親子で楽しむミュージアム@堺市博物館 レビュー(3)
蝉の声も賑やかな緑いっぱいの大仙公園内に佇む堺市博物館。開催中の企画展「親子で楽しむミュージアムーきて、みて、アートー」(会期2023年7月1日~8月20日)のレビュー記事三回目をお届けします。
日本美術の魅力を三つの視点で紹介するというコンセプトの企画展で、第一章の視点は「探す」、第二章の視点は「見入る」でした。第三章の視点は一体なんでしょうか?
案内していただくのは、前回・前々回に引き続き学芸員の石畑いづみさんです。
■アートを「比べる」
石畑「第三章は『比べる』です。こちらにある二つの甲冑、大鎧と胴丸を比べて見て、どっちがどういい? と鑑賞者の方に比べて見ていただきたいんです」
ーー大鎧と胴丸具足、随分違いますけど時代的にはいつのものなのでしょうか?
石畑「実はどちらもわりと新しいものなんです。江戸時代にリバイバルブームがありまして、大鎧は江戸時代のものですが、何を復古したかというと広島の厳島神社に奉納されている大鎧なんです」
ーーだから源平時代ぽくて、なんだか仰々しいんですね。
石畑「復古されているものって、やはりそれだけ格式が高いんですね。誰が作ったのか、どんな仕様で作ったのか、調達記録まで資料も残っていて、とても紹介しきれないぐらいのものなんです。とても貴重なもので、いつかちゃんと紹介したいと思っています」
ーーずっと堺市博物館にあったものなんですか?
石畑「はい。1984年に、たしか購入だったと思います。それに対してこちらの胴丸具足は、江戸時代初期のもので、堺にゆかりのある小西行長所有のものと伝わっているものです」
ーー小西行長ですか!
石畑「伝わっているのですが、そこはよくわかっていません。比較すると大鎧は着るのがとても大変で誰かの助けがないと一人では着られないものなのですが、一方こちらの胴丸具足はすごく着やすい。軽量化されていて、脱ぎ着がしやすいものになっています。というのは、丁度右脇のところに紐があると思うのですが、上から被って脇の紐を縛ればいいだけなんです」
ーー一人で着れますね。小西行長は関ケ原で死んだというか、刑死されちゃった人ですから西暦1600年のものですか?
石畑「ただ袖のあたりの小手や太もものあたりは後でつけられたものだと思われるので、江戸時代初期のものは胴の部分だと思われています」
石畑「さて、この章で探してもらう動物は魚となっています」
ーー鳥、蝶ときて魚なんですね。
石畑「よく経営者の方が、鳥の目、虫の目、魚の目で物事を見るというのですが、それを鑑賞にも応用できないかなと思いまして(笑)」
ーー俯瞰してみる鳥と、細かく見る虫と、魚はなんでしょう?
石畑「魚なんで動いてる様子を見るということなんですけど、自分で動いて比べて見て欲しいですね。こちらは刀になっているんですけれど、刀の見所はよく言われるのですが刃紋!」
ーー刃紋!
石畑「今回は、2つの刀がそれぞれ刃紋がまっすぐなのかなみなみなのか、比べて見てください。どちらも室町時代のもので、それぞれの重さがどれぐらいの差があるのかなって計って調べてみたんですけれど、さくらんぼ一個分ぐらいの差しかないんです」
ーーへぇ!
石畑「そして最後が鞍です。鞍をどう使うのかを、小さいお子さんはあまり思いつかないかと思ってパネルで乗っている所を貼らせてもらっています」
ーーこの時代の鞍は見ることもまずないでしょうからね。
石畑「どちらも木に漆を塗ってまして、こちら(右)だったら黒い漆でカラスを描いて、こちら(左)でしたら金の蒔絵を細かくほどこしてさらに螺鈿、貝殻ですねを籠目文様にしていて、さらに横からは市松文様にしています」
ーー凝ってますね。
石畑「しゃがんでみると銘もほってあって、裏面に花押も書いていて、作った人もわかるんです」
ーーカラスが描いてるのは、なんでカラスなんですかね?
石畑「ヤタガラスといいますけれど導きの神様で、中国ではですけど太陽の化身として縁起のいいものとして使われたんじゃないでしょうか」
石畑「ここまで見ていただいて、結局どうだったか、自分はどう思ったかを最後に人気投票していただけるようになっています」
ーー人気はなんでしょうか?
