“作る人が売るからこそわかってもらえる”その後の大江畳店(1)
大江畳店をつーる・ど・堺で取り上げたのは2011年のことでした。
その時は、七道に「畳のショールーム」を開設した2代目の大江俊幸さんと、「堺で手縫い畳の仕事ができる最後の職人」といわれた1代目の大江俊次さんの仕事ぶりを紹介しました。
それから7年がたち、2018年に意外な形、意外な場所で大江俊幸さんと再会することになりました。開館50周年イベントを開催中の堺能楽会館で販売ブースを出されていたのです。畳屋さんの販売ブースで一体何を売っているのだろう? 覗いてみると驚かされました。そこにあったのは、畳素材を使った畳アクセサリーだったのです。畳(素材)が耳や胸を飾るなんて、一体どこからそんな発想がきたのでしょうか?
7年間の大江畳店の歩みはどのようなものだったのか。改めて話を聞いてみたくなりました。そんなわけで、大江俊幸さんに再インタビューするために、堺市から遠く離れた枚方市の枚方T-SITEへ伺うことになったのです。
■商業施設で”和”の空間提案
2019年1月14日。年が明けて半月ですが、丁度成人式とあって、町はどことなく正月気分を引きずっているようでした。
京阪電車の枚方駅から陸橋で繋がっている「枚方T-SITE」は2016年にオープンした複合商業施設で、「蔦屋書店を中核とした生活提案型商業施設」と銘打っています。
広いカフェスペースと、大判の専門書の美しい装丁が目立つように飾られた本棚が立ち並ぶ店内。こんなセンスの家で暮らしたいなと思わせる文化的でおしゃれな空間です。
大江さんがいたのは、正面が硝子張り、左右が本棚になった吹き抜けの空間でした。その床には鮮烈な色彩の畳が敷かれ、大きな一枚板のテーブルと座布団、オブジェのような花器に植えられた観葉植物が緑の葉を大きく広げ、畳の色と鮮やかなコントラストを見せていました。
「丁度今までばたばたしていたところなのです。同じフロアに美容室があって、さっきまでここで成人式の撮影会をやっていました」
と、大江さん。和の空間で晴れ着の撮影はぴったりでしょうね。
この大江畳店の畳を空間はお正月を挟んだ年末年始限定のもので、2016年5月に開設された枚方T-SITEが初めて迎えた2017年のお正月から毎年行われ、今年で3回目なのだそうです。
「枚方T-SITEができて1年目に声をかけていただいて、畳を知ってもらうチャンスだと思い引き受けました。皆さんこの和の空間にびっくりされて、さすがツタヤはやることが斬新だと。お客様は自由にあがって本を読んだり、くつろいでいただけますので、昼間は満員になりますよ」
一般的な物販コーナーとはひと味違う大江畳店のスペースは、空間を体験する「空間提案」だと大江さんは言います。
「畳はそれだけ単体であっても良さがわかりにくいものです。しかし、この空間で畳を体験してもらうことができます。今は、古いお家も少なくなって、マンション住まいで和室がないお宅も多いでしょう」
この空間提案は、住宅購入やリフォームを考えている一般のお客様相手だけでなく、実は家を作る設計士や工務店、建築関係者向けでもあるのだと大江さんは言います。
「そうした専門家でも畳を最初から選択肢の中に入れてないことが多いのです。だから畳のことをよく知らない。そういう方にも畳の良さを体験して欲しいのです」
一般の家庭だけでなく、まさに枚方T-SITEのような商業施設でも畳をスタイリッシュに快適に畳を取り入れることができる……それを具体的に示しているのがこの空間なのです。
畳のショールームを見せていただいた2011年。2016年には、そのショールームが外へと出て行った。より積極的な印象がありますが、この間の変化というのは、実は社会の変化を抜きにしては考えられないことでした。
■“器プロジェクト”の挑戦
近年、畳業界はずっと右肩下がりで市場は縮小しています。
伝統的な日本建築は減り、和室のない住居に住む人も少なくありません。ということは、畳だけでなく、ふすまや欄間など伝統家屋に関連する需要も右肩下がりということです。
「山関係の仕事もそうです。国産の木材なども、海外の安い木材に押されて厳しいのです。木材も、それがあるだけでは良さを伝えづらい。一体どうやったら伝えることができるだろうかと悩んでいる関係者は多かったんです」
そんな悩みを抱える伝統家屋関係の業界の中で、大江さんがかねてから親しくされていた一級建築士の内田利恵子さんが声をかけて、建築関係のチームが結成されることになりました。このチームによる和空間を体験してもらうプロジェクト、名付けて“器プロジェクト”が始まったのは2016年のことでした。
「空間を体験してもらわないと本物の良さはわからない。だったら本物の和の室内を持って行って体験してもらうことにしたのです」
組み立て式の和空間……器……を作って、イベント会場などに持ち込み、その中で作品の展示やお茶会などの催しを行うことができるのです。
豊臣秀吉が千利休に作らせた黄金の茶室も、組み立て式で持ち運び可能でしたが、“器”は黄金でこそないものの、今や黄金並に貴重な国産の木材や伝統技術を注ぎ込んだ和空間です。もちろん大江さんの畳も使われています。
「名前や金額ではなく、作品だけを見て欲しい」
大江さんや内田さんたちにあったのは、そんな思いでした。プロジェクトチームが作り上げた本物の和空間の中で、実際に歩き、座り、所作をして作品を鑑賞したり、お茶を飲んだりする。お客様は、全身の五感で作品を体験し、本物を知る事が出来るのです。
“器”は最初は四天王寺の境内で披露され、その後ハイアットホテルやあべのハルカスにも持ち込まれました。高級感のある現代的な施設の中にあっても、“器”の和空間は位負けしない存在感を見せました。
「この“器プロジェクト”を知った枚方T-SITEの方が声をかけてくださったことをきっかけに生まれたのが、この枚方T-SITEでの和の“空間提案”なのです」
このように“器プロジェクト”も“空間提案”も、体験してもらわないとわかってもらえない、という問題に対処するために生まれたものでした。なぜそんな問題が発生するのか、大江さんは、その原因をこう言います。
「僕らは“モノ”を売っているのではないのです」
畳屋さんがモノを売っていない? なんだか不思議な話です。それでは一体、大江さんは何を売っているというのでしょうか?
大江畳店
〒590-0065 大阪府堺市堺区永代町2丁2-29
TEL:072-221-4145
FAX:072-232-1315
携帯:090-1718-0514
メイル: mail@ooetatami.com
web:http://www.ooetatami.com/index.html
営業時間 AM8:00~PM7:00 ※畳配達等で留守の場合携帯にTEL
休日:無休
※但し、日曜日は都合により休む場合あり