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「こと場のむこうがわ」レポート(1)

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2次元のアートと3次元のアートがコラボレーションして、次元を越えたアートを生み出すライブイベントが開催されました。場所は堺区のカフェ「サカイノマ」、主催は「堺アートプロジェクト」、イベント名は「Shade of Words -こと場のむこうがわ-」、コラボレーションした2人のアーティストとは美術家のフジオカヨシエさんと書家の西村佳子さんです。
西村佳子さんは昨年も同じ「サカイノマ」で、バルセロナの墨のアーティストであるフランチェスカ・ヨピスさんとライブイベントを行いました。それは墨という同じ土俵で東西の両雄が激突する剣豪同士の対決のような趣がありました。しかし、今回はまたちょっと雰囲気の違ったイベントになったようです。
■”なにか”に”書”が絡む
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▲カフェ「サカイノマ」がライブアートの会場に。期待が高まる開始前のひととき。

 

「サカイノマ」には、2人のアーティストと観客が集まっていました。部屋の中央には書の道具がそろったテーブルがリング然として置かれており、壁際に観客席よろしく椅子が並んでいます。
左右の壁には、作品が吊されたり、棚の上に展示されたりしています。中でも目を引くのは、吊された黒いオブジェの背後に何も書かれていない真っ白の大きな紙が設置されたもの。揺れるオブジェの影だけが紙の上で刻々と形を変えています。
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▲書家の西村佳子さん(左)と美術家のフジオカヨシエさん(右)。

 

開始時間となり、西村さんとフジオカさんが挨拶に立ちました。
西村「多分何をするのかわからない案内(状)だったと思いますが、私も何をするのかわかっていないのです。こちらがフジオカさんで、この造形を作ってくださった方です。(2016年に開催された)さかいアルテポルト黄金芸術祭の時に知り合いになりまして、今日はこれないのですが(芸術祭の)ディレクターの朝岡あかねが、作品的にも波長的にもきっと合うのでコラボレーションをやったらいいよというのでやることになりました。昨日一緒に飾り付けをして、これはこれで完成していて、私の出る幕はなさそうに思うのですけれど、最初のコンセプトは吊しているフジオカさんのなんというのかオブジェです」
フジオカ「これは『drawing in the air』という、もう少し空間的なスパチアルなインスタレーション(空間展示)作品で使ったピースなんですけれど、それを使っています」
西村「その影に合わせて、というかインスピレーションで、西村が墨なぞ、文字なぞ、なんなといれていくということをします」
フジオカ「これはなんだ、なになにですというものじゃなくて、……中にはそれに近いものもありますが……サムシングというか、”なにか”という形としてまず見て欲しいです。それに対して(西村)先生は、”ことば”という領域でやっている”書”として、うまくぶつかるというか、絡ませるというのが、(コラボレーションの)発想です。私は比較的抽象的なピースを持ってきています」
西村「私はそこからイメージした”言葉”と言えばいいのか、”線”のようなものを墨で入れていきます。(壁に吊している)白い紙に入れていって完成という作業工程です。作品を作る過程を見て欲しいというのが私の中にあります。一端書いてから、やっぱりやり直すということもあるでしょう。完成はあってないようなものですね」
そう言って、西村さんはテーブルの上に紙を広げます。壁の紙に直接書くと墨が垂れてしまうので、あたりをつけるために壁に紙を吊しておき、実際にはテーブルで字(線?)を書くことにしたようです。さて、どんな作品が出来上がるのでしょうか。
■完成している作品に何を加える!?
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▲「いろはうた」を書く西村さん。しかし、これは「弱い」と判断。

 

壁に吊されている作品を見て、西村さんから思わずつぶやきがもれます。
西村「これはこれで完成していると思うので、これに私が文字を絡ませる必要があるのか?」
観客「ありますね」
その一言に西村さんは破顔します。そして、「私は字ぃしか書けへんねん」と言って、谷川俊太郎の「はなののののはな」などを試し書きしてから、なにかを書き始めます。
西村「揺れるというのもひとつの要素。固定的にぱしっとあるより、揺れるというのも合わせて作品です。スクエアにかちっとするより、緩い感じが好きですね」
西村さんは、まずは黒いワイヤーが雲状になったようなオブジェから取りかかるようです。
「まずはこれから、これはこれしかないというのが決まっている」
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▲やりなおした2枚目を採用。

 

