ミュージアム

ミニ展示「いきものの文様と意匠」レビュー(1)

 

さかい利晶の杜は開館5周年を超えて、いつのまにか目立たない所でもグレードアップしています。そのひとつが1階にある環濠遺跡からの発掘品の展示コーナー。以前はいかにも発掘現場から掘り出してきた焼き物の欠片です! 学術的な展示です! といったかんじでごろんと出土品が並べられているだけだったと記憶しています。
考古学マニアなら、そんな残骸からも、歴史の断片を嗅ぎ取りうっとりできるのかもしれませんが、一般人であれば、今朝子どもが割った茶碗の欠片とどこが違うねんと一刀両断されておしまい……なんてことになってしまいそう。実際、このコーナーに長く足を止めている人を見たことはありませんでした。
しかし、前回のリニューアルでは、ここにつなぎ合わした茶碗を置き、しっかりとしたキャプションを置くことで、美的にも鑑賞に堪えうる美術館的なコーナーへと生まれ変わったのでした。この奥ゆかしくもひっそりとした、けれども本質的には劇的な変化の起きたビフォーアフター。今回はこの展示がさらにリニューアルし進化をしたということで、さかい利晶の杜へと足を運んだのでした。

 

■出土品コーナーリニューアル

コーナーの展示リニューアルを担当したのは、前回のリニューアルに引き続き学芸員の三好帆南さんです。今回も案内していただくことになりました。

――コーナーがまたリニューアルされたということですが、どのようなリニューアルがされたのでしょうか?
三好「このコーナーでは1615年(慶長20年)の大坂夏の陣で堺が焼けた地層から出土したものを展示していました。それをただ良いものを展示品として置くのではなく、これからはテーマやジャンルにこだわった展示をしていこうということになりました。それで今回は、『いきものの文様と意匠』がテーマになっているのです」
――「いきものの文様」ですか。それはどんな出土品に描かれていたのですか?
三好「この地層からは大坂夏の陣以前の豪華な茶室跡や茶道具が出てきます。そうした茶道具にはいきものが文様として取り入れられているものが多くあり、それはほぼどういう意味を持っているのかが分かるのです。それをキャプションでは解説しています」
――なるほど。出土品の動物園って感じですね。では、どんないきもの達がいるのか解説をお願いします!

 

●麒麟

▲400年以上前の堺の人は、麒麟にどんな思いを込めたのでしょう。

 

三好「この香合の蓋に描かれているのは麒麟です。空を見上げてすっと座っています。側面には鳥と飛馬紋(飛ぶ馬)が描かれています。おそらく当時の特注品で、ほぼほぼ完全な形で出てきました」
――麒麟にはどんな意味があるのですか?
三好「NHK大河ドラマの『麒麟が来る』でも描かれているように、麒麟は徳の高い王様の時代に現れるとされている伝説のいきものです。文様としては定番なのですが、麒麟は龍や鳳凰より後の時代に出てきたいきものなので、茶道具類の中で描かれるのは珍しいです」
――まずは旬の動物をぶちこんできましたね。ドラマの明智光秀のように、戦乱の時代が収まることを望んだ人が発注したのでしょうね。

 

●孔雀

▲富貴のシンボルである孔雀と牡丹。

 

――こちらは、破損がひどいですが大皿ですね。描かれているのは、鳥と花でしょうか。
三好「孔雀の横に描かれているのは牡丹です。ちょっと牡丹ぽく見えないですけれど、孔雀と牡丹はセットで描かれるのです。どちらも華やかで富貴さを示します」
――お皿は何に使われたものですか?
三好「会席料理の大皿として使われたのではないでしょうか? 他の使い方もされたかもしれませんが」
――堺のリッチな商人が使っていたんでしょうかね? ゴージャスでいいですね。

 

●水鳥

▲可愛い置物のようですが、水を注ぐことができる優れもの。背中部分に注入部があり、くちばしが注ぎ口になる。

 

――これは鳥の置物? 文鎮でしょうか?
三好「これは墨をする時に、水を足す筆架、水滴です。こういう水鳥の水滴は良くあります。九州では同じようなものが発掘されているのですが、これは中国から輸入されたもののようです。
――中国製、唐物の筆記具なんですね。
三好「水滴を茶道具の飾りに使うことは良くあるのです。この水鳥は、ヘラを使って風切羽や尾羽など鳥の特徴的な羽の描き方をしています。目の周辺部のアイリングも丁寧に描かれています」
――今で言う有名フィギュアメーカー海洋堂みたいな、こだわり造形師が中世中国にもいたんですね。

 

●白鶴

▲鳥を描いた向付。中央のものは、八仙人の1人藍采和のもとに白鶴が舞い降りる情景を描いたもの。

 

――3枚組のお皿ですね。相当図柄が凝ってますね。
三好「向付といって、会席の最初に出される一皿に使われるものです。少し分かりづらいのですが、手前のものは、八仙人の藍采和(らんさいわ)と白鶴が描かれています。なぜ、この人物が藍采和とわかるかというと、セットで描かれているものでわかるのです」
――キャラ立てがしっかりしてるんですね。
三好「藍采和は花籠と拍子という楽器です。藍采和には白鶴が舞い降り、空から音楽が聞こえてくるというエピソードがあるのです。この向付に描かれているのはそのシーンです」
――お茶席で、どの八仙人かなー? これは藍采和だよねーとか言って楽しむんですね。あなたの推し仙人は? とか。教養が要求される遊びだなー。

 

●白兎

▲こちらは白兎の水滴。背中の注入口と口の注ぎ口がわかりやすいですね。

 

――ちょこんとした兎ですね。背中と口に穴が空いているということは……。
三好「これも水滴になります。白兎は、中国ではおめでたいシンボルとされているんです。道教に強い影響を与えた神仙術に関する諸説を著した書物には、「白兎は1000年生き、500年で真っ白になる」と書かれています」
――日本だと鶴が1000年ですが、中国は白兎が1000年なんですね。
三好「日本だと神話の『因幡の素兎(しろうさぎ)』の『素(しろ)』が『白』と同音なので、白い兎は良縁や縁起物と考えられるようになりました。では次は別の日本の兎を紹介しますね」

 

中世堺の出土品の茶道具に描かれたいきもの文様。いきものたちには当時の人々の願いや教養が表れており、なんとも魅力的です。プロダクトとして、レプリカを売ってみたらどうだろうか? と思ってしまう素敵さです。さかい利晶の杜の臨時収入にも……。
それはさておき、このミニ展示のレビューは後篇へと続けることにしましょう。さあ後篇ではどんな動物たちが待っているでしょうか。

 

さかい利晶の杜
堺市堺区宿院町西2丁1番1号
072-260-4386
http://www.sakai-rishonomori.com/

 

開催期間 令和2年8月19日(土)~12月14日(日)休館日:毎月第三火曜日(祝日の場合は翌日)

開館時間 9時~18時(最終入館17時30分)

観 覧 料 大人(大学生含む)300円、高校生200円、小中学生100円

※企画展開催中は上記観覧料で「企画展」と「常設展」がご覧いただけます。


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