劇場から世界を変える!! アジアンユースシアターフェスティバル(1)

 

“黄金の日々”。中世堺の繁栄の日々を支えたのは、琉球(沖縄)を通じての、明(中国)や東南アジア諸国との交易でした。
東南アジアの多島海は、今でも世界屈指の海上輸送の大動脈ですが、中世でもアラブ世界・インド世界と東アジア世界を結びつける海のシルクロードでした。堺の貿易が盛んだった時期に限っても、スペインの植民地となったルソン(フィリピン)、明から独立を回復したものの南北に分裂した大越国(ベトナム)、堺と同じような港市国家マラッカ王国(マレーシア)、巨大帝国へと成長していくアユタヤ朝(タイ)、そのアユタヤ朝の侵略で首都アンコールが陥落し、栄華を誇ったクメール帝国時代から暗黒時代へと転落したカンボジアなど、多様な国家がしのぎを削っている地域でした。
この時代の交易関係が縁で、毎年アセアンウィークを開催していることもあり、堺市民にとってはどこか馴染みのある国名がならぶ地域と言えるのではないでしょうか。

2019年11月。
そんなASEAN諸国の若者たちが一堂に介するフェスティバルが、マレーシアのリゾート地として知られるサバ州コタキナバルで開催されました。そのフェスティバルとは、「AsianYouthTheatreFestibal」(以下AYTF)、アジア若者演劇祭とでも言えば良いでしょうか。12カ国14団体160名以上の若者たちが参加したこのイベントに、筆者は日本チームに帯同して、その様子を見てきました。
4日間にわたる演劇と国際交流の濃密体験をレポートします。

 

 

■カラフルな若者たちのフェスティバル

 

▲遠路大阪から、コタキナバルにあるTOGOホテルのロビーに到着した日本チーム。ホテルは綺麗でアートを感じる内装で、いかにもフェスティバルのホテルです。

 

ボルネオ島にあるコタキナバルと日本の時差は1時間、飛行時間は直行便で5時間もかかりません。
11月の堺から到着したコタキナバルは、真夏の気温でしたが、湿度はさほどではなく、日陰にいれば過ごしにくくはありません。
フェスティバルが用意したホテルには全ての参加者が泊まっており、カラフルなフェスティバルTシャツを着た人々の姿が目立ちます。おそろいのTシャツを着る若者たちのしゃべる言葉は様々で、いかにも多様性に富んだフェスティバルです。

ここで参加国について見てみましょう。ホスト国であるマレーシアからは、地元の劇団であるGreen Leaf Theatre Houseがスタッフとしてフェスティバルを運営している他に、2つの劇団が参加。さらに、フィリピンから2団体、シンガポール、ブルネイ、インドネシア、ベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマーというアセアン諸国と、アセアン以外からはバングラデシュと日本が参加。もう1カ国、ラオスも参加予定だったのですが、ヴィザがおりなかったため、残念ながら不参加となっていました。

 

▲左手にあるのが劇場で、右手から奥の建物では大きなエントランスやレッスンルームがあり、ワークショップや昼食をとったりしました。

 

到着翌日、ビュッフェ形式の朝食を済ませて、さっそくフェスティバルが開催される会場へと向かいます。ホテルから会場までは、車で10分ほど。
賑やかな市街地を通って、閑静な印象の整備された公園の中に、エスニックな建築様式の劇場と付属する建物がありました。オレンジ色の急カーブを描く屋根がエキゾチックです。
劇場の中に入ると、座席数はざっと500人規模。調度は凝った丁寧な作りで、歴史ある劇場といった風情です。

日本チームは、やや緊張気味だったかもしれません。実は、オープニングセレモニーの後、トップバッターで公演するのは日本チームだったのです。
では、日本チームのメンバーを紹介しましょう。
主演を務めるユースメンバーとして参加したのは、昨年のAYTF参加を機に自身の劇団FREAM! theatreを立ち上げた大城戸洋貴さん。今回も殺陣のワークショップも担当する予定。客演にはダンサーの中西あかねさん。音響スタッフと通訳に真渕華圭さん。写真撮影に奥村悦英さん。そしてアドバイザーとして、海外では絶大的な実績と評価のあるTheatre Group Gumboの田村佳代さんがこのチームをまとめていました。

会場では、順次リハーサルが行われています。どのチームにも与えられて時間は、わずか1時間。しかし、ここで思わぬ事態に陥ります。

 

■日本チームの苦戦

 

▲会場では、開会式の準備が進められていました。歴史を感じる立派な劇場です。

 

準備に与えられた時間は1時間。しかも初めて立つ舞台で、初めて出会うスタッフと、使い慣れない英語で仕事を進めるのは簡単なことではありません。
大城戸さんと中西さんの2人が舞台装置を設置し、立ち位置を確認。一方、機材を操作するブースでは、田村さんと真渕さんが現地スタッフと音響と照明の準備をすすめていきます。
音響は、どの座席位置でもしっかりした音が聞こえるか確認していきます。実際にお客様が入ると、人や服に音が吸収されてしまうので、そのことを頭にいれながら音量レベルを決めねばならいので、経験が必要な作業です。
さらにやっかいなのは照明でした。どの位置を照らす照明機械があるのか、発色を調整してどんな色の光が出せるのか、実際に光を出してもらってイメージとすりあわせていかなければならないのですから現地で一発勝負です。作業を始めてみると、この照明の作業がなかなか進みません。どうやら、ユースのフェスティバルということもあり、照明機械の操作担当もプロではなく学生でした。彼らも必死ですが、慣れない機械の操作に悪戦苦闘しているうちに、時間が過ぎていきます。
音響と照明のセッティングをなるべく早く終え、残った時間で少しでも演技の練習をするつもりでしたが、その時間がどんどん減っていきます。

