親子で楽しむミュージアム@堺市博物館 レビュー(2)
堺市博物館で開催中(会期2023年7月1日~8月20日)の企画展「親子で楽しむミュージアムーきて、みて、アートー」のレビュー記事二回目です。
この企画展は、何かとわかりづらいと言われる日本美術をわかりやすく三つの視点で紹介しており、第一回では、第一章「探す」を紹介しました。さて、第二章は?
案内は担当学芸員の石畑いづみさんです。
■アートデザインに「見入る」
石畑「第二章は『見入る』です。染織品や漆芸品といった生活の中で使われていたものの中でも特に美しいものを取り上げています」
--生活の中で使われるアートですね。
石畑「見ていくと、ここではどんなデザインなの、どんな色なの、なんで綺麗と思うのかを見ると、どういうデザインの文様があるのかとか、どういう技法で表現しているから綺麗に見えるのかとか、よくよく見るとわかるんじゃないかと思いまして。たとえばこの着物、江戸時代には小袖と言われていたものです。紅縮緬(べにちりめん)という素材に、桧垣(ひがき)と南天(なんてん)という植物の文様で表現されています。南天は、言葉の音からもわかると思うんですけれど、難を転ずるということから、縁起の良いものとして親しまれています。ここでも縁起を担いでいるものなんですよということで紹介しています」
--ただの文様じゃなくて、意味とか思いが込められていることがわかりますね。
石畑「そして工芸あるあるなんですけれど、資料のタイトルが長い」
--「紅縮緬地桧垣に南天文様小袖」は確かに長いです。
石畑「なんで長くなるかというと、作った人や時代がよくわかっていなくて、分業制ということもあります。この物の素材やデザインといった特徴でタイトルをつけるしかない」
--そうか。これらはプロダクトで、アートとして扱われてきたわけじゃないので、作者名とかが出てこないんですね。
石畑「今回、チラシですとか、あとタイトル看板に使わせてもらっている目玉としている資料がこちら『草花蒔絵螺鈿洋櫃』。ミュージアムグッズでも出してくださいとお願いして出してもらったのですけれど、洋櫃というのはこのカマボコ型をした箱のことをいいます。西洋とかで宝箱というとこのイメージですよね」
--確かに。映画やゲームでダンジョンに隠されている宝箱というとこの形ですね。
石畑「日本だとこういう丸みを帯びた形というのは、昔から無くてどちらかというと四角に足がどうついているかというものだったんです。ですけど、16世紀の安土桃山時代になると、ヨーロッパのスペインやポルトガルからやってきた宣教師たちをはじめとする人々の注文依頼でこのような形のものが作られるようになったんです。主にヨーロッパ向けのものとして作られたんです」
--ヨーロッパのものを日本に持ってきたんじゃなくて、ヨーロッパ人の注文でヨーロッパ的なものを日本で作ったんですか!
石畑「ここに描かれている文様とかは、日本で古くからある植物の文様なんですね」
--そうか、日本の職人さんが作ったんで、やっぱり日本の職人さんが得意としている柄になるんだ。
石畑「そうなんです。ただいつもとちょっと違う柄としては、縁取りにあるこの波の文様です。南蛮唐草文様と言ったりするのですが、一説には何かの文字を意匠化したものと言われているのですが、今となっては何が書かれているのかわからないんです」
--ミステリーですねぇ。
石畑「大きさとしてはこういうタイプもあったり、もっと大きなものもあったりします。西洋では教会にでんと置かれていて、遺灰などが入れられていたそうなんです」
--先ほどヨーロッパ向けに作られたということですが、今ここにあるというのは?
石畑「一部は日本に残っていたのですが、戦前戦後ぐらいに買い戻す動きがあったんです。これがそうなのかはちょっとわからないんですが」
--逆輸入品もあるんですね。
石畑「日本の長持ちも展示していますが、これもちょっと変わっていまして、普通は金具がついていて棒を通して持ち運ぶようにしているのですが、これはその金具が無いんです」
--え、どうやって持ち運ぶんでしょうか?
石畑「下の方に穴が開いてるんですけれど、ここに紐を通して持ち運んだんじゃないかと思われます」
--面白い仕掛けになってるんだ。これも実際に見に来てほしいですね。
石畑「これも先ほどのものと同じ桃山時代のものになるんですけれど、桃山時代の着物が一部だけ残っているものがあります。この桃山時代って結構私、凄い好きなんですけれど、なんで好きなのかっていうとデザインがめちゃくちゃ大胆なんですよ。この資料でも葉っぱの緑の所が急に紅色に変わっていたり、木の所が急に白色に変わっていたりして、スパンって急に変わるところが結構面白いなと思っていて、今回それも出しています。おそらく開館してから30年ぐらい出していないものじゃないでしょうか」
--たしかに初めて見ました。やはり、桃山時代というと、戦国時代も終わりつつあり、ヨーロッパからの影響もあったりして文化が花開いたみたいなイメージですか。
石畑「そういうイメージですね」
--堺市博物館がこういうものを所蔵しているというのは何か意味があったのでしょうか?
石畑「桃山時代の堺が海外と交流していたということで、こういうものもあった方がいいということで開館当時に集められたんだと思います。当時いた学芸員で染織担当の人がいたみたいで、集められたということもあると思うんです。堺とゆかりのあるものかと言われると、そうでもないものもあるんですけれど、資料的な価値としては高いものです」
石畑「また日本の美術品あるあるなんですけれど、和歌とか古典をデザインしているものが多いんです。古今和歌集が主に多いんですけれど、今回は『歌蒔絵香箱』を出しています。結構描かれているのが全部おじさんで、おじさんなんだ……と思いながら見ています」
--たしかに。日本の和歌と美しい風景とおじさんのコラボですね。
石畑「ちなみに、うちの館長。須藤健一館長が今回の展示の中で、これが一番好きだそうです」
--館長お気に入りの逸品。ぜひ来館して鑑賞してほしいですね。
第二章は生活の中で使われていた品々が取り上げられていましたが、こんなものが身近にあったらどうでしょうか? こんな美しいものに日々触れることが出来たのなら、それは経済的な豊かさ以上に心の豊かさを感じさせてくれるものではないか? そんな気もしたのでした。なお、この章で探してもらいたい動物は『蝶』になります。
(第三回へ続く)
堺市博物館
住所:〒590-0802 大阪府堺市堺区百舌鳥夕雲町2丁 大仙公園内
電話:0722456201
webサイト:https://www.city.sakai.lg.jp/kanko/hakubutsukan/index.html