世界を目指す! コミュニティとしてのテニススクール ホリゾン(3)
国際ハードコート基準を満たす、全豪オープン・全米オープンと同じサーフェイスのテニスコートで子どもたちが練習をしています。その広さは公式戦に対応しており、天井はプロのロブが打てる8mの高さ。照明にも換気にも、徹底的に気を使ったもの。これは決してナショナルトレーニングセンターとかではなく、あくまで1テニススクールのテニススクール・ホリゾンの環境です。代表の堀内俊孝さんが、ここまでの設備を作ったのには、一体どんな目的やモチベーションがあってのことなのか。これまで(第1回・第2回)の取材を通じて湧き上がってきた疑問を堀内さんにぶつけてみました。
■ノミと箱
――ここまでの環境を作った理由は何かあるのでしょうか?
堀内俊孝(以下、堀内)「それは、大人が考えているよりも、子どもの考えている夢の方が大きいからですよ。私の好きな話に「ノミと箱」という話があるのですが、ご存じですか?」
――いえ、どんな話ですか?
堀内「ノミというのは虫のノミです。あの小さなノミは、60cmだか70cmだか跳ぶ力があります。しかし、狭い箱に入れておくと、その天井の高さに慣れて、箱から出しても箱の高さより高く跳べなくなるという話です」
――リミッターの話ですね。テニスでも、環境がリミッターになることがあるということですね?
堀内「この話をしていいのか、少し悩むのですが、実際にホリゾンでもこんなことがありました。将来を期待できる、素晴らしい成績を残していたジュニアの子がいたのですが、事情もあってお金のかからない他のスクールへ移ったんです。ところが、そのスクールはジュニアを育てた経験がなかったようで、その子の弱点だからと筋トレとして、足におもりをつけてプレーをさせたんです。この年代の子は身体が出来ていないのでそんなことをしてはいけないんです。案の定、膝を壊してしまった」
――成長期の子どもの身体を大切に扱わないといけないのは常識だと思ってました。
堀内「それだけじゃないのです。膝のせいで成績が落ちて苦しんでいる中、世界で活躍したいというその子の夢をコーチが否定したんです。お前にそんなことが出来るわけがないって。夢を否定されたその子は、不登校にもなってしまった。ホリゾンに一度戻ってきたのですが、すでにモチベーションを失っていたその子は結局テニスを辞めてしまったのです。膝だけだったら、まだ直せばなんとかなったかもしれない。才能のある、将来のテニス界を背負うような子が潰されてしまったのです」
――ジュニアを育てる意識や技術のある指導者がいるテニススクールが日本には不足しているんですね。
堀内「ジュニアを育てるには、その時々にあった目標設定と技術が必要です。ホリゾンでは、決して子どもたちの夢を笑いません。錦織選手を超えたいんだという夢を絶対に笑いません」
――素晴らしいと思います。しかし、現在、錦織選手が登場してから、長らく彼を追い越そうというような日本人選手は現れていませんね。それは、ジュニアを育てることが出来るテニススクールが限られているせいだけでしょうか?
堀内「長らく体格的に劣る日本人が世界で活躍するのは無理といわれてきました。しかし、その考え方は変わってきています。錦織選手もアジア系のマイケル・チャンコーチに出会って、キミの身長、キミの体重は弱点でもあるが、それを長所にしたいといわれて、劇的に変わりました。これに続いて欲しいと思います。アジア人にはアジア人のテニスがある。海外のテニスとは違う、日本人のテニスがあるんです」
■ホリゾンは世界へたどり着くのか
――日本人がテニスで世界と戦ううえで鍵になるのは、やはりホリゾンの「テニスの教科書」だと思うのですが、これまでの日本のテニスと何が違うのでしょうか?