 

▲背景は無地の予定で作品制作を進めていたのに、現地に来ると海の絵が掛けられていました。驚きましたが日本チームの作品とはマッチして、結果オーライ。

 

もう時間がない。そんな時、突然白髭の大柄な男性がブースに現われて、あれこれと指示を出し始めました。
彼はバングラデシュのメンバーで照明のプロフェッショナルでした。悪戦苦闘している照明の様子に放っておけなくなって、口出しをしてきたのでした。さすがにプロフェッショナルな技量の持ち主で、瞬く間に素晴らしい光が出来上がって舞台を照らします。まさに救いの神でした。

とはいえ、リハーサルでの練習時間が満足にとれなかったことには変わりありません。日本チームは、マレーシアに来てから、ほぼぶっつけ本番で舞台に挑むことになったのでした。不安を抱えながら幕があがります。

 

■フェスティバルの開幕と舞台「Close」

▲司会を務めたアンバサダーの3人。左からNikki Cimafrancaさん(フィリピン)、Masturah Oliさん(シンガポール)、Rocky Khanさん(バングラデシュ)。

 

フェスティバルの幕があがります。
劇場の客席には、各国の若者とスタッフが顔を揃えました。
司会を務めるアンバサダーは、シンガポールのMasturah Oliさん、フィリピンのNikki Cimafrancaさん、バングラデシュのRocky Khanさんの3人。輝くような笑顔で、各団体を舞台に呼びます。アセアンの9カ国が呼ばれ、バングラデシュ、そして最後に日本が呼ばれました。
各団体は、それぞれの国の国旗を掲げるのですが、フェスティバル側が用意したのではなく、それぞれが持込んだものでした。大きさもバラバラで、中には手旗のチームもありました。この統一感の無さも、多様で包容力のあるフェスティバルらしさを表しているようでした。

 

▲アジアの若者たちの祭典がスタート!!

 

開会式が終わると、まったく間を置かず日本チームの作品「Close」の上演が告げられ、客席の照明が落ちました。

日本チームはそんな段取りと思っておらず、驚いてしまいました。準備時間がまるでありません。案の定、真っ暗な中、不自然な時間が過ぎていきます。光の落ちた舞台の上で、うっすらと準備を整えている様子がうかがえます。
そして、ようやく、舞台に照明が灯り、音楽が流れます。

舞台の中央には、フレームで作られた長方形の箱。その中には、大城戸さんが演じる男が一人。
箱の中で大きく息を吸うと、ほっぺたを膨らませて、フレームの外に顔を突き出して周囲を見渡します。どうやら、ここは水の中で、箱の中でだけ息ができるという設定のようです。
そこに、舞台袖からプラスチックバッグ(いわゆるレジ袋)を頭にかぶった女性(中西さん)が姿を現します。
このアジアンユースシアターフェスティバルには「環境問題」というテーマがあり、この作品「Close」は、若者が感じる日本社会の息苦しさとプラスチックバッグなどによる海洋汚染を扱っていたのです。

 

▲「close」。男は箱の中から出られない。そこにプラスチックバッグ(いわゆるレジ袋)のを纏った女が流れ着く。

 

箱の中に閉じこもり「考えることを辞めてしまった男」と、どういう理由かわからずに、この男に関わる女の2人で話が進みます。女は、整備不良のロボットのようで、貼り付けたような笑顔を浮かべながら、同じ言葉、同じ行動を繰り返します。
「How do you do! How do you do! How do you do!」
このコミカルな演技に、客席から笑い声が吹き出します。

そう、セリフは全て英語。このことは、現地スタッフとの準備作業以上に大変なことでした。日本で何度も練習してきたはずなのに、観客に伝わりきらない。セリフを聞き取ろうと観客が意識を集中させることによって生まれる一種異様な静寂がホールを包みます。この静寂がステージにも伝わったのか、不自然な間が舞台に生まれます。後で知ったのですが、セリフが飛んだシーンがあったのだそうです。ぶっつけ本番で挑んだために生まれた痛恨のミスでした。

照明音響ブースでもパニックを押さえリカバリーのために必死でした。役者二人はなんとかシーンをつなぎ、照明音響もサポートし、ラストシーンでは2人を音楽と光が美しく包み込みました。リハーサルの時よりもはるかに素晴らしい照明です。実はあのバングラデシュの救いの神がずっと照明をサポートしてくれていたのでした。

 

▲「close」のラストシーンは、プラスチックバッグごしのキス。美しい照明と音楽が感動的に盛り上げる。

 

客席には素晴らしいものを見たという満足感が漂っていました。俳優の2人が楽屋に引っ込んだ後も、日本人スタッフに握手を求める観客が絶えなかったほどです。

とにもかくにも、アジアンユースシアターフェスティバルの最初の一日が終わりました。バングラデシュの救いの神をはじめ国境を越えた連帯の素晴らしさをいきなり感じた一日でしたが、フェスティバルの真価が発揮されるのがまだまだこれからであることを、この時私たちはまだ知らなかったのです。

(第2回へ続く)

●関連情報
アジアンユースシアターフェスティバル2020の情報はこちら→web
アジアンユースシアターフェスティバル日本チームの情報はこちら→FaceBook

 


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