堺市立町家歴史館「平地和広 堺の風景水彩スケッチ原画展」インタビュー
“ひらさん”の愛称で知られる水彩画家平地和広さんの個展が、堺市立町家歴史館・山口家住宅で開催されています。昨年、2024年には紙カフェでの個展を取材から8カ月たち、ついに文化財の中での個展となりましたが、それには一体どんな経緯があったのか? そして個展の中身は? ひらさんにお話しを伺いにいくと、山口家の土蔵の一つがすっかり展示会場になっていました。
■堺をテーマにした個展
――まずは何がきっかけで個展開催となったのでしょうか?
平地「昨年の紙カフェで個展をした時に、この山口家住宅の指定管理者になったパソナジョイナスの担当者の方が観に来てくれて、山口家でも前々からこういう作品展をと考えられていたそうです。雛飾りやパネル展示といった展示自体は時々やられていましたけれど、絵画的なこういう作品展ははじめてということです。いずれはここをギャラリーにしたいという思いもあったそうで」
――声がかかった時は嬉しかったですか?
平地「お話しをいただいた時は、本当に嬉しかったですよ」
――こうしてみると、ギャラリーとしても雰囲気があっていいですね。白一面だけの、いわゆるホワイトキューブとも違っていて。
平地「やる前はね、僕はこの白壁のところに絵を飾ろうかなと思ったんですけれど、文化財なので傷とかはあんまりつけられないんです。もともと展示パネル用のピクチャーレールがあったので、それを使って柱の方に絵を飾る展示にしたのですが、結果的にはいい感じですね」
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▲”ひらさん”こと水彩画家の平地和広さん。
――では、今回の展覧会のテーマはどのようなものなのでしょうか?
平地「とりあえず第一回目ということで、ここは堺だし、やっぱり堺をテーマにしました。担当者にも言われたのですが、堺に住んでいながら山口家住宅を訪ねたことがないっていう人が多いらしいんですね。だから、そういう人たちにも、観に来ていただくきっかけになる作品展にしたいというのがありました。展覧会で堺をテーマに絵を描くというのを、3年ほど前から何度もやっているんですけれど、観光地だけでなく、ちょっと路地に入ったところとか、ちょっとマイナーな史跡とかそういうのを加えていきたいなと思っていたました。先ほどこられた方も、堺に住んでおられて、見慣れた風景、身近にある風景だといって喜んでくれました。これをきっかけにまた見に行こうっとかって言ってくれたら嬉しいですよね。
――昔の堺を描いた作品もありますね。堺東のジョルノビルが建つ前の市場の絵とか。
平地「僕が堺に引っ越してきたのは昭和46年でした。小学校、中学校。中学校を卒業して就職して、最初の勤務地が錦綾町でした。職場まで通っていたので13号線(府道30号の通称)を通るんですよ。その時、丁度ジョルノの建築がはじまって、銀座通り入り口の書店でアルバイトをし始めて、ずっと観ていましたね」
■新作ラッシュでロングラン開催に
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▲堺言葉で君死にたまふことなかれの書画作品。
――ちょっと目についた作品としては、こちらは書のアーティストとのコラボレーション作品になるのでしょうか。与謝野晶子の「君死にたまふことなかれ」が関西弁で書かれていますね?
平地「去年、堺市民芸術祭で、コラボ書画展というのが書の先生の主催であって、一緒にやりませんかと誘われたのです。テーマにしたのが、あの与謝野晶子さんで、堺市博物館の学芸員の矢内一磨さんが堺言葉の「君死にたまふことなかれ」を作られたんですね。今は堺言葉を使う人も高齢者になって、ほとんどいなくなっているところを、取材して丁寧に調べられたそうです。
――自分も堺の人間だからかもしれませんが、堺の言葉で書かれていると一層胸に沁みますね。素晴らしい新作ですね。
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▲若き日のひらさんの想い出。初代ジョルノビルが建つ前の堺東駅前の市場の風景。
平地「ここに飾ってある作品のほとんどは新作です。去年あたりから、作品に日付をいれるようにしているので、見ていただいたら去年から今年にかけての作品だとわかりますよ」
――ひらさんは、以前からすごい創作意欲ですものね。
平地「だからこういう個展があると、テーマがはっきりしてきます。描きたいところはいっぱいあるので」
――こちらの個展の会期は長めですよね。
平地「2月末までと、あと3月には鉄炮鍛冶屋敷(堺市立町家歴史館 井上関右衛門家住宅)さんがリニューアルして1年なんですよ。その時も、ここで引き続きやらせてもらうという形なんで、実質的には3月末まで。かなりのロングランだから、作品もちょっと入れ替えようかなと思っています」
――一度来たお客様も、もう一度来ていただきたいですね。ちなみに、今回の会心の作とかお気に入りの作品はありますか?
