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ミュージアムへ行こう! 「「源氏物語」を解き明かす晶子」 レビュー(1)

 

堺市の歴史的偉人の二枚看板といえば、“茶聖”千利休と、”情熱の歌人”与謝野晶子ということになるでしょう。両者にいえることですが、”茶聖“や”情熱の歌人”というキャッチフレーズにとどまらない幅広く多面的な活動をしていたことも、彼らを偉人たらしめている大きな要素だといえます。一芸に秀でるというタイプではなく、様々な分野で才能を発揮するレオナルド・ダ・ビンチに代表されるようなルネッサンス型の才人。セルフプロデュース能力の高さも、両者ともに商家出身ということと無関係ではないように思えます。
今回は、二枚看板の顕彰施設である、さかい利晶の杜で開催されている企画展「「源氏物語」を解き明かす晶子」の内覧会に参加してのレビューをお届けします。この企画展では、日本古典文学紹介者としての与謝野晶子の一面をじっくりと知ることが出来そうです。

 

■古典に親しんだ家族

▲「源氏物語」顔はめ。ぜひ挑戦してください。

 

さかい利晶の杜は、南北に走る大道筋と、東西に貫くフェニックス通りが交差する、かつて環濠に囲まれていた堺区の旧市街区のど真ん中にあります。千利休屋敷跡のお向かい、与謝野晶子の生家からも目と鼻の先で、2人もこの界隈を歩いたのだろうと想像しながら向かうのも一興でしょう。
企画展の会場は、2階の企画展示室。入り口前に、顔ハメや展示パネルがお出迎えしてくれましたが、会期中はエントランスなどフリースペースに置かれるとのこと。

さて、今回の案内は学芸員の森下明穂さんです。
晶子は生涯に3度「源氏物語」の翻訳にチャレンジしています。今年は3度目、最後に完成した「新新訳源氏物語」の出版から記念の年になります。
森下明穂(以下、森下)「今年は与謝野晶子が新新訳源氏物語を出版して、80周年になります。それを記念しての企画展です。この企画展は三章構成になっています。第一章は『晶子の古典創作「新訳源氏物語」』です」
ショーウィンドウには、晶子が最初に手がけた現代語訳の「新訳源氏物語」をはじめ、様々な晶子版の古典作品の本が展示されています。

 

▲内覧会で展示の解説をする学芸員の森下明穂さん。

 

森下「晶子の原点は、祖母と父の古典の蔵書です。実家の和菓子屋『駿河屋』には、教科書的な古典作品が沢山ありました」
――堺の商家で古典の蔵書があるというのは一般的なことなのでしょうか?
森下「そうではないと思います。晶子の実家の鳳家は、食卓での会話に、どの歴史人物が好きかとか、そんな話題が出てくるような家庭でした。晶子の兄も今の東大へ行ってますし、父も早稲田です。教養のある家庭で、父は晶子にも早教育を受けさせようとしていたぐらいです」
――明治時代の和菓子屋を営んでいて、そこまで教育熱心というのも驚きます。
森下「商家で商売をするにも教養は必要ですし、和菓子を作るのにも教養は不可欠です」
――確かに和菓子は、題材を古典からとっていますよね。特にお茶席で出すことを考えたら、教養がないと茶人と話をすることも出来ないですものね。

 

■洋画家・日本画家とのコラボレーション

 

▲与謝野晶子の「新訳源氏物語」初版。中澤弘光画。堺市博物館所蔵。

 

この展示で一際目をひくのは、やはり晶子が手がけた「新訳源氏物語」の一冊でしょう。分冊ごとに源氏物語の一場面がフルカラーで描かれた表紙の装丁は、それだかで芸術品といえそうです。
森下「この『新訳源氏物語』を晶子は、パリに行った時に彫刻家のロダンや詩人のレニエにプレゼントしていて、美しさを絶賛されています」

絵を手がけたのは、洋画家の中澤弘光。源氏物語という古典の題材を、洋画的な感覚を取り入れて作画されているのも独特の味わいがあるように思います。この与謝野晶子×中澤弘光のコンビは、『新訳源氏物語』だけでなく、他の古典作品でも筆を振るっています。今回の企画展では「新訳栄花物語」、「新訳紫式部日記」、「新訳和泉式部日記」が展示されています。
森下「晶子には、そういうイメージがあまり無くて驚かれると思うのですが、『平家物語』も取り上げています」
歌帖『平家物語』も、中澤画伯とのコンビ。序詞は夫の与謝野寛(鉄幹)が担当。展示では巴御前のページが開かれていました。
「うらめしき女人の業とはかなみぬ巴は一人生きんいのちを 晶子」
この歌帖は、作家の吉川英治が購入したもので、吉川英治記念館に所蔵されていましたが、記念館の閉館に伴い、堺市に寄贈されたものだそうです。

 

▲日本画家前田青邨の筆による「竹取物語」。

 

もう一点。日本画家の前田青邨とコラボレーションした作品も展示されていました。
森下「こちらは複製になるのですが、前田青邨と合う人はいないかという時に、与謝野晶子がいいのではないか、となったようです」
題材は『竹取物語』。かぐや姫が月へ帰るシーンが描かれており、文章は晶子の筆です。

このように画家と協力して、古典を絵画的に表現することを晶子が自然にこなしていることも、実家が和菓子屋であることを考えれば納得できるのではないでしょうか。なにしろ、お茶席に出す和菓子のバックボーンには日本の古典精神が息づいており、古典的なテーマを目にも美しく表現したものが和菓子なのですから。

第一章では、芸術家晶子の背景にある古典の教養がどこから来たのかと、それが幅広くビジュアルも重視して表現されてきた様子を見てきました。この晶子の、大衆を意識した商人としての感覚は、古典を普及するために行った出版事業でも十分に活かされることとなります。
次回中篇では、第二章「読み継がれる「源氏物語」」を紹介します。

 

さかい利晶の杜
堺市堺区宿院町西2丁1番1号
072-260-4386
http://www.sakai-rishonomori.com/

 


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