続けに4公演を見たりカメラマスターに出会った2日目に続いて、さて3日目は何が起こるのでしょうか?

 

■ワークショップが友情を育む

 

3日目ともなると、12カ国から集まった子どもたちも互いにどんどん顔見知りになっていきます。朝起きてホテルのロビーに集合して出発を待つ間も、送迎バスで会場へ向かう間も、グループが入り交じって会話を楽しむようになっていました。
この日は、子どもたちの交流を加速していたものの正体を知ることになります。それはワークショップでした。

各団体は、公演を1つとワークショップを1つ担当することになっていました。プログラム的にも、劇場とそれ以外の施設で、公演とワークショップが交互に組まれていました。ちなみに、プログラムには記載されていませんが、ワークショップに参加していない子どもたちの間で、突然ゲームが始まることもありました。

●「ダンスワークショップ」GIGI ART OF DANCE(インドネシア)

 

ダンスの前に、エコロジーファッションのワークショップがありました。プラスチックバッグ(いわゆるレジ袋)などプラスチック製品をリサイクル工作してファッションアイテムに生まれ変わらせるのです。5~6人程度のグループに分れて、相談しながらアイテムを作っていきます。もちろんアイテムをまとっての、ファッションショーも開催されました。

後半はがらりと変わって、インドネシアの伝統的な座りながらのダンスのワークショップに。手と上半身の動きだけで表現するこのダンスは、横一列に並んだ共演者たちとタイミングを合わせる必要があります。息の合った動きに成功した時に、子どもたちの顔は達成感に輝いていました。

 

●「棒術ワークショップ」PRACHYANAT(バングラデシュ)

 

棒を使ったバングラデシュの伝統的な武術のワークショップ。本当はもっと長い棒を使うのだそうですが、飛行機に持ち込めなかったのだとか。殺陣のワークショップを行った日本チームのメンバーは、この棒術のワークショップを受けて「武術というよりは、舞踏的なものでは?」と言っていましたが、尋ねてみると「戦いはなく、ゲーム」とのことで、見立てはあたっていました。

 

●「表現のワークショップ」SEEDS THEATRE(ブルネイ)

 

パーティーゲームのような遊びで体と気持ちをほぐしてから4つのグループにわかれます。各グループごとに紙でお題を出されます。「山火事から逃げる森の動物」とか「風景を見てると何かがやってくる」とか。それを静止したポーズ、動きだけ、動きと声の3段階で表現するという課題。即興の表現力が鍛えられるようですね。

 

●「バンブーダンスのワークショップ」WORK IN PROGRESS(マレーシア)

 

 

リズムを刻む竹の棒をかわしながらステップを刻むバンブーダンス。ワークショップで何かを学ぶというよりも、遊びながら体験するといった時間でした。

多くのワークショップでは、国や団体を横断して、ごちゃまぜのグループを作って共同作業をするようになっていました。必ずしも英語に堪能な子どもばかりではありませんでしたが、ボディランゲージも使いながら、お互いが一つの目標に向かって協働作業をするうちに交流が深まっていくようでした。
公演することと同じぐらいに、このワークショップには大きな価値があったのでした。

 

■指導者たちからのアドバイス

ワークショップだけでなく、この日の公演は、朝からはじまって実に5公演もありました。公演に出演する側と観る側、ワークショップを企画する側と参加する側。めまぐるしく立場を入れ替えながら、子どもたちは実にタフにプログラムをこなしていきます。

 

●「IMAGINE(A)NATION」USALT(フィリピン)

 

フィリピンで実際に起きた台風被害を題材にした作品。ドラマパートと、実際の被災地の様子の記録や、アーティストによる被災地支援の様子なども作品に含まれていました。ジャーナリズムとアクティビズム(市民活動)をアートでくるんだような作品でした。

 

●「THE NOISE」LAN YIM THEATRE(タイランド)

 

舞台から観客席に向かって弦のように張られた糸が印象的です。繭の中から生まれた女が、もう1人の女のマネをし続ける無言劇。母と娘、伝統産業のシルクの継承、そういったことがテーマにあったかもしれません。

