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「蘆州の人」レビュー@さかい利晶の杜 2022年2月12日

撮影者:斉藤幸恵

 

2022年は、堺幕府を開き”最初の天下人”と称された三好長慶と茶聖千利休の生誕500年にあたります。
西陣織誕生555年でもあることから、これを記念して西陣美術織によって三好長慶と千利休の肖像画が製織され、2月8日に2人に縁の南宗寺への寄贈式が執り行われました(記事前編後編)。
2月11日から13日にかけて、さかい利晶の杜では「西陣美術織展」が開催されるのですが、それに合わせる形で三好長慶をテーマとした朗読劇「蘆州のひと」が上演されるとのこと。これは見逃すわけにはいきません。さかい利晶の杜へ向かうことにいたしましょう。

 

■”義に生きる”三好長慶の半生を描く

▲父元長を自害に追いやった主君細川晴元を招くという三好長慶(左/早川丈二)を弟・実休(右/上田泰三)が詰問する。(撮影者:斉藤幸恵)

 

”蘆州のひと”は、さかい利晶の杜1階にある茶室広間で上演されました。三千家の茶室を一続きにした大広間で、演劇用に作られた空間ではありません。今回は、三つの茶室のうち中央の茶室を舞台に、正面の土間と両サイドの茶室を客席として座席が配置されていました。

さて、物語は三好長慶が細川晴元を主君としていた時代からはじまります。囲碁をしていた長慶のもとに、弟の実休が訪れ長慶をなじります。長慶が晴元を館に招くのが気にくわないというのです。何しろ、晴元は長慶の父である元長を自害に追い込んだ人物なのです。
もちろん長慶とて、父の最期を忘れたわけではありませんが、父の遺言は「義に生きよ」というものです。晴元は敵でもあるが、主君でもある。それを討つことは「義に生きる」事になるのか。その矛盾の中で、長慶は「今は面従腹背の時」と耐え忍んでいるのだと、胸の内を実休に告げるのです。

物語は、この「義に生きる」という言葉を縦軸として長慶の半生を語ります。

 

▲長慶と実休の弟・三好家三男の安宅冬康(左/白石幸雄)は、淡路国安宅氏の養子となり、名高い安宅水軍を率いる。(撮影者:斉藤幸恵)

 

登場人物はこの2人に三男の安宅冬康を加えた3人のみ。狭い茶室の空間ですから、派手なアクションもなく、衣装替えもなければ舞台装置もなく、舞台対面の壁は一面ガラス張りの照明泣かせの空間。演劇をするのには難しい条件がいくつも重なっているにも関わらず、お芝居は弛緩することなく進んでいきます。

その理由の一つはなんといっても、まず3人の登場人物が魅力的に描かれていたことでしょう。「義に生きよ」という父の遺訓に葛藤しながら、朝廷・足利将軍家・管領細川家の狭間で権謀術数の戦国末期の畿内で生き延び、三好一族の勢力を拡大させていく三好長慶。その下にいる一本気な次男実休、温和で時に対立する長兄・次兄の間に入ってとりもつ三男冬康。3兄弟は有能な武将であると同時に、歌や茶を愛する一流の文化人でもありました。

二つ目の理由は、横糸として次々と差し挟まれる両面を持つ三人のエピソードの多彩さでしょう。武張ったエピソードの中に、さりげなく挿入される歌にまつわるエピソードが鮮烈なアクセントになっています。そして三つ目には、「義」を追い求めた長慶の人生の流転のドラマチックさです。戦乱の時代に、長慶の人生が描いた軌跡は、ギリシャ悲劇や能といった人間の業と儚さを描いた古典劇さながらです。
タイトルにある「蘆州」とは、「芦の茂る州(す)」のこと。川の流れにあっても、か細い身体でまっすぐに伸びようとする芦のごとしと、三好3兄弟の一生を描ききった作品でした。

 

■「三好長慶ゆかりの地、あちこちで上演したい」高橋恵さん

▲「虚空旅団」主宰の劇作家・演出家高橋恵さん。(撮影者:渕上哲也)

 

上演終了後、脚本・演出の高橋恵さんにお話を伺うことができました。

--この作品を今回公演なされた経緯を教えていただけますか?
高橋「実はこの作品は初演ではなく、2回目の再演になります。5年前に、長慶ば後年に拠点とした飯盛山城がある大東市が、三好長慶を推そうということで依頼されて作った作品なんです。
--とてもドラマティックに三好長慶の生涯を描いておられましたが、原作である天野忠幸さんの『三好長慶 諸人之を仰ぐこと北斗泰山』は小説ではありませんよね。評伝でしょうか?
高橋「いえ学術研究書ですね。作家の司馬遼太郎さんは、三好長慶をあまり評価されていませんが、実休についての知らせを聞いて長慶が歌を詠むシーンは、司馬さんの描いてたものがとても素晴らしくて参考にさせてもらいました」
--あのシーンは劇的で、ぐっとくるシーンでしたね。
高橋「この作品は、大阪ガスさんの『イストワールシリーズ』といって実在した人物を作品化するシリーズの作品で、作家に好きなように任せていただけた作品です」
--堺では、三好長慶を大河ドラマにと、三好長慶を盛り上げようという動きがあります。そういう堺で公演されるということについては、どう思われていますか?
高橋「三好長慶の人生の中で、飯盛山城の時代よりも、堺や摂津の時代の方が長いですよね。今回のお話をいただいた時に、やっと堺でやってもらえるととても嬉しかったですね。私の父は徳島出身なのですけれど、三好長慶はあちこちに縁の地があります。機会があれば、あちこちのゆかりの地でやりたいです。堺であれば顕本寺でやりたいですね!」
--顕本寺は長慶の父・元長自刃の地でお墓があるお寺ですね。作品の重要なキーワードである「義に生きよ」を長慶に与えた元長さん縁のお寺ですから、それはぜひ実現してほしいですね。
高橋「堺幕府をひらいた三好一族ですが、まだまだ知名度は低いです。この作品は3人役者さんがいればできますし、一部を抜き出して市民のリーディングのワークショップをしたり、膨らませることも省略することもできます。色んな所でできると思いますので、長慶の知名度を上げるのに私も協力したいと思っています」

 

▲長慶の業に胸が締め付けられるようなクライマックス。(撮影者:斉藤幸恵)

 

朗読劇「蘆州のひと」は、翌2月13日も午前午後と二回公演。また、会場のさかい利晶の杜の2階企画展示室では、なごみ企画主催の「西陣美術織展」も開催されています。

 

 

さかい利晶の杜

西陣織国際美術館
web https://nishijinoriart.com/

 

 


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