行って、見て、知ろう! 動物指導センター(2)

 

JR阪和線「堺市」駅から徒歩数分に堺市動物指導センターがあります。かつては主な業務だった野犬の捕獲は、堺市ではもう十数年も行われておらず、現在は主にペットの飼い方指導が主な業務となっています。しかし、取材に伺った日もセンターの犬舎と猫舎には、少なくない犬と猫が保護されていました。彼らは、一体どういう運命をたどりここまで来て、そしてこれからどんな運命を迎えることになるのでしょうか。前回(第1回)に引き続き、動物指導センターの大橋吾郎主幹にお話を伺います。

 

■ペットを巡る法律

▲堺市動物指導センターの入り口の奥に動物慰霊碑が見える。道路から手を合わせる人も少なくない。

 

――センターで保護される犬や猫はどういう経緯でやってくるのでしょうか?
大橋吾郎(以下、大橋)「センターで直接保護する場合と、警察に届けられる場合があります。動物というのは、法律上は物扱いなんです。だから、もしあなたが犬や猫を保護したら、それは落とし物、遺失物を拾ったことになります。警察が遺失物を預かるのは3ヶ月ですが、動物の場合警察では2週間ぐらい預かって、届け主に飼うか飼わないかを尋ねます。飼わない場合は、センターが引き取ります。堺市の動物指導センターでは、いわゆる『命の期限』といったものは設けていません」
――タイムリミットはないんですか?
大橋「堺市ではありません。長い子で、1年とか2年とか、センターにいる子もいます。センターで引き取ると、譲渡に適するか、適さないかを判断して、登録ボランティアが譲渡先を探します。適さないというのは、健康かどうか。病気をしていたり、抱っこを嫌がる場合などで、簡単に譲渡先を探せないケースです」
――以前の飼われ方に問題があることもありそうですね。
大橋「飼い主から直接引き取ることもあるのですが、多くの場合は、飼い主が年をとって施設に入ったり、亡くなられたりする場合です。また、犬は大抵1匹で飼うことが多いのですが、猫は2~3匹で飼うことが多い。そうすると、適切に不妊去勢手術を行わなかったりすると、急激に増えて猫屋敷になり、多頭飼育から多頭崩壊へと至ることがあるのです」

 

▲多頭飼育で飼いきれなくなった猫たちが保護されていた。

 

――仕方がない面はあるかもしれませんが、飼う方の責任が問われるんじゃないですか?
大橋「ところが、先ほども言ったように、動物は物扱いなんです。日本の憲法には動物について書かれていないので、法律を作りづらいと言われています。近年やっと動物愛護法によって、動物虐待への罰金は厳しくなってきました。今、ペットの販売業者への規制が出来てきましたが、飼い主へのものは無いのです。ペットを飼うのに資格は無い。誰でもペットショップへ行けば、動物を飼うことが出来るんです」
――業者に対する規制は、どんな状況なのでしょうか?
大橋「10年前までは、ペット販売やペットホテルといったペット業者には許可制度もなく、届け出をすればいいだけでした。今年の6月から改正動物愛護法によって、営業するために資格と経験が必要になりました。また、ペットというのは、小さいほどよく売れます。以前は49日ルールで生まれた49日を過ぎないと売れなかったのですが、これが56日にまで伸びました。(和犬は49日のまま)。今後は、従業員一人当たりの飼育・販売できる動物の上限規制も設けられる予定です」
――1週間の差ですが、小さすぎる子を売る制限が出来たのですね。
大橋「2年後には、販売業者に対してですが、犬と猫もマイクロチップを埋め込むことが義務化されます。これによって原理上は飼い主が誰かわかるようになります」
――ようやく業者への規制がここまで進んだ一方で、一般の飼い主への規制は無いんですね。
大橋「5年後にはルールの見直しがあります。その時には、一般の方であっても頭数規制やマイクロチップの義務化などが行われるかもしれません。しかし、飼い主への飼い方の適正指導はなかなか難しいのです。というのも、私たちは家の中には入れません。入る権限が無いからです。指導に行っても、実際に改善されるのは5割から6割ぐらいでしょうか。特に改善しないのは、猫の餌やりです。糞尿の掃除や不妊手術をするようにと指導するのですが、注意すると闇に潜る方がいるのです」
――闇に潜るってどういうことですか!?
大橋「高齢の方に多い傾向があるのですが、注意されるとご近所ではなく、知り合いのいない遠くへ移動して餌やりをやる方もいるのです」
――闇に潜ってまでなぜ餌やりをしたいのか、猫屋敷問題も含めペットの周囲には興味深いテーマがありますね。
大橋「地域やご近所への配慮があればと思うのですが……最終的には民事裁判ということになりますが、裁判でも解決しない問題です。財産を取り上げることは出来ませんから」