平地「この石津川を渡るチンチン電車は結構気に入ってます。資料から描きおこしたもので、写真では夕焼けではなかったのですが、あのあたりは夕焼けが綺麗なので夕焼けで描きました」
――石津川あたりは、空も広くて夕焼けが映えますものね。
■絵を描く楽しさを知ってほしい
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▲沢山のお客様がやってこられていました。
――たしかにひらさんのファン自体も、新しいファンが増えているようですが、手ごたえはありますか?
平地「そうですね。SNSを通しての活動は相変わらず変わらないんですけど、そのSNSを見て実際に会いに来てくれる人が増えたと感じます。今回の個展の初日に来てくれた方も、最近SNSで知り合った方なんですけれど、たまたま僕の知り合いともつながっていて、一緒に行こうかってことで、来てくれて初対面してちょっと嬉しかったですね」
――人との出会いというのも、ひらさんの活動にとっては大事なテーマのようですね。
平地「新しい人に来てもらいつつ、テーマとしては堺や山口家住宅の良さを知ってもらうということ、あと絵を描くことの楽しさを伝えられたらいいなと思っています。先ほどのお客様も自分でも絵を描いたりしていると言っていたのですが、自分でも描きたいと思っている人って結構多いと思うんですよ。そんなに構えないで気楽に描いた方がいいよと伝えたいですね。僕が毎日描いてるよって言うのを聞いたら、僕も描けるかもと思ってくれるかもしれませんから」
――ひらさんが絵画教室をしたら、皆さん来られるんじゃないですか?
平地「僕自身も絵を習ったわけじゃないのでね。教えるとなると、ちょっと。でも一緒に楽しむことはできるんです。一緒にスケッチに行ったりとか。僕が主催じゃないですけれど、あのシェア型書店の「HONBAKO」(取材記事)さんがありますよね。その中で一人、美術部を立ち上げた方がおられて、1年に3回か4回ぐらいゆるい感じで活動しています。なかなか楽しそうな雰囲気ですよ」
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▲替え歌「堺の宝」を描いた作品。
――今後の作家としての活動予定はどうなっていますか?
平地「毎年、10月には鳳のギャラリー「Arts-B」(取材記事)さんで個展をしています。ちょっと変わったお誘いもあって、狭山の方で展開するケーキ屋さんから、狭山池のほとりで新しく店をオープンしたので、やってみませんか? という話です。あと、泉北の高島屋さんから、3月にという話もあって、こことちょっとかぶるんですけど今度ここで絵をみながら打ち合わせをする予定です。自分でどうこうというよりも誘ってくれる方が結構いますので、僕はそれに合わせて描いていくみたいな感じです」
――それだけ、多くの方から引き合いがあるというのは、作品の魅力もありますが、人との出会いを大切にするひらさんのお人柄もあるでしょうね。
平地「普段、工場で仕事をしていると、あまり会話とかがないんですよね。こういう機会があって、人が来て作品についてだったり、日常の話だったりをしているといいですね。職場の方が個展に来てくれてると、会社にいる時と全然違うね、と言われますね」
――画家としての別の顔があるんですね。さっきの美術部の話じゃないですけれど、多くの方が絵を描くようになって、その人の別の顔が出てきたりしたらいいですね。
平地「そうなったら応援したいですし、ギャラリーの紹介とかもできますね。作品を観てもらうというのは、大事だと思うんでね」
――では、最後に何かメッセージをお願いできますか。
平地「先ほども申し上げたように、堺の歴史と文化を知ってもらいたいというのと、絵を描くのは楽しいですよ、ここに替え歌なんですけれど、「堺の宝」という歌の歌詞を描かせてもらいました。この歌を作られた方とか、観光ボランティアの方とかが一所懸命に守ったりしてくれているじゃないですか。それを大切にしたいですね」
――ひらさんが描いてくれることで、堺の素晴らしいところも、そうした人たちの活動も目に見えるようになるのが素晴らしいですね。今日はありがとうございました。
二度目のひらさんへのインタビューいかがだったでしょうか。京都の着倒れ、大坂の食い倒れに対して、堺は建て倒れといわれるほど堺の人は建物に凝り、その集大成ともいえるのが山口家住宅です。歴史の重みをたっぷりとしみ込ませた山口家住宅ほど、ひらさんの絵とマッチする場所は他にないかもしれません。まだ山口家住宅に行ったことがないという人は、ぜひこの機会に訪れ、ひらさんの作品と一緒に堪能することをおすすめします。
堺市立町家歴史館 平地和広 堺の風景水彩スケッチ原画展 開催について
休館日:火曜日(祝・休日の場合は翌平日休館)
開催時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
開催地:堺市立町家歴史館 山口家住宅
料金:山口家住宅入館料 200円(中学⽣以下の方、堺市内在住65歳以上の⽅、障害のある⽅とその介助の方は無料)
お問い合わせ:堺市立町家歴史館指定管理者 (株)パソナジョイナス
電話番号 072-224-1155