ミュージアム

教育普及展「むかしの暮らし」と博物館の役割(1)

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魅力的な企画を連発している堺市博物館で、またも興味をそそられる企画展が開催されています。それは教育普及展『むかしの暮らし-ふしぎな道具の世界―』(2019年1月8日~3月3日)。
「昭和時代以前に使われていた生活道具」の展覧会とのことですが、「昭和」という時代は、博物館ではあまり扱われることのない時代のように思えます。なぜ、こういうテーマの展覧会が開催されたのでしょうか? 堺市博物館の学芸員矢内一磨さんにお話を伺い、さらには子ども向けの展示品解説も見学させてもらうことになりました。
■新機軸の”むかしの暮らし展”
矢内さんは、待ち合わせの博物館ロビーに、何やら小箱を持ってあらわれました。箱が気になりましたが、まずは展覧会の概要を教えてもらいました。
「むかしの暮らしを取り上げた展覧会は、色んな所で開催されています。今回の堺市博物館の『むかしの暮らし』展は、新機軸として、『堺』のむかしの暮らし、戦前の『堺』の暮らしを取り上げてかなり組み込んでいます」
と、矢内さん。なるほど地域学習の一環になっているのですね。そして、堺育ちの年輩の方にとっては、なつかしい品の数々に出会える展覧会になっているというわけです。
「今回の展覧会では、堺に生まれた画家岸谷勢蔵さんの描き残したものに随分助けられました。さかい利晶の杜のジオラマも岸谷さんの絵がもとになっていますが、この展覧会には岸谷さんの絵も数多く展示しています」
ジオラマというのは、さかい利晶の杜1階ロビーにあるもので、戦前の宿院界隈の様子が再現されています。岸谷さんの絵は、正確な観察から非常にリアルに描かれており、学術的にも価値のあるものなのです。
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▲さかい利晶の杜にある精密なジオラマは岸谷勢蔵さんの遺した絵が元になっている。

 

「教育普及展ということで、堺市の小学校40校ほどの小学校3年生が見学に来ています。展示も工夫してあり、解説文も簡単な言葉にして、展示は小学生が興味を持てる道具が中心になっています」
矢内さんがつけている腕時計も、展覧会に合わせてゼンマイ式の古い時計になっています。これも子どもたちに興味を持ってもらえる小道具のようです。矢内さんは、その腕時計の時間を見ると立ち上がりました。
「そろそろ展示品解説の時間ですから行きましょう」
謎の小箱を小脇に抱えた矢内さんの後について、展示室へ向かうことにしました。
■むかしの道具に触れてみよう
堺市博物館の展示は、古墳時代から中世、近世、近代へと流れています。過去から未来へと向いながら、矢内さんは観覧者に「展示品解説を行いますよ」と声をかけていきます。
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▲むかしの道具の解説をする学芸員・矢内一磨さん。お家に座敷もなければ、フローリングはあっても板の間もない。ましてや土間なんて見たことがない子どもたち相手に、昔の暮らしをどう説明するのでしょうか!?

 

たどり着いたのは昭和時代。企画展スペースには何組かの親子連れの姿がありました。
展示品解説を待っていた人たちのようです。矢内さんは奥にしつらえた座敷スペースに人を集め解説を始めます。
「むかしはご飯をかまどで炊いていました。むかしの堺の小さなお家では、かまどを土間に作らずに板の間に作っていたことがわかりました。そのままだと木の板の間は燃えてしまうので、防火加工をした上でです」
これは、岸谷さんの記録からわかった大発見の一つでした。今に残るむかしのお家といえば、豪商や地主さんのお宅(堺市立町家歴史館山口家住宅など)が多いせいか、土間にかまどのしつらえた様子が思い浮かびがちです。しかし、それらのうちは住み込みの使用人がいるような大家族のお家ですから、台所周りも大人数対応仕様です。しかし、夫婦一組の少人数の家庭なら、小さなかまど一つで十分でしょう。
矢内さんの解説を聞く大人たちは関心を寄せていましたが、おそらく土間も板の間も見たことがない子どもには今ひとつピンと来ていない様子です。
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▲板の間に置かれた竈。お釜の中を覗き込む子どもたち。

