ミュージアム

ミニ展示「いきものの文様と意匠」レビュー(2)

 

さかい利晶の杜では斬新的なリニューアルが続いていて、常設展の小さな展示であっても、明確な意図をもった展示、見せる意図をもった展示へと変化しています。ミニ展示「いきものの文様と意匠」では、文字通りいきものを文様や意匠として取り入れている茶道具の出土品が取り上げられており、当時の人たちがいきものたちに託していた思いや意味を解説していただきました。前篇の記事に引き続き今回の後篇も、学芸員の三好帆南さんの案内で、茶道具の中の動物たちを紹介していきます!

 

■茶道具の中の動物園

●波に兎

▲波の上を走る兎が描かれた向付。

 

――さっきは白兎の水滴でしたが、今度はお皿に描かれた兎ですね。
三好「これは『波に兎』と呼ばれる文様で、古くは室町時代にまでさかのぼります。文様の由来としては、以下の3点があげられます。①謡曲『竹生島』、②『火伏せ(防火)』を祈願する、③神話『因幡の素兎(しろうさぎ)』で、この向付は①の謡曲『竹生島』に該当します。月の光が水面に揺らいでいるさまを見立てて、兎が波の上に走っているように文様化したものなのです」
――月といえば兎ですからね。見事にイマジネーションに溢れている世界ですね。走る兎の耳が長くカリカチュア(誇張)されているのもデザインとして見事です。
三好「躍動的な姿で飛躍を意味しています。また、兎は多産なので、豊穣を願う意味もこめられています」

 

●カエル

▲ヒキガエルの頭の香合蓋。釉薬が剥がれた状態。

 

――この小さなお面のようなものは何でしょうか?
三好「これはヒキガエルの頭を模した香合の蓋です。中国南部で作られる華南三彩ですが、釉薬が剥がれた姿になっています」
――これも中国産、唐物なんですね。お茶における中国からの影響は大きなものですね。
三好「中国では、三本脚のヒキガエルが兎と一緒に住んでいて、月蝕はカエルが月を飲み込むから起こるとされていました。香合の本体が見つかっていないので、全体の意匠は不明なのですが、ヒキガエルは財運や出世、科挙の合格を意味しました」
――日本風に言うと商売繁盛、学業成就といった所ですね。

 

▲同じくヒキガエルの香合の蓋。

 

――こちらもヒキガエルですね。同じく蓋ですか?
三好「香合の蓋ですね。イボが点々で描かれているのでヒキガエルだとわかります。日本でもヒキガエルは雨をもたらすので、豊作の吉祥文様とされています」
――よく見ると背中に花みたいのも描かれていて可愛いですね。

 

●魚

▲中国南部で作られた華南三彩盤。全体に緑釉が、部分的に褐釉と黄釉が使われている。

 

――こちらのお皿にはなんの動物が描かれているのでしょうか。
三好「見込みには双魚紋と共に、海老紋、水草紋が描かれています。魚は中国語で豊富・裕福を意味する『余』と同じ発音であることから、富を象徴しています。また一度にたくさんの卵を産むことから、結婚や子宝に恵まれることも意味します」
――似たものには同じ力があるというのは、共感呪術という一種の呪術的な思考ですね。海老はどうなんでしょうか?
三好「海老は、硬い殻を身につけてもしなやかに曲がる様子から、難所を乗り越えて順調に進むとされました。また腰の曲がった姿から、不老長寿の象徴とされてきました」
――お節料理で海老が喜ばれたりするのもそこからでしょうね。
三好「茶道具としては、中国明代後期に、中国大陸南部で焼かれた八輪花の口縁を持つ器です。華南三彩と呼ばれ、全面に緑釉、部分的に黄釉と褐釉が施されています。これと同類の盤が、大分市の中世大友府内町跡からも出土されています」

 

●龍

▲いきもののチャンピオン?は想像上のいきもの龍。

 

――いよいよ最後のいきものです。
三好「最後に紹介するのは龍です。龍は古くから吉祥紋として一番良く描かれています。雨乞いや治水の神として信仰を集め、のちには王を現わす文様として用いられました。見込みには、龍なのか魚なのか良くわからない姿が描かれていますが、これは中国で有名な逸話『登竜門』にちなんでいます。黄河上流の峡谷の激流を登った鯉が龍になるという伝説です。登竜門は立身出世の関門に例えられます」
――日本でもよく言いますね。
三好「側面にはしっかりとした龍と玉が描かれています。龍の爪の数にもルールがあって五本爪は王のもので、この龍は四本なので民間で使ったものでしょう。その上には、飛馬紋が描かれていますが、飛馬は早く着くということから、出世を現わし、中国で縁起のいいものとされています」

 

■いい資料を見せる展示から、親しみやすい展示へ

 

――麒麟からはじまり、龍で終わる。いきものに対して当時の人々のこめた思いやイマジネーションが良くわかるとても楽しい展示でした。また、茶の湯に対して中国からの影響が想像以上に大きかったことも見えてきたように思うのですが、この展示自体で伝えたかったことはどのようなことでしょうか。
三好「利休以前の茶の湯は唐物第一でした。数がすごく多く出土するわけではないのですが、中国の影響の大きさがわかります。そこからも堺が貿易で栄え、外国からの影響を受けて発展していたことがわかります。そして、利休以降は和物、日本独自のものが増えていきます。中国の喫茶が、佗茶や茶室など日本独自に発展していくのですが、源流をたどると中国へとつながるのです」
――単に唐物を輸入してありがたがったというだけではなく、文様の中に込められた文化や教養も輸入し、それを日本流に昇華していった所が面白かったです。それも、いきものというとっつきやすい題材がテーマだったことは大きいように思います。
三好「これまではいい資料を見せようという考えでやってきて、ある程度紹介は出来たと思います。今後は分類、ジャンルにテーマをもって展示していくことで、親しみをもって見て欲しいと考えています。今回は、本来であれば夏休みということもあり、子どもたちの来館が増えるので、いきものをテーマにし、キャプションも工夫したのですが」
――コロナの影響で、そこは残念でしたね。

 

 

さかい利晶の杜のエントランスには、夏にあわせて風鈴の展示がインスタレーション(空間展示)のように設置されていました。これも今までになかったエントランス空間の活用のひとつということです。

今回取材したミニ展示や、この風鈴一つをとっても、ミュージアムというのは、ハードウェアとしての建物に所蔵品や展示物があるというだけでなく、それをどう活用するのか、どう魅せるのかというアイディアをもたらす人がセットなんだということが良くわかったように思えます。

ミニ展示「いきもの文様と意匠」は12月14日まで。途中で展示の入れ替えがあるそうで、すでに取材時の展示物とは変更されているかと思いますが、新しい動物たちとの出会いを楽しみに、ぜひさかい利晶の杜に足を運んでみてください。

 

さかい利晶の杜
堺市堺区宿院町西2丁1番1号
072-260-4386
http://www.sakai-rishonomori.com/

 

開催期間 令和2年8月19日(土)~12月14日(日)休館日:毎月第三火曜日(祝日の場合は翌日)

開館時間 9時~18時(最終入館17時30分)

観 覧 料 大人(大学生含む)300円、高校生200円、小中学生100円

※企画展開催中は上記観覧料で「企画展」と「常設展」がご覧いただけます。


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