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だんじりSpirits! 前田暁彦木彫展を前に(1)

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夏から秋にかけて、堺市では毎週どこかで必ずお祭りが行われているといっていいほど祭りが盛んです。お祭りに欠かせない地車も、地域によって布団太鼓だったり、だんじりだったりと地域色があり、地車は各町の誇りとして大切にされています。
今回の取材でスポットを当てるのは、そのだんじりの彫刻界に登場した1人の新星が手がけた作品です。
新星の名は前田暁彦さん。堺市鳳地区の出身で、10年前に独立し『木彫前田工房』を立ち上げ、見事な腕前を披露してきました。
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▲木彫前田工房の前田暁彦さん。

 

2019年3月に、前田暁彦さんの独立10周年を記念して、大仙公園で大がかりなイベントが開催されることになりました。前田さんが手がけただんじりが展示され、間近でその魅力を見られる上、堺の誇る音楽家稲本渡さんのコンサートや、あの『千の風になって』で知られるテノール歌手秋川雅史さんも大のだんじりファンとして友情出演されるのだとか。
このイベントに先立って、つーる・ど・堺では、前田彫刻の魅力を知るべく、中区・毛穴と西区・長承寺の青年団にお邪魔して、実際にだんじり彫刻を見せていただきました。
■最大級・毛穴のだんじり
今回、案内してくださったのは、『前田暁彦木彫展 Spirits of Japan』の企画・運営を行うOmoroiさかい実行委員会の藤岡雅人さんです。まずは藤岡さんの地元である毛穴町へ向かうことにしました。なんと藤岡さんも、かつて大工方として、先代の毛穴のだんじりの上で華麗に舞っていたのだそうです。
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▲毛穴のだんじりの大きさに誰もが驚く。

 

毛穴の地車倉庫の前では、毛穴町の人たちが待っていました。だんじりの説明をしてくれたのは、若頭の須田聡さんと松本真里さんのお2人です。
――毛穴のだんじりの伝統、特徴や自慢といえばなんでしょうか?
「まずは、丁度、今とりつけている番号持ちですね。描龍仙人がモチーフになっています。先代のものも保存しているので持ってきましょう」
描龍仙人とは、仙人が短冊に描いた龍が実物になって飛び出てきたという中国の伝説です。
「先代の番号持ちでは、龍が飛び出している所が無いのですが、前田さんは絵から龍が実体化している所も見事に彫刻にしてくれました」
先代の作品も迫力のある仙人が彫られていますが、描いた短冊の絵が龍になっている様を彫った前田さんの作品は、技術に加えて豊かな発想力があるからこそ生まれた作品といえるでしょう。
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▲描龍仙人をモチーフにした番号持ち。描いた龍が実体化している様子を見事に彫っています。
毛穴のだんじりには、さらに自慢があります。それは圧倒的な大きさです。
「先代のだんじりよりも20cmも高いのです。大きな分だけ、彫刻も大きなスペースが取れました」
大きな屋根周りには、神話関係の物語が各面に描かれていますが、スペースが広すぎて、題材によっては場面が埋まらないので、モチーフを差し替えたりもしたとか。
正面にあるく「懸魚(げぎょ)」のモチーフは『国生み神話』で、イザナミとイザナギが雲の上から突き刺した天乃沼矛が突き抜けている様まで再現されています。
「だんじりの製作は枡合(ますあい/屋根部分)から作っていくのですが、見たことがないような大きな枡合でしょう。製作中に出来上がって行くのを見学しながら、とんでもないものを作っているなと思いました」
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▲国生み神話。イザナギが突いた天乃沼矛が雲を突き抜けている。

 

このだんじりの車体部分の三面を飾る彫刻のテーマは戦国三英傑で、正面が織田信長、向かって右が豊臣秀吉、左が徳川家康になっています。
岸和田型のだんじりでは、一面が4段に仕切られており、4場面×3面で12場面が描かれていることになっています。この毛穴のだんじりでは、三面が三英傑に対応しているだけでなく、格段の横のつながりも意識されています。
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▲腰回りの正面は織田信長。下段の土呂幕は「夜泣きの蘇鉄」。堺の妙國寺にあった見事な蘇鉄を気に入り安土城に持って帰った織田信長。しかし蘇鉄は「堺へ帰りたい」と夜な夜な泣くように。怒った織田信長は蘇鉄を切りつけた場面。……正面の土呂幕はだんじりを曳く時には見えないので、イベントでは必ず見てほしい傑作です。

 

たとえば、3段目(小連子)は、正面の織田信長では「本能寺の変前夜の大茶会」が描かれ、右は信長の死を知った豊臣秀吉の「中国大返し」、左は堺見学に来ていた徳川家康の決死の「伊賀越え」をモチーフにしています。
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▲豊臣秀吉の「高松城水攻め」。奥行きのない平の土呂幕で壮大な場面を描くため、遠近法を利用して高松城を彫っている。