 

ですが、「私の解説は子どもたちに人気なんですよ」とおっしゃる矢内さんは、そんな程度のことは想定済みです。
子どもたちに靴を脱いで座敷にあがってもらい、かまどの中を覗き込んでもらったり、実際に鉄の鍋をもってもらったりします。
「鉄の鍋は重いでしょう。この鍋に穴が開いたらみなさんはどうしますか? 捨ててしまいますか? むかしは鋳掛け屋さんがいて穴の開いた鍋を直してくれたのです」
座敷においている黒電話も、子どもたちにははじめて見るものでした。
「かけてみて」
と促されるとダイヤルを回すことは想像できるようですが、受話器を取るという動作までは思いつきません。子どもたちは教えられてはじめてダイヤル式電話のかけ方を知ったのでした。
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▲本物の昔のお金を手に取って確かめてみる。

 

そして、いよいよ矢内さんのヒミツの小箱が開けられました。
薄い箱の蓋が開くと、そこにあったのは様々なコインに色あせたお札です。昭和、大正、明治のむかしのお札やコインです。中には江戸時代のものもありました。
「優しく触ってね」
と矢内さんが言うと、初めて見る不思議なお金を触ろうと次々と小さな手が箱に伸びました。子どもたちはお札やコインを手に取って眺めます。
座敷から降りた後も、矢内さんの名調子は続きます。
「むかしの道具のポイントは動力です。何で動いているのかを見てみましょう。洗濯はむかしはおけで洗濯板をつかってごしごし洗っていました。これは大変でした。次に手回し式の洗濯機が出来て随分便利になりました。さらに、こちらになるとモーターで動く電動の洗濯機です。脱水機もついて便利になりました。むかしのくらしの何が大変だったのかというと、人の力が必要だったことです。子どもたちも手伝いをするのが大変で、遊ぶ時間もなかったのですよ」
他にも、冷蔵庫ならぬ冷蔵器、足踏み式のミシン、菜種油のあんどん、電動式の扇風機など、レトロな道具の解説が続きます。すっかり引きつけられた子どもたちは、ショーケースや仕切りのむこうにある展示品の解説も熱心に聞いていました。
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▲これは珍しい手回し式の洗濯機。

 

30分ほどの矢内さんの解説は中身の濃い充実したもので、子どもから大人まで満足できるものでした。説明会終了後も、子どもたちはふしぎな道具の展示を鑑賞していました。さすがの矢内さんの名人芸でした。
さて展示品説明会は終わりましたが、この展覧会には+αがあります。後篇では、展覧会に重要な役割を果たした岸谷勢蔵さんの絵の展示、そして地下のホールで行われた昔遊びの体験会に迫ります。
教育普及展「むかしの暮らし-ふしぎな道具の世界ー」
会期:平成31年1月8日(火曜)~平成31年3月3日(日曜)まで
休館日:月曜日(祝休日は開館)(1月21・28日、2月4・18・25日)
関連行事
展示品解説
日時:平成31年2月24日(日曜)(主に一般対象) 午後2時から30分程度
講師:堺市博物館学芸員
会場:堺市博物館1階展示場 企画展コーナー
参加費:観覧料が必要です。
申込方法:事前申込み不要、当日直接会場へお越しください。
体験学習会「むかしの遊びを体験してみよう」
日時:平成31年2月24日(日曜) 午後1時から4時まで
会場:堺市博物館地階ホールなど
定員:小学生以上 50人
参加費:無料(但し、展示場の観覧には観覧料が必要です。)
参加方法:事前申込み不要、当日来館の方を先着順で受け付けます。
堺市博物館
堺市堺区百舌鳥夕雲町2丁 大仙公園内
072-245-6201
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