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声にならない声から伝わるもの 「生命のメッセージ展」

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白い人型のパネルが佇んでいます。
壁際に並ぶそのパネルの高さはまちまちですが、足元には履物が並び、胸のあたりには人物の写真と説明文が貼られています。解説文を読むと、そこには写真の主のことが書いてあります。書いている内容は、千差万別で1人1人違うのですが、ただ1つ共通するのは、全ての人物の人生が突如断ち切られたこと。
そうです。彼らは犯罪被害者たち。犯罪・事故・いじめ・医療過誤・一気飲ませなどによって、理不尽に命を絶たれた犠牲者たちなのです。
足元に置かれた履物は、彼らが実際に生前に履いていたものでした。
2018年8月にイオンモール堺鉄砲町のイオンホールで開催されていたのは、特別非営利活動法人「いのちのミュージアム」が主催する「生命(いのち)のメッセージ展」でした。白い人型のパネルの並ぶ様子をTVなどで見たことがある方もいるでしょう。「生命(いのち)のメッセージ展」は、犯罪被害者を主役としたアート展なのです。
■メッセンジャーは伝える

 

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▲「生命(いのち)のメッセージ展」でホールに並ぶメッセンジャーたち。
ひとつひとつのパネルの説明文は決して長くありません。生前どんな人柄で、どんな夢を持ち、そしてどんな死を迎えたのか、そんなことが記されています。
無謀な飲酒運転による事故に巻き込まれての死、凄惨なリンチ殺人や性暴力による死……。
それぞれの白いパネルは、生前の身長と同じ高さに作られています。
屈まなければちゃんと読めないほどの小さなパネルは、まだ未就学や低学年の子どもたち。こんな小さな背丈の子どもがわずか数年で命を落としたのです。あるいは、立派な背丈に成長した若者は一気飲ませで命を奪われた。これからの成長を楽しみにしていた家族の気持ちはどれほどのものだっただろうか。
平日の昼ということもあって、まばらな観覧者でしたが、みな展示を熱心に見ている様子が印象的でした。見終わると、会場中央のテーブルで時間をかけてアンケートに記入している姿も目に付きます。

 

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▲遺品の靴に、どんな人だったのか、思いをはせる。
筆者も一通り見終わった後、スタッフの方に声をかけ、「生命(いのち)のメッセージ展」について尋ねてみました。
――どういう意図をもってこの「生命(いのち)のメッセージ展」をされているのでしょうか?
「この白い等身大ボードは『メッセンジャー』と呼ばれています。メッセンジャーはただ無言で立っているだけです。心で感じてもらいたい。考えてもらいたいのです。だから、こちらからは一切何も言わないのです」
――一体、何がきっかけでこの「生命(いのち)のメッセージ展」は始まったのでしょうか。
「それは、こちらのメッセンジャーを見てください」
そうして案内されたのは、ホールの入り口に立つメッセンジャーでした。
■成立したひとつの法律
2000年4月9日の深夜。大学に入学したばかりの鈴木零さんは、飲酒・無免許・無保険・無車検の暴走車に突っ込まれて跳ね飛ばされます。同行していた友人共々即死。まだ19才の若者でした。
「それまでも何度も無謀な運転を繰り返していた運転手でしたが、当時の法律では業務上過失致死罪で最高でも懲役5年にすぎませんでした。鈴木零くんのお母さんは鈴木共子さんと言います。共子さんは、いのちの価値があまりにもの低さに驚き、なんとかしなくてはと法律改正の署名活動を始めます。それと並行して、この『生命(いのち)のメッセージ展』も始めました。共子さんは、造形作家でもあったのです」

 

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▲会場の入り口では鈴木零さんのメッセンジャーが迎えてくれた。
鈴木共子さんたちが書名活動をはじめたのが2000年6月。「生命(いのち)のミュージアム展」の巡回式展示が始まったのが2001年3月。そして2001年11月「危険運転致死傷罪」が異例の速さで新設されたのでした。飲酒運転への認識が軽かった当時、刑法新設に至ったのは、署名活動だけでなく、「生命(いのち)のメッセージ展」を開催して関心を集めたことも大きな後押しになったのでしょう。
たしかにこの日出会ったメッセンジャーたちは、ただの物言わぬボードではなく、アートによって力を吹き込まれた雄弁な存在でした。
■堺市はセーフシティを目指す
この「生命のメッセージ展」は、どういった所で開催されているのでしょうか。
「全てのメッセンジャー160命全員を展示する本開催以外にも、今回のようなミニ開催も開催しています。北海道から沖縄まで小学校や中学校でも開催されていますし、国の矯正教育の一環として、全国の刑務所や少年院などでも開催されています」
――堺市でも、これまで何度か開催されていたのではないでしょうか?
「そうなのです。堺市では市役所のロビーなど、今年で6年連続開催しています。それだけではなく、去年は大阪府立大学でも開催することが出来て、今年も秋にまた府立大学で開催することになっています」
――堺市は、かなり熱心に取り組んでいるといえるのでしょうか?
「はい。そういえると思います」

 

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▲堺セーフシティプログラムの取り組みを説明したパネル。
この「生命のメッセージ展」で気になる展示物がもうひとつありました。それは堺市の取り組みを紹介したパネル展示で、そこにはあまり見慣れない「セーフシティ」という文言が見えます。そして「いのちのミュージアム」のスタッフ以外にも、堺市からのスタッフも会場には来ていたのです。
堺市では、こんなにも熱心に「生命(いのち)のメッセージ展」の開催に協力しているのはなぜなのか、そして「セーフシティ」とは一体なんのことなのか。
今度は堺市役所で話を伺うことにしましょう。
イオンモール堺鉄砲町
住所:堺市堺区鉄砲町1
「いのちのミュージアム」
住所:〒191-0033 東京都日野市百草999 日野市立百草台コミュニティセンター3階
お問い合わせ: 事務局連絡先
電話 042-594-9810
FAX 042-506-9816
京王線・多摩モノレール「高幡不動駅」下車
「百草団地行き」「帝京大学構内行き」
「聖蹟桜丘駅行き」「三沢台下行き」のいずれかのバスにて「百草センター」バス停下車。徒歩6分
※2018年11月2日~4日。大阪府立大学中百舌鳥キャンパスにて「生命(いのち)のメッセージ展in第70回白鷺祭」開催。
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