安心堂白雪姫 橋本太七さん・由起子さん(後編)
(前編)
「芝寿し」の重役として働き、由起子さんの病も癒え順風満帆の時期に、なぜ豆腐屋を…?
失礼とは思いつつ、質問を投げてみました。
「私の叔母が体を壊し、新金岡で経営している豆腐店を継いでくれないかと打診があったんです。」と由起子さん。
「僕がやりたいと言ったんですよ。いちから会社を興せるチャンスだと思いました。芝寿しは、いわば作られた世界に入れてもらったようなもの。心のどこかで、自分自身の力を試したいと思っていました。『お客様に喜んでもらう商売』を、今度は豆腐でやればいいじゃないか、とね。」
泉北高島屋パンジョにも定期的に出店されています。引きも切らぬお客様に丁寧な対応をする皆さん。
その話を聞いた梶谷忠司社長(当時)は、『由起子さんはどう思っているんだ、子どもも小さいのに一番不安なのは由起子さんではないか、あなたが嫌なら僕が彼を説得するよ。』と、まず妻である由起子さんに言葉を向けました。それがますます有難かったと振り返ります。
「びっくりしましたし、嬉しかったですね、家族の気持ちにまで気を回してくださるとは。」
しかし、
「私は夫には恩があります。このお話でご恩がやっとお返しできると思いました。」
これから何があっても夫を支えていくつもりだと梶谷社長に伝えたところ、
「『あなたがそう考えているのなら、とことん夫婦でやってみなさい』と、そう言って頂けたんです。」
こうして『安心堂 白雪姫』という新しい屋号を手に入れ、豆腐作りに明け暮れる日々が始まりました。
豆腐業界に一切のコネクションがなかったこともあり、大豆のブレンドから製造に至るまですべて独学。北海道に良質な大豆があると聞けば、取引の交渉に飛んでいった太七さん。
取り扱う業者さんと直接話をすることで、自分にぴったりの材料を選別でき、さらには信頼関係が深まるというメリットも生まれます。それを知ってか知らずか、もともと太七さんは思い立ったらすぐに体が動く性質。真面目なお人柄も手伝って、行く先々で取引は成功。
そうした思い立ちの行動のひとつひとつが大事な瞬間。人との出会い、材料との出会いを着々と果たしていきました。
ブログ担当の花岡さんも、笑顔が素敵。花ちゃんブログ、ぜひ覗いてみてください♪
材料が揃い、いざ、お豆腐作りへ。
厳選した素材を使用するので、失敗すればそのコストが無駄になってしまいます。由起子さんが「もうこれで十分じゃないか」そんなふうに思えるくらいの豆腐が出来上がっても、太七さんは納得いきません。
『国産大豆の旨みのきいた、舌に上でふわりと溶けるような豆腐を…』
当時からイメージがしっかりあったといいます。
「配合の難しさを思い知りましたね。人気商品の厚揚げも、柔らかいまま油で揚げるわけですから、最初は水分が多すぎて上手く揚がってくれない。それこそ試行錯誤の連続でした。」
太七さんの執念で作られたともいえる自信作を、いくつか紹介しましょう。
手前は看板商品『白雪姫豆腐(263円)』。大豆の旨みが後を引く美味しさ。奥の『風和利(630円)』はとろーりふわーりとしたお豆腐。贅沢なお味です。
あやののお気に入りをチョイスしてみました。濃厚でくどくない『豆乳(368円)』。『あわゆき豆腐(263円)』はいつも容器に直接だし醤油をかけてスプーンで食べてます。『薄揚げ(大・263円)』は家族にも大人気。カリカリに焼いても、お鍋にも。『豆腐ドーナツ』は本当は教えたくないくらい、とっておきのスイーツ。トースターで温め直して召し上がれ。
太七さんの師、「芝寿し」梶谷忠司氏からもらった手紙の一部を見せていただきました。
『「挑戦と創造」で「安心堂」を大阪で「一番の豆腐店」にしてください。
「一番の美味しい豆腐店」にしてください。一番とは「一番美味しい豆腐を作る店」ということです。決して一番儲ける店ということではありません。サービスとは原価を出来るだけ上げて少しでも美味しい豆腐を食べてもらうことに日夜努力することです。何よりも最高の原料を使うこと、目に見えないが金をかけても良い水を使うことが大事だ。(中略)一見馬鹿らしいようだが、その馬鹿正直な一徹さがお客の舌に響くのだ。お客の共鳴を呼ぶのだ。
「ああ美味しい」
この一言は口コミとなって大きな波紋をえがいて、無限に広がって行くので(中略)結局大阪で一番の美味しい豆腐屋だと言われるようになるのだ。原価率だの、粗利益だのという賢い豆腐屋になるな。只美味しい豆腐を造ることに専念する、馬鹿のような商人であって欲しい。』
「常にこの手紙を胸に、商売を続けてきました。梶谷社長の根底にあるのはいつも、『お客様に喜んでもらうにはどうすればよいか』ただこれだけなんです。自分自身も、師の傍でその姿を見続けていたからこそ、今の商売があると思います。」
様々な会合に、いつもお二人で出席される橋本ご夫妻。
「夫婦はいつも一緒でなければなりません。二人でその場に行くことで、お互いの意識を高めあうことが出来ます。片方はこういう見方、でも片方はこんな解釈。後で話し合ったときに、相乗効果でさらに世界が広がることがある。」
意識のステージを共に上がること。これが二人でいる大きな理由なのだそう。
左から、由起子さん・長女の真由美さん・オープン当初からのスタッフ米谷さん。
由起子さんは言います。
「私はなにも持っていません。ちっとも立派な人間じゃありません。だから、色々な方とのご縁を大事に、色々なお話を素直に聞くことこそが大事だと思うんです。今までお会いした皆さん、全ての方が素晴らしい。皆さまのご縁を繋げていくことも、私の人生の役割りなのかもしれません。」
それは偽りない自分でい続ける為に。
日々に生み出される淀んだ感情ですら、二人の作るお豆腐を口に入れれば、一瞬で溶けて消えていくよう。
心も体も浄化されるような『安心堂 白雪姫』。ぜひ足を運んでみてください。
安心堂 白雪姫
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