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刃付け屋さん開業す 高田充晃(1)

 

古刹が立ち並ぶ寺町筋。「御坊さん」の名で知られる本願寺別院、与謝野晶子を偲ぶ白桜忌が行われる覚応寺に挟まれた、堺区神明町東の古い民家に新しいお店がオープンしました。業種は「刃物屋」。堺といえば刃物の町ですが、どこも老舗で、新しく「刃物屋」さんが開業するのは、めったにないことです。
そのオーナーにして刃物職人こそ、高田充晃さん。つーる・ど・堺でも取材させていただいた、関東出身で音楽業界から転職してきたという変わり種。

2018年、長年勤めた並松町の芦刃物製造所を退職し、オープンした「高田ノハモノ」。オープン当初から取材をお願いしていたのですが、半年経って設備も整い、やっと落ち着いてきたということで、ようやくインタビューすることが出来ました。

 

■ついに出会った理想の建物

 

 

――ちょっと時間が経ちましたが、開業おめでとうございます。独立は、一体いつ頃から考えておられたのですか?
高田充晃(以下、高田)「ありがとうございます。そうですね、おぼろげにはずっと考えていたように思います。より思いが強くなったのは3~4年前ぐらいからでしょうか。芦刃物での仕事が忙しくなって、自分の作品を作れないというジレンマで、ストレスが高まってきたというのもありました」
――高田さんは、職人さんですが、芸術家気質が強いようにお見受けしますね。
高田「そういえば、榎並さん(榎並刃物製作所)から、『君は職人なのか、芸術家なのか?』と尋ねられて、『芸術家肌の職人になりたいです』と答えたような気がします。榎並さんは笑ってましたけど」
――それで、退職したのはいつだったのですか?
高田「去年の3月に引き継ぎ期間を3ヶ月おいて6月に退社したいと告げました。それで、本当は7月から仕事を始めたかったのですが、準備には相当時間が掛かってしまったんです。最初にこれまで持ったことが無い携帯を4月1日に購入しました」
――前のインタビューでは、携帯をもつことは無いだろうとかおっしゃっていたのに(笑)
高田「砥石は注文してから3ヶ月かかるので、注文して、設備や機械探しです。中古の機械をずっとネットやネットオークションで探しました。それから場所探しが大変でした。近い不動産屋は全部回ったけれど、めぼしいものはありませんでした。実は自分でも前々から自転車に乗っていい物件はないか探してはいて、ここの裏手にあるメッキ工場の倉庫に目をつけていたんですよ。佇まいが格好いいなと思って。ずっと、大家さんがわからなかったんですが、それが偶然分かったんです」

 

 

――それはすごい。一体どういう経緯なんですか?
高田「僕の友達に倉庫の話をしたら、その倉庫の半分を友達の先輩が借りていることがわかったんです。その先輩経由でどうにか大家さんとつながることができました」
――でも、その倉庫は借りなかったんですよね。
高田「倉庫が空いたら、今使っている友人の先輩が借りたいという話をすでにしていたそうなんです。先輩が使わないのなら、貸してあげてもいいけど、と大家さんはおっしゃったんですけど。で、そんな話をしていると、大家さんが、こっち(今の物件)なら貸してあげるよと。2年間空いていて、そろそろ潰してコインパーキングにでもしようかと考えていたそうなのですが、中を見せてもらったら、建具も素晴らしくてもったいないと驚きました」
――こんな素敵な建物ですものね。
高田「昔から町家で工場をしたいという夢がありました。最初は倉庫とかで仕事をはじめてお金をためて町家で工場をと考えていました。ここは築65年で町家とは言えないんですけれど、ここでなら夢が叶う。改装のためにお金も時間もかかるけれど、運命かと思って借りることにしたのです」

 

■町家カフェのような刃物屋さん

 

 

――4月に借りて10月にオープン。改装するのに、随分時間がかかりましたね。
高田「夏中掛かりましたね。作業をしていると近所の方が覗きにきて、何ができるのか興味津々なんです。カフェが出来るのか? と楽しみにされていたみたいなんですが、『すいません刃物屋です』って、申し訳なかった」
――今でも機械が無かったら町家カフェみたいですよね。
高田「僕は、改装工事を始める前に完成図の絵を描いているんです。日付を見ると5月8日に描いてますね」
――おお、すごい。この絵と現在の様子はほぼ一緒じゃないですか。
高田「その頃は、今土間になっている所に部屋があったので、そこを解体するところから始めました。友達にも手伝ってもらって、こちらの壁もベニア板が覆っていたので、ひっぺがしたらこの窓が出てきたんです。だから、その絵には窓が描いてありません」
――あ、本当だ。
高田「解体には友達や子どもにも手伝ってもらいました。子どもって、家を傷つけるなってよく言われますが、家を壊すことなんて滅多に出来ない経験だからやって欲しかったんです。子どもってすごいですよ。天井を落とす時も、埃や砂でいっぱいだし、大人はネズミやゴキブリの死骸があったらどうしよう、なんて言ってるけど、子どもは砂が落ちてきても大喜びで気にしません。楽しそうに解体作業をしてくれました」
――子どもにとって良い体験になりますね。

 

 

高田「業者に頼むと早いけれど、自分でやったら工場に愛着も沸くし、自分で隅々まで理解することが出来るでしょう。友達と一緒にやると、友達も来やすい場になる。みんなが集える場になると思ったんです。ほら、この壁の漆喰塗りもみんなでやったんです。漆喰塗り大会と言って、大人から小学生まで20人ぐらいで。百均で100円の小さなコテも10個買って。見てください。やる人によって、全然仕上がりが違うでしょう。丁寧にやる人も荒々しくやる人もいる。ここなんてプロヴァンス風とかいいながらやったんです。最後にかき氷を出して、みんなで食べて楽しいイベントになりました(笑)」
――お話を聞いていると、この工場自体が、高田さんがプロデュースした作品のようですね。前職が音楽業界だった高田さんだからこその発想のようにも思えます。
高田「そうだね。音楽の世界でも、アーティスト、レコード会社、プロモーション、色んな人の力で1枚のCDが出来る。ここも色んな人の力が結集した作品かもしれないね」
――オープンは昨年の10月末でしたか?
高田「10月からぼちぼちはじめて、10月30日をオープン日にしたんだ。11月23日にお披露目をするから来てねとみんな誘ったら25人ぐらい来て、知り合いじゃ無い人同士も新しい出会いになって良かったよ」

 

 

ひょっとしたら高田さんは、「工場」という作品を通じて、さらに「コミュニティ」という作品すら作ってしまったのかもしれませんね。
こうして「高田ノハモノ」をオープンさせた高田さんですが、もちろん仕事としては刃物を作って売っていかなければなりません。そこに至までも少なくない苦労があったようです。後篇ではいよいよ刃物作りのお話を伺います。

高田ノハモノ
堺市堺区神明町東2丁3−11
電話: 080-6899-0765
web:http://www.takadanohamono.com/

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