 

「堺のだんじりなので、堺と関係のある話も取り入れています」
たとえば織田信長の一番広い4段目(土呂幕/どろまく)は、堺の妙國寺の蘇鉄を信長が持ち去った所、「堺に帰りたい」と蘇鉄が泣き出したという「夜泣きの蘇鉄」伝説が作品化されています。他にも堺に縁の深いものとしては、ルソン壺など茶の湯、仁徳天皇と鹿のエピソードがモチーフになっています。また、3度焼かれて蘇った堺のシンボルとして、鳳凰が雌雄一体彫られているのですが、これはちょっと簡単には見つからない所に彫られています。他にも前田さんの遊び心の仕掛けが沢山あって、あちこちに覗き込まないと見えないものを探すのも、このだんじりを見る楽しみの一つでしょう。
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▲胴回りの左は徳川家康がテーマ。4段に分かれてシーンが描かれている。一番下の土呂幕には、徳川家康絶体絶命の危機、武田軍団に敗北した三方原の戦いで、命からがら逃げる徳川家康の表情までリアルに描かれている。

 

■曳き続けただんじり
前田作品を満載したこの巨大だんじりはどんな経緯で作られたのでしょうか。
「先代のだんじりも35年曳いていただんじりで、いいだんじりだったのですが、まわり(の町)でだんじりを新調されるところが多くて、うちも負けてられないという気持ちになったのです。だんじり製作は、植山工務店さんにお願いすることになり、彫刻は前田暁彦さんがぜひやりたいとおっしゃってくださって、どうせ作るなら他所に負けないものを作ろうということになったのです」
こうして毛穴のだんじりは、植山工務店の大工さんと、彫師の前田さんの共同作業で作られることになったのですが、だんじりが出来上がるまでには長い時間が必要でした。
木を切っても時間をかけて何年も乾かしてからでないと使えないため、まず原木をじっくり2年ほど乾かし、彫刻には2年、組み立てに半年をかけ、原木式から数えて5年の製作期間を要しました。
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▲毛穴のだんじりの晴れ姿。

 

平成29年に完成し、これまで2度お祭りで曳いています。
「こんな大きなだんじりを曳けるはずがないなんて言われもしたので、意地でも曳いてやろうと思いました。実際、だんじりが出来てから本当に道を通れるか確認したぐらいですし、屋根が大きすぎて上で跳ぶ大工方は大変です」
――少子化で曳き手を確保するのも大変じゃないですか?
「曳き手が減って困っているのはどこの町もそうです。毛穴は比較的ましな方ですが、それでも他の町と提携して、お互い曳くのを手伝ったりしています」
――明治時代に堺でだんじりを禁止されたことがありましたが、その時代に毛穴のだんじりはどうだったのでしょうか?
「その頃は、まだこの地域は堺市に組み込まれていなかったので禁止令は及んでいなくて、だんじりは続いていました。それよりも高度成長期の頃の方がピンチでした。どこもだんじりを曳く人間がいなくなって、邪魔ものあつかいされて燃やされてしまった所もあったほどです。そんな中でも、毛穴は絶えることなくだんじりを曳き続けてきた数少ない地域のひとつです」
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▲巨大な枡合(ますあい)として、中央部に組み物がある特殊な構造で、スサノオと8つの首の八岐大蛇が戦う迫力の彫り物。
――世間一般ではだんじりというと岸和田という印象が強いですが、堺も負けずに盛んですね。
「毛穴は山の方で注目されにくいのに対して、岸和田は市街地を走るしTVの影響もある。それでも堺全体のだんじりは80台ぐらいはあるんじゃないでしょうか? 岸和田と同じぐらいの台数かと思います」
――だんじりとしての違いはあるのですか?
「堺は上だんじりが多かったのですが、岸和田の影響でやり回しが格好いいと下だんじり(岸和田型だんじり)が増えました。また、堺のだんじりは地域ごとに全然違う特徴があります。たとえば陶器の方ではだんじりを曳く時に歌を歌うとききましたが、毛穴ではやりません」
――毛穴のように大きなだんじりを作る傾向になっているのですか?
「このだんじりが完成して曳いた時は、他所からも見学が沢山きて祭りが大賑わいになったほどですが、こんな大きなだんじりはよう曳かないと言われますね。曳き手の問題もあって、どちらかというとコンパクトになっていく傾向があると思います」
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▲毛穴町の皆さん。
時代の変化の中で、伝統から変わった部分もあれば、引き継いだ部分もある。それも含めて毛穴の青年団の自慢のだんじりをじっくり見させてもらいました。後篇では長承寺のだんじりを見せてもらうことにしましょう。
『前田暁彦木彫展 Spirits of Japan』
日時:2019年3月23日(土)~24日(日)
会場:大仙公園いこいの広場・日本庭園
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