「ノイズ」というタイトル通り、劇中で不快な音と光が使われていましたが、それについて他国のリーダーから苦言が呈されました。「僕はあなたの舞台も音響も好きだけど、不快で客席にいられないお客様もいるかもしれない。その責任はどうとるの?」
作者はうまく答えることができませんでした。柔らかい物言いでしたが、鋭い指摘で、大人たちが、まさに責任をもって子どもたちを育てようとしていることが垣間見えた一コマでした。

 

●「PLASTIC FANTASTIC」GIGI DANCE OF ART(インドネシア)

 

海も山も消え去り、プラスチックが全てを覆ってしまった世界で求める自然保護とはなんなのだろう? ディストピア(反理想郷)を舞台にした現代に対する風刺劇。ダンススクールの選抜チームということもあって、子どもたちが魅せるダンスは見事でした。

 

●「SAVE AYAWADY DOLPHINE」INWA SCHOOL OF PERFORMING ARTS(ミャンマー)

 

ミャンマーを流れる大河エーヤワディー川に住む河イルカと、イルカを利用した漁をする漁師と電気ショックを利用した漁をする漁師のストーリー。この電気漁は効率がいいのですが、川の生態系を破壊し、イルカも姿を消してしまうものなのでした。昔話のような牧歌的なスタイルをとりながら、極めて深刻な環境破壊がテーマになっていました。

 

●「SAVING THE BLUE」YATTA(フィリピン)

 

フィリピンの漁村の子どもたちを、どこか神話的に描いています。海沿いのお話ということもありますが、ジブリアニメの『崖の上のポニョ』のように、子どもたけが現実世界と幻想世界を行き来します。テーマになっているのは、大形漁船による海洋資源の強奪で、経済が環境を破壊するという、これも現在進行形の問題を扱っていました。

 

■「自分が何を出来るか考えなさい」

 

▲笑顔のアンバサダーの2人、Nikki Cimafrancaさん(フィリピン)、Masturah Oliさん(シンガポール)。

 

プログラム数が最も多かった3日目が過ぎましたが、そのままでは終わりませんでした。
この日、筆者は運営スタッフから名指しで叱られてしまったのです。
「笑顔も見せずに、フェスティバルに貢献していない日本人がいる。フェスティバルの趣旨を理解していない」

子どもたちが主役のこのフェスティバルには、大人たちには役割があったのです。厳しい社会情勢や、未来が信じられないような世界にあって、子どもたちが未来を信じられるようになること。そのためには、子どもたちが、一目見て自分たちもそうなりたいと思うような大人として振る舞うこと。
「自分に何が出来るのか、考えなさい」
大人たちがずっと笑顔で子どもたちに接していたのには、そんなわけがあったのでした。

さらに日本には肩身が狭い事情がありました。今回のフェスティバルは、宿泊費も食事代も会場費も無料だったのですが、それは各国から助成金や補助金が提供されたからなのですが、唯一一銭も出なかったのが日本だったのです。戦争の傷跡が癒えない国、軍事政権や独裁体制に苦しむ国もある中、経済的にも豊かな先進国である日本から資金が出なかったことは、フェスティバルのスタッフにとっても驚きだったようです。

 

▲ベトナムチームに帯同していたカメラマンのTrunさん。彼が笑顔でカメラを向けるとみんな笑顔になる。英語はまったく話せなくても、素晴らしいコミュニケーションをとっていたのでした。

 

つまり、ただ飯ぐらいの日本人が、無愛想に写真を撮るだけとって、何ひとつフェスティバルに貢献していない、と糾弾されたのでした。
お手本にせよ、と言われたのは、ベトナムのカメラマンでした。いつもにこやかに写真を撮る彼の姿に、誰も嫌な気分にならない。みんな楽しい気持ちになる。英語もほとんど喋られないトゥルンさんでしたが、誰よりも素晴らしいコミュニケーションを撮っていたのでした。

指摘はまっとうなもので、ぐうの音もでませんでした。幸いなことに、まだ巻き返すチャンスが一日だけあります。ラストチャンスの4日目を、こうして迎えたのでした。

第4回に続く)

 

●関連情報
アジアンユースシアターフェスティバル2020の情報はこちら→web
アジアンユースシアターフェスティバル日本チームの情報はこちら→FaceBook


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