ミュージアム

大きな楠の下で

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堺市中区の「陶器」という地名は、日本の須恵器発祥の地であることに由来しています。それはかつてこのあたりの土の質が良く、登り窯を築くのに丁度いい丘陵の地形だったからです。
その起伏のある地形の上り坂、下り坂を越えて野の草に覆われた川岸にたどり着きます。その名も「陶器川」というこの川が年月をかけて削り取った河岸段丘の上には、ただ一本で森にも見える楠の巨木と大きな瓦屋根のお屋敷の姿があります。
江戸時代後期に建てられた登録有形文化財「兒山家住宅」、通称「東兒山」です。
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▲陶器川の河岸段丘の上に兒山家住宅はあります。

 

この「東兒山」を周囲の田園景観ごととどめようという活動「楽畑」については以前もお伝えしました。以前のご縁で兒山家の松尾亨子さんから、「『楽畑』の収穫物で『芋煮会』をするのでいらっしゃいませんか」とお誘いを受け、賑やかな様子の兒山家の門をくぐりました。
■文化財の中の収穫祭
井戸を囲む庭では、芋煮会の準備の真っ最中でした。
松尾さんの姉、兒山万珠代さんが迎えてくれます。
「夏と冬に二回収穫祭をしていて、いつもは深井のグループが準備をしてくれるのですが、今回はタイミングが合わなくて初めて『楽畑』のメンバーだけで準備をしています。きっと次に深井のグループと合わせてやった時にいい経験になるでしょう」
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▲手にも優しい温度の井戸水で作業します。
『楽畑』のメンバーが井戸端で野菜を洗っています。
「井戸水は夏は冷たく、冬は暖かいといいますが本当ですね」
里芋も、下仁田ネギ、九条ネギも『楽畑』で栽培したもの。八百屋さんの店先にならんでいてもおかしくない立派な野菜ばかりです。

 

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▲しゃきんとした下仁田ネギ。

 

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▲里芋が茹で上がり、鍋から美味しそうな匂いが漂います。
松尾亨子さんにも話を伺いました。
「昨年、『畑塾』を始めたのが大きいですね。大きな変化がありました」
『畑塾』は一般の方に呼びかけて始めた実践農業講座。月に2回の講座で、出来た野菜は皆で分け合って楽しんでいます。
「昨年は10名が『畑塾』に入塾してうち4名が『楽畑』メンバーに加わってくれました。今年も5名が入塾しています。新しいメンバーが入って『楽畑』も活気づきました。昨年は冒険の年で、今年は緩やかに上昇していきました」

 

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▲今年ご夫婦で新メンバーに加わった牧野正恒さん。「月に2回、畑に行くたびに野菜が大きくなるのが感動です」
農業技術の面でも長足の進歩があったと言うのは、『楽畑』の立ち上げメンバーの一人である橋爪秀博さん。
「『畑塾』の塾長に内海邦康さんを迎えたのが大きかったです。内海さんの作る畑は美しい畑なんです。野菜も真っ直ぐに植えてあって、畑の周りも綺麗にしている。美しいというのは、畑や作物を良く見ているということなんです」
内海さんの農業指導は、手だけでなく頭もよく使います。
「次の事、次の事を考えないといけないと言われます。野菜には栽培に適した時期があって、ある程度出来たらもったいなくても前のものを片付けないといけない」
自分たちで勝手に作るのと、きちんと教えてもらって作るのではまったく違う。橋爪さんはそんな実感を得ました。

 

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▲出来上がった芋煮をいただきます。あっさりの味付けで里芋やネギの自然の味わいを楽しめます。左は兒山さん。
芋煮を作る間にも、庭には落ち葉が降り注ぎ、それを兒山さんは落ち葉掃きしています。
「前にはこの落ち葉で焼き芋をしたんです」
これまたお腹が減る話ですが、実はこの落ち葉は大きな問題を兒山家にもたらしていたのです。
■樹か家か
東兒山の庭から空を支えている楠。
堺市からも古樹指定された貴重な巨木です。この「生きた」文化財は、成長をし続けており、ついに兒山家の家屋を圧迫するようになったのです。
ひたすら降り注ぐ落ち葉も問題でした。放置すれば、落ち葉は樋を詰まらせ屋根を傷めます。
「樹を切るか、家を潰すかの二択でした。堺市の文化財課にも相談しましたが、伐採するのにもすごくお金がかかる。それでも伐採するしかないと一時は決断したんですが、やはり残して欲しいという声があったんです」
伐採ではなくて強剪定(きょうせんてい:不要な枝を根元から切り落とす)を選択し、最初は3本で150万円といわれたものを1年間かけて皆で業者さんを探し85万円で請け負うところを見つけました。その方は山師さんで、屋敷内の大楠を重機を使わず伐る仕事ぶりは見事なものでした。
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▲何本もの古樹指定された巨木が兒山家住宅を囲んでいます。
兒山さんたちは、兒山家を会場に狂言の会を開いて寄付金を集めるなどの活動を行いました。楠との付き合いはこれからも続くからです。強剪定で樹も家も残す道を選んだ兒山さんたちですが、それは今後も手入れを続けていかなくてはいけないということ。降りしきる落ち葉のように、それはずっと続くのです。200年以上の時を経た兒山家住宅を、その景観ごと守る活動は並大抵のことではありません。
「その後も延々と続く作業を少しでも楽しいものにし、皆さんにもご家庭での剪定知識技術を身につけてもらって一挙両得のイベントにと剪定のワークショップを行いました。焼き芋はその時に落としたもので行ったんです」

 

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▲落ち葉掃きのお手伝い。次世代にもこの兒山家と景観を伝えていきたい……。
嬉しい知らせもありました。
兒山さんたちの活動に、堺市の景観活動賞が贈られることになったというのです。
堺市から支援がされるわけではありませんが、長年の活動が認められた証ではあります。
落ち葉掃きを手伝う子供たちの世代やその先にも、この貴重な景観を受け継いでいくために『楽畑』の活動が周知されるのは大切なことでしょう。

 

兒山家住宅
堺市中区陶器北1404
web:http://blog.zaq.ne.jp/nayamuseum/(ナヤミュージアム)

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