ちんちん電車の車窓から、不思議な店構えが見えてきました。
異国情緒がにじむこのお店は、2014年の夏に移転してきた「いろんな国の雑貨と衣料 RAKUDA」さん。以前からこの大道筋沿いにお店を出したかったという店主の谷垣恵利佳さんにお話を伺いました。
すると、お店にある一品一品の中に、私達がつい見過ごしがちな海の向こうの現実と、「RAKUDA」さんの自然体でしっかりとしたお店の在り方が見えてきました。
■10年の歩み
「もともと主人はバックパッカーで、インドネシアで買った布をフリーマーケットで売ったりしていたんです。私もアジアン雑貨のお店で店員をしていました」
お仕事を通じて知り合ったという2人。「RAKUDA」は、ご主人が10年前に堺東のチャレンジショップとしてスタートさせました。チャレンジショップで一年頑張った後、お店を我孫子へ移して8年半営業し、故郷の堺へと戻ってきたのです。
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▲大道筋でひときわ目を引く「RAKUDA」さん。 |
衣料や雑貨は、主に年に一回直接タイへ行って仕入れます。
「もっと行きたいんですけど、家族三人だと旅券もかかりますから」
谷垣さんが、長くこの仕事を続けているのも、はじめて行ったタイで受けた衝撃が大きかったからでした。
「タイの人と日本人とのギャップに衝撃を受けましたね。貧富の差がすごくあるのに、めっちゃ元気で人当りのいい人ばっかりで。私たちはタイマニアからしたらペーペーですけど、『タイ』をちょっとずつ広めていきたいし、バックパッカーの情報交換の場にしたいな、という思いがあるんです」
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▲谷垣恵利佳さん。この日は娘と姪御さんがお店に。 |
谷垣さんを魅了したタイの魅力とはどんなものでしょうか。
「現地の方が安いし、日本にないものが食べられます。現地のおばちゃんが屋台でちゃっちゃっと作ったものがすごく美味しい。コンビニも沢山あるんですけど、日本とちょっと違ってて面白かったりするんです。このお店にもタイのコンビニで売ってるものを仕入れてきてアジアのコンビニを再現したいと思ってるんですけど、のんびりやってるんで時間がかかってますね」
のんびりとした営業スタイルも、タイスタイルなのでしょうか?
「確かにむこうの人ものんびりして、時間にルーズだったりしますね」
と、谷垣さん。しかし、この「のんびり」は「ルーズ」の一言で片づけられないものでした。
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▲アジアテイストの雑貨の数々。 |
▲煌びやかなアクセサリーも。 |
■利益追求第一ではないお店に
谷垣さんは「時間を守ることは大切なのだけれど」と前置きしました。
「時間通りにやってきて、時間通りに仕事をするのが当たり前になってきたら、何をしているんだろう? ってなって来るんです。娘もいて、家庭のこともちゃんとやりながら仕事もこなしていたら、いつのまにか機械的になってくる。自分の好きなことをして、好きなお店をやっているはずなのに」
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▲「我孫子から宣伝もせずに来たんですけど、口コミで新しいお客様も増えました」 |
「時間やお金も必要なんだけれど、それより大事なものもあると思うんです。毎日きっちりされているサラリーマンやOLの方は偉いと思います。でも『しんどくないですか?』って。時間も大事、自分のやるべきことも大事、でも気を抜くことも大事だと思うんです。ちゃんとやっている人には『商売なめんな』って言われるでしょうけど(笑)」
実は、谷垣さん自身がいつのまにか「時間やお金」に捉われていたことに気付かせてくれたのもタイだったのです。
「2回目か3回目の仕入れでタイに行った時だったと思います。現地ではすごく安く買えるのに、仕入れる側として『安く仕入れよう、安く仕入れよう』ばかりなっていました。あるお店に行った時に『あなたたちが今日はじめてのお客だ。これが売れないと今日はごはんが食べられない』と言われて、はっとしたんです。向こうにも生活があるって」
日本の業者の中には、安く買いたたく所もあるそうです。また、業者が現地の工場に発注する時に、時間も完成度もシビアな上に安く働かされ、針子さんがまともに眠ることも出来ないで次々辞めていくケースも。
「そんな話が点々と色んな場面で出て来るんです。私も昔、卸をやっていた時は『商品が出来てすごいなぁ』と単純に喜んでいたりしましたが、それと同じことをしていたと気づいたんです。向こうの人には確かにお金になるけど、それでいいのか。そんな業者と同じことはしたくない、と思いました」
