堺意外史

古代が身近に感じられる奇祭―やっさいほっさい

冬の満月の夜を彩る炎に立ち向かう勇壮なお祭りがあります。泉州の奇祭といわれる「やっさいほっさい」。堺市西区の石津太(いわつた)神社に長く伝わるお祭りです。
「やっさいほっさい」という奇妙な名称は、祭に参加する男たちの掛け声に由来し、お祭自体は江戸時代に始まったものとされていますが、由来は神話の時代に遡ります。日本神話に登場する「ヒルコノミコト(蛭子命)=戎神」が海に流されてこの地にたどり着き、それを村人たちが焚き火で暖めたという伝説がそれです。

■ 夜の闇に燃え上がる神秘の炎

お祭りは、お昼に神社の前庭に大きな“とんど”を組み上げた後、「ヒルコノミコト」がたどり着いたとされる石津川沿いにある御旅所にお参りに行くところから始まります。氏子の皆さんは、御旅所で安全を祈願し、夜に備えます。

神事の安全を祈ります(左) 大きく積み上げられた“とんど”(右)

屋台が出たり、よさこいグループの舞が披露されるなど、お祭りムードが盛り上がる中、日がすっかり暮れた午後8時にはすべての照明が落とされます。火付け神事の始まりです。真っ暗の中、松明を持って現れた神人によって火がつけられ、“とんど”は一気に炎に包まれます。
風にあおられて炎が揺らぎ、“とんど”を組む神木が炎をまとったまま転がり落ちてきます。
世話人たちからの「崩れる時は一気に崩れるので気をつけて」との注意を忘れ、ついつい炎に見とれてしまいます。
“とんど”が陸側に崩れれば豊作、海側に崩れれば大漁という占いにもなっているそうです。この年、2016年は海側に崩れたので、翌2017年は大漁とのお告げです。

幻想的な炎があがります

 

■ 穢れを払う火伏せ神事へ

“とんど”が崩れると、次は10mもの竹筒を使って火をならす火伏せ神事です。男たちが竹筒で残った“とんど”を突き崩し、火の粉と灰がもうもうと舞いあがります。
これで火はおき火となり、黒々とした炭の下からマグマのように潜みます。そこを氏子から選ばれ戎となった神人が担がれて一気に火の上を走りきります。再び、火の粉と灰が巻き上がります。火の粉をまとった神人たちの姿は、迫力満点。
神人達が火渡りを終えた後は、参拝者も火渡りに参加して一年の穢(けが)れを払うことができます。毎年、誤ってスマホなどを落とす人がいて、熔けて使い物にならなくなったスマホが発見されるとか。
祭が終われば熱気は去り、12月の冷えた夜の大気が人々を包みます。古代の人たちは、最も夜が深いこの時期に「死」という闇を感じたから、「再生」を連想させる炎の神事を生みだしたのではないか―そんな考えがふと浮かびます。「やっさいほっさい」は死と生の狭間を体感できる不思議なお祭りでした。

まだ赤く光っている灰の上を歩きます

 

<行き方>

●石津太(いわつた)神社・・・南海本線 石津川駅徒歩5分、阪堺電鉄 石津駅徒歩5分

〒592-8334 堺市西区浜寺石津町中4丁12-7
TEL:072-241-5640
※やっさいほっさいは、毎年毎年12月14日に行われます。
※参加する場合は、化繊の服装は避けてください。

つーる・ど・堺

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