石畑「鎧と刀とかが人気ですね。どうぞ投票してください」
ーー一つ選ぶとなると難しいな。うーん。カラスの鞍が格好よかったかな。
石畑「さらに親子の会話につながってほしいということで、ラッキーくじも用意してあります。どうぞ」
ーーすごく仕掛けが様々にあって楽しいですね。
ーー石畑さんが堺市博物館にいらして最初の企画展ですが、堺市博物館自体の印象などはどうですか?
石畑「こちらに来てみて、泉州刀。刀ですね。泉州刀を沢山所蔵していて、昔は取り扱える学芸員がいたんですが、今はいなくて全然ご紹介できていなかったみたいなんです。合わせて武器・武具もほとんど展示されてきていなかった。せっかくこんなにいいものがあるのにと思いまして。私のある意味強みですので、それをご紹介していけたらと思っています」
ーーそうですね。鉄砲もそうですけれど、堺は刀を作っていた町で、今も大阪府下で唯一の刀鍛冶の水野鍛錬所の水野淳さんがいらっしゃいますしね。
石畑「それに加えて堺のことも勉強して、あとは堺市博物館のことを知ってもらいたい。最初にも言ったのですが、私自身、2才と4才の子どもの母親で、ママ友とか先生とか美容院に行った時とかに堺市博物館に勤めているんですって言っても、どこにあるんですか? とか行ったことがないとか言われることが多くて。何か子育て世代の方に、もちろん別にちっちゃい子とお母さんとかお父さんとかだけじゃなくて、おじいちゃんおばあちゃんとか、一人でもみんなでも楽しめることが夏休み期間にできたらなと思いました。そこでワクワク、ドキドキしたことが夏の思い出、宝箱になればいいなって」
ーー宝箱が目玉展示ですしね!
石畑「これは統計的なことなのですが、ちっちゃい頃から博物館に行っている人たちというのは、大人になってからも行く人が多い傾向にあるんです。まず堺市内の身近な所にある博物館と認知していただいて来てもらう。私も皆様と一緒に、地域として見守り育てていければなあという理想があります。それがどんどん繋がっていけば、人としての成長にも繋がるし、地域の発展にも繋がっていくと思うんです」
ーー素晴らしいですね。その理想、ぜひすすめていって欲しいです。
■同時開催「暮らしによりそうテキスタイル」
この企画展同時開催で「暮らしによりそうテキスタイル」展も開催されていました。こちらはコレクターの正林菊子さんから寄贈された「庶民時代裂(しょみんじだいぎれ)」のコレクションの展覧会です。江戸時代から昭和初期までの衣類の古布を中心としたコレクションからの展示は、かつての日本の庶民の美意識を表しており、「親子で楽しむミュージアム」の展示を補い、かつ響き合うものだと思えました。
石畑「正林さんは、長崎にお住まいだった方なのですが、堺市博物館で更紗展をした時に縁ができまして、ご生前の頃にこの資料たちを堺市博物館に寄贈されたいとご意志をもたれていたことで、この展覧会につながったんです」
ーー当時の堺市博物館さんとの間で、良い関係が結ばれたのでしょうね。
石畑「今回、『暮らしによりそうテキスタイル』と題して用途に応じて展示しています」
以下、展示されている作品を簡単にご紹介していきます。
いかがでしたか「親子で楽しむミュージアム」。親子で楽しむ仕掛けが随所にされていて、体験学習会の開催日と合わせてくれば、楽しい夏の思い出を作ることができそうな展覧会になっていると思いました。
また、同時開催の「暮らしによりそうテキスタイル」展も合わせてみることで、室町から昭和初期にかけての日本の伝統的な美に触れることが出来るのではと思います。こうした美は現在に生きる私たちの美意識と根底の所ではつながっているとも感じるのですが、普段の生活の中で接するものとしては失われたり、遠くなっている美ではないかとも感じました。そうしたものを取り戻すことは到底難しことではありますが、せめて触れる機会はもちたいと思うのです。そんな意味でも、ぜひ多くの方に訪ねてきてもらいたい企画展でした。
堺市博物館
住所:〒590-0802 大阪府堺市堺区百舌鳥夕雲町2丁 大仙公園内
電話:0722456201
webサイト:https://www.city.sakai.lg.jp/kanko/hakubutsukan/index.html