同じお店で同じ商品を沢山買うこともあるけれど、それより色んなお店で1点ずつ商品を買う方がみんながうるおうんじゃないか。買値も、向こうの売りたい値段と、自分たちの思う値段の間で詰めていって、お互いが納得いく値段で取引するように心がけるようになりました。
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▲少数民族モン族はタイ、中国、ベトナムにも広がり、場所ごとに刺繍や色使いも違うそうです。刺繍には手縫いならでは味があります。 |
「縫製や汚れなんかも日本の業者はめちゃくちゃシビアなんです。私達だってジッパーがちゃんとしてるか確かめたりはしますけど、そんなにきっちりしてなくていいと思うんです。ミシンも機械ミシンじゃなくて足踏みミシンだったり、手縫いや手織だったりすると味が出て来る。どろっとした草木染や手染めのがいい。そういうのがええなぁって。うちで扱うのはそういう商品だから、自分らの趣味のコレクションのものばかり集めているんです。お気に入りの商品が売れたりすると、『それ買っちゃうの……』って悲しくなったり(笑)」
商品の値段も、山奥で仕入れたなかなか手に入らないものだと高くつけちゃうかわりに、近場で手に入るものだと安くつけたり。「RAKUDA」の商品は、値段からも物語が感じられるようです。
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▲手前は機械ミシンで刺繍(模様)を作った財布。奥の二つは手縫いの財布です。 |
実際の商品を見せてもらいました。ミシンで作った綺麗な出来の財布と手作り感の溢れる財布。
「ミシンのも日本にはない感覚のデザインで仕入れたんですが、手縫いのはアカ族のレッグウォーマーを財布に仕立てなおしたもの。ほら、ちょっと穴があるでしょ。これが実際に生活で使われていた証です。こちらのポーチのひだも、もともとはスカートだったから」
タイには沢山の少数民族がいて、民族の中でも細かな集団ごとの違いがあって、刺繍や色使いにも違いがあるのです。どんな風に使われていて、どんな背景のあるものなのかをひとつひとつ聞きながら谷垣さんは商品を仕入れていきます。
「伝統的な衣装を着る人も少なくなってきて、手縫いから機械へ移っていっています」
谷垣さんの仕事は、消えゆく伝統を守っていくことに繋がっているように思えます。
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▲アカ族のレッグウォーマーから仕立て直した財布。小さな穴があるのも生活で使っていたものだから。 |
■夢がふくらみ「いろんな国」のお店に
そんな営業方針で続けていた「RAKUDA」にも移転の転機がやってきました。
「長くやっているとやりたいことがどんどん膨れてきたんです」
入口はいってすぐにフリースペースを作ったのも、膨らんだ夢のひとつ。
「我孫子のお店はこのスペースを少し大きくしたぐらいでした。店を広くしたらこうしたいと思っていたんですが、我孫子の店は狭くて出来なかった。このスペースは1日おいくらで貸すスペースで、いろんな人に使ってほしい。こないだはアート作品の展示をしましたし、今のところ毎週木曜日にはマッサージ(予約制)をはじめました。ゆくゆくはライブなんかも。普段は飲み物なんか飲めるようにして、バックパッカーの人たちの交流の場になればと思っています」
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▲お年寄りとおしゃべりを楽しむこともあるというフリースペース。 |
そして小さなスペースがもうひとつ。
「キッズスペースも作ったんです。うちは子供連れでこられる方も多いんで、お母さんがゆっくり店内を見られるように。慣れた子は、まっすぐここに来ますよ」
広いスペースだけでなく、大道筋にお店を構えたのも希望してのことでした。
「電車からお店が見えるようにしたかったんです。子供ももう少し大きくなったら、自分で電車に乗ってこれると思いますし」
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▲ご主人お手製の収納椅子があるキッズスペース。 |
我孫子の時は「アジアン雑貨」としていましたが、今は「いろんな国」としています。これは、アフリカの友人からアフリカの商品を仕入れるようになったり、将来的にはアジア以外のヨーロッパや他のエリアにも広げていきたいから。
「といっても、今はアジアの違う所をウロウロしていたいと思っています。それが済んだら次の所へ行こうかな」
それも時間をかけてゆっくりと。
10年かけた「RAKUDA」さんらしい歩みはこれからも続いていくようです。