堀内「「テニスの教科書」を作られた先生は、もともと物理学を教える先生で、学校でテニス部の顧問をされていました。ご自身はテニス経験はなく野球で活躍されていたそうです。ある時、伊達公子選手のコーチから、物理学を学んでいるキミにしか出来ないことをするんだと言われて、テニスを徹底的に数値化したのだそうです。どこに走って、どういう高さで打つのか。一歩前に出た時、一歩後ろに下がった時、どれだけ早く動くべきか、どれだけ余裕が出来るか。テニスを物理学で捉え、数学で捉えたのです」
――そこから生まれたのが、ホリゾン独特の練習方法なんですね。
堀内「さらに教育論としても面白くて、一度に沢山の生徒を見るんです。でも、10人なら10人を一緒に引き上げるのではない。まず1人を引き上げる。するとみんなが追いつこうと努力するようになるんです。1人が正解を得ると、みんながそれに向かう。上に合わせるんです」
――出る杭は打つ一般的な日本の教育とも真逆ですね。
堀内「先にお見せしましたように、幼稚園の年長さんが、コートの端から端までボールを打つことができる。そんなこと他ではありえない。でも、それを見た子どもは、自分も出来ると思うようになる。それをホリゾンでは、非日常を日常化していくと言っています。外から見たら当たり前でないことを、この空間では当たり前にするんです。これがノミにとっての箱、リミッターを外すということなのです」
――単純なエリート教育とも違いますね。非日常を日常化する空間で、みんなが伸びていくんですね。
堀内「こんなことがありました。大きな大会でのエピソードです。決勝戦まで勝ち進んだ小学生の子がいたのですが、試合前に居なくなってしまったのです。どこに行ってしまったのかと思って、仲の良い子に聞くと「私も探している」と言うんです。もう大慌てでみんなで探し始めると、本人がひょっこり顔を出したんです。実はかくれんぼをしていたんだと。友だちが言う「私も探している」は、かくれんぼで探していたということだったんです」
――行方不明かと思いきや、かくれんぼで遊んでいたんですか。決勝戦前というのに、えらい余裕ですねー。
堀内「そうなんです。決勝戦前だからといって、誰も緊張しない。普段通り。決勝戦・準決勝でもホリゾンの子同士が当たることも多くなっていて、いつものこと、日常なんです。ホリゾンの子たちは、試合前でもかくれんぼしたり縄跳びしたりでリラックスしています。私もそれが当たり前になって、試合の前に円陣を組んで気合いをいれたりする方がおかしいと感じるようになってきました」
――非日常を日常化することが、ここでもいい効果を出しているようですね。
堀内「とっておきの非常識をおみせしましょうか? 世界初の選手です」
――え、どういうことです!?
堀内「野球界では、大谷選手の二刀流が注目されていますが、うちにはテニス界の二刀流がいるんです。右手でも左手でも同じようにフォアハンドもバックハンドも出来る。さらにはサーブやスマッシュまで、実際に見てもらいましょうか」
促されコートに登場したのは、ピンクのキャップをかぶったジュニアの選手でした。
堀内「わかりやすいように、本当に両手にラケットを持つのをやってみましょうか」
――え、そんな練習もするんですか?
堀内「いえ、両手にラケットを持ってするのははじめてです。さて、上手くいくでしょうか」
片手に一本ずつのラケットを持つ姿は、さながら宮本武蔵。コートの端と端で打ち合う練習ですが、両手のラケットを駆使して、軽々とラリーが続きます。さすがに、堀内さんも驚いた様子で笑みを浮かべています。
堀内「ちゃんと出来るもんですね(笑)」
――驚きですが、試合でも活かすことが出来るんですか?
堀内「ええ。たとえば試合の途中で、右打ちから左打ちに変えると、相手も簡単に対応できないですよ」
――両手を同じように使うという非常識が常識化したんですね。この選手もずっとホリゾンで学んできた選手なのですか?
堀内「ホリゾンで育てた子です。今、岸和田校開校から6年たって、幼稚園から育てた子がようやくこの年齢になってきたので、こんな選手も出てきました。ホリゾンは、すでに小学校は制覇しました。来年、今の子たちが中学にあがれば、全中も取りますよ」
――子どもたちにノミの箱のような限界を超えさせたい。それが、堀内さんのモチベーションのようですね。
世界で活躍する日本人のテニス選手がめったに現れないのは、日本ではジュニアを育てる環境が限られているだけでなく、「日本人は世界で戦えない」という常識が幅をきかせていたという問題も大きかったのかもしれません。ホリゾンが、その常識を覆し、非常識を常識化した時こそ、世界で活躍する日本人選手が続出する時なのかもしれません。
「本気でプロを目指すジュニアが来た時どうすべきか」堀内さんが以前感じた不安への完璧な回答といえるでしょう。しかし、堀内さんには、もう1つ目標があったはずです。「テニススクールにはテニス以外のものを求めてくる人がいる」それを大切にしなさいという父の教え、それを実現するためにテニスでコミュニティを作る。そちらの方はどうなのか、第4回でおききすることにします。
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