 

■命の期限はなくとも、殺処分ゼロは難しい

――そうか。飼っているペットは法律上は物ということは、財産でもあるんですよね。
大橋「飼い主が年をとってペットを飼えなくなったという相談は多いんですよ。ペットの寿命も延びていて、大型犬で12年ぐらい、小型犬だと15~20年。猫も20年は生きます。そして人間の健康寿命も延びています。人も年を取ると病気がちになるように、ペットも年を取ると世話をするのに、手間もお金もかかります」
――年をとったペットだと、新しい飼い主も簡単には見つからないですよね。
大橋「逆に子犬や子猫は見つかります。相談があった時も、子犬や子猫は絶対に飼い主が見つかるので、必ず探してくださいとお願いしています。センターで安易な引き取りはしていません」
――先ほど預かった犬猫の『命の期限』は設けてないとおっしゃっていました。よく、犬猫の殺処分ゼロを目指すとか、どこどこでは殺処分ゼロを達成したといいますが、堺市は殺処分ゼロということですか?
大橋「そこは難しい問題があって、私たちはそうは言ってません。どうして、なのかというと、たとえば交通事故で大けがをした犬や猫がなど余命が幾ばくもないとわかっている場合への対応の仕方はセンターによって違います。安楽死をさせることを選択するセンターもあれば、冷たいコンクリートの床で最期を迎えるのは可哀想だからと職員が付き添って死を看取る所もあります」
――それはどちらがいいとは簡単に答えが出ない話になりますね。
大橋「手術をすれば助かる。しかし、猫1匹の手術に100万も200万もかかるとしたらどうでしょうか。人間にだってそんなお金は回ってないと言われるでしょう。猫エイズや猫白血病といった病気もあります。また、生まれて間もない幼齢だと、24時間目を離すことができません。そうすると数の限られた職員で対応することは出来ないんです」
――民間のボランティアにお世話を頼むことは難しいのですか?
大橋「飼育の難しい幼齢の子猫を安易に手渡すことは出来ません。幼齢の子に対応できるようなミルクボランティアが出来る方は大抵猫好きで、すでに猫を飼っている事が多いのですが、幼齢の子が猫エイズなどの病気を持っている可能性がある。可能性があるけれど、小さすぎて検査することも出来ない。そんな子をすでに猫を飼っている方にお預けできない」
――子猫の世話になれているけど、丁度猫は飼ってない人……なんて、なかなかタイミングが無さそうですね。

 

▲こんな小さな子猫たちも保護されていました。もっと小さければ保護も不可能だったでしょう。

 

大橋「病気をもっている子が、運良く預かってもらえる方が見つかったとして、慢性の病気だったら、やはり預けるのは躊躇します。治療費はバカになりません。混合ワクチンは5~6000円はします。10本も打てばすごい値段になります。病気のペット用のペットフードも安くありません」
――ボランティアに頼り切ることもできない。袋小路から抜け出せていないような状況ですね。
大橋「はい。なので、この取材記事を読んでいただいて関心をもたれた方には、一度センターを訪れて欲しいと思っています。堺市にはこういう施設があるということを知って欲しいです。感染症予防の面から、犬舎や猫舎には入ってもらえませんが、サンプルデータを見ていただくことは出来ます。譲渡は登録制なので、まず登録していただいて、ご希望の犬種などが来たらお知らせするといった手順を踏みます」
――沢山の方が支えてくれるようになれば、袋小路から抜け出せるかもしれないわけですが、すぐに譲渡してもらえるわけじゃないのですね。
大橋「ペットショップではないので、一端考えてくださいとお願いしています。最後まで責任を持って飼えるかどうかを。また、65才以上の方、独身の方には、もし自分に何か会った時に、誰に譲渡するのかを書いてもらっています。そこまで考えてもらって譲渡しています」
――生き物の命をお渡しする仕事の大変さがわかってきました。安易な解決法が無いということも。

『命の期限』が無くとも、全ての命を救えるわけではない。一方で、救えない命の数を減らしていくことは出来る。そのためには、センターの力だけでは不足ということが分かってきました。次回は、さらに一歩踏み込んで、センターと協力していく方法についてお知らせします。

 

堺市動物指導センター
住所:大阪府堺市堺区東雲西町1丁8−17
電話:072-228-0168
web:http://www.city.sakai.lg.jp/kurashi/dobutsu/shidocenter/shidocenter.html

■動物愛護フェア 開催予定

日時:2020年9月22日(火・祝)の 10:30~15:00
場所:堺市動物指導センター

 


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