西村さんの筆が上下左右に動くたびに、白い紙に電子回路の設計図のようなものが浮かび上がってきます。周囲を取り巻く観客の視線が、筆先に集中します。
西村「これは『いろはうた』。日本語はたったこれだけの文字で、もやもやと色んな言葉が生まれてくる最初みたいなもので、そげなようなことと、線が絡まっているようなものを(書きました)……でも、ちょっと弱いね。当ててみないとわからないか」
書き上がったばかりの作品を、スタッフが壁の所定の位置に貼ります。
西村「ちょっと弱いですね」
そう言って、西村さんは新しい紙に書き直し始めます。
西村「これも『いろはうた』です。いろはにほへとちりぬるを。私は字ぃしかかかへんねん。ほんまに」
先ほどのものより太い線で書かれた新しい一枚をかけると、今度は満足がいったよう。
西村「さっきの奴よりは強め。さっきのはちょっと弱いね」
これで1作目が完成ということで、部屋に張り詰めていた空気がほどけ、おしゃべりの華が咲きます。
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▲出来上がった作品を鑑賞しつつおしゃべりを楽しむ。

 

フジオカさんの作品についても、観客からどういうものなのかと質問がありました。
西村「これは一体なんなのか。同じ黒い無機質なものでも、素材も違うし、質感も違うでしょ」
フジオカ「これは金属の綿みたいな素材で、ご家庭でよくお台所の金たわしの細かいのみいたいな、あれのたぐいのもので、見た瞬間好きと思って、黒くスプレー塗装したものです」
西村「こんな感じでゆるゆると6時までやらなあかんねん。まだ1時間も経ってないでしょ。ちょっと呑んでいい?」
そう言って、西村さんはビールに手を伸ばしたのでした。どうやら、アートの生まれる現場に居合わして、それを堪能しながら時を過ごすのが、このイベントの楽しみ方のようです。
■日本語の不思議と書の技術
次の作品に取りかかる前に、筆を片手に、お酒を片手にトークタイムが始まりました。
西村「いろはうたは私好きで良く書きます。さっきもいいましたけれど、たった47文字で日本語が成り立っているという不思議。英語もアルファベットだけやけど、Cを知っててもCATっという綴りがわからないと猫を表せないけれど、日本語は”ね”と”こ”が書ければねこと表せるという不思議というか素晴らしさ。これだけの文字で森羅万象をしゃべろうとする日本語の素晴らしさってすごいなと私はいつも思っています。でもそれはだから日本語がすごいということではなくて、それは私が日本語が母国語なので、どこの国もそれぞれ良いところがあると思いますけれど、私は日本語を書きたいと思っています」
そこで西村さんは、さまざまな書き方で『いろはうた』を書いてみせてくれました。
西村「さっきのはこのもやもやっとしたもの(オブジェ)があって、影があるからこの形になる。何もなければこんな風には書かない。私は良く書きますので色々やりましょうか。わりに上手に書くよ」
仮名書として情緒的に書いてみる。シンバルのようにはじきながら書いてみる。可愛い子供がよちよち歩きするように書いてみる。
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▲同じいろはを書き方を変えて。

 

西村「あ、酔ってきた(笑) 連綿すると情緒が増える。連綿しないようにすると情緒が減るので子どもらしさがでる。筆の線で結構違ってくる。……講義みたいになっちゃうけどいいかな?」
フジオカ「どうぞご自由に」
西村「空気感を出したい時は、私はできるだけかすれさせます。重っ苦しい気分の時はこう」
西村さんは様々な表現をする時に応じて違う筆の持ち方をしていました。
西村「違うやろ。持ち方が違うと筆のむきが違うので。普通習字の時間で、持ち方をいいますよね。あの持ち方で書いたらそういう風な形になるという風に出来ているんですよ。行きたい方向を向けて、そう打ち込む」
観客「学校でそう習いました」
西村「うまくやれればその形になるように筆を扱うのが私は勝負やと思っています」
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▲「暑いよね」という西村さんに、「寒いです」と観客から突っ込み。
ほんのわずかな時間でしたが、書という表現の後ろに、学校では教えてもらえない様々な技術、自由さを教わったようでした。
しかし、作品制作はまだ一つしか終わっていません。
後篇では、残りの作品制作の様子を追っていきます。イベントの顛末やいかに!?
サカイノマ熊
大阪府堺市堺区熊野町西1-1-23
TEL   072-275-7060
※「Shade of words」は2019年3月13日まで開催。
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