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堺に現代アートがやってきた!!

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オープンから半年が過ぎ、全国各地から途切れなく観光客が来訪しつづける『さかい利晶の杜』。その日、これまでにないイベントが開催されました。
それは現代アートイベント「堺アルテポルト黄金芸術祭 秋の陣」。プログラムは「アートde茶会 南蛮編」と名付けられたお茶会と、「ど☆さかいサミットvol.3 トークセッション~アートで堺の未来創造~」と題したシンポジウムの二本立て。さて、その様子を覗いてみましょう。
■現代アートと茶の湯のコラボレーション
イベントの会場は、『さかい利晶の杜』にある三千家の茶室、西江軒、風露軒、得知軒です。3つの茶室の手前にある土縁には、書の作品と陶芸作品が展示されました。
書は、書家の西村佳子さんのもの。
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▲北夙川さんの短歌を西村さんが現代書にしたインスタレーション展示。

 

そこにあったのは、軸装・額装された書とはまったく異なるオブジェ的に展示された作品でした。筒状に展示されているのは、歌人・北夙川不可止さんが、現代の堺をテーマにして詠んだ短歌を現代書にしたものです。こんな風にして書を楽しむことが出来るのかと驚かされますが、さらに圧巻なのは、縁側に広げられた大作『絵巻ぱくすさかい PAX SACAY』です。
全長9mにもなるこの巨大な作品は、紀元前の文字の誕生に始まり、文化がいかに生まれ伝播し、シルクロード最後の港である堺に伝わったかを、時間的・空間的な広がりを立体的に描いたもの。本イベントに先立つ9月18日に堺市民交流広場で公開制作されました。その際には、「今堺をおもう」というテーマで、居合わせた観覧者にも一筆書いてもらって合作となり、まさに今の堺でしか作ることが出来ない作品になっていました。

 

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▲縁側にインスタレーションされた「絵巻ぱくすさかい PAX SACAY」。竹山修身市長もインスタレーションを鑑賞され、茶席に参加されました。
茶室にあがると、三つの床の間には、書・陶芸作品・花がコラボレーションで設えられていました。
この茶会で使われている陶芸作品は、和歌山県紀美野町で開催されている『スペイン現代陶芸と日本の交流展 ミシオンセラミカ』で展示されている作品です。日本で陶芸というと「器」ですが、ヨーロッパの現代陶芸は、まったく違いアート作品・オブジェとして作られています。
実用品として作られたものでないものを、茶道具や花器として使う。そんな難題に挑戦したのは、花道みささぎ流の家元・片桐功敦さんです。

 

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▲北夙川さんの短歌「肉桂の餅の香りの漂へる古き店先硝子歪みて」より「硝子」を書に。西村さんと。陶芸作品は、カルメン・サンチェス「夢の橋」。

 

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▲短歌「欄干にもたれ土居川見下ろせばさざなみ立てて小舟近づく」。陶芸作品はエンリケ・メストレ「無題」。

 

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▲短歌「臥亜を經て西昆那を經て澳門經て南蠻人のたどり着きたる」。陶芸作品はアントニア・ガルボネイル「遺物」。
お茶菓子は『天神餅』さんが、この日のために作られた掟破りの一品です。『欧炉(オウロ:ポルトガル語で黄金の意)』と命名されたこのお菓子は、ルソン壺をモチーフとしており、羊羹のフタをあけると、金平糖、チョコ、シナモンカステラが詰め込まれています。普通はありえない和菓子と洋菓子の技術がコラボレーション。

 

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▲お茶菓子「欧炉」とスペイン人作家パブロ・ルイスさんが焼いた茶碗。お点前は表千家です。
現代陶芸作品は見立てで「水差し」「建水」「杓立て」「菓子器」などの茶道具としても使われました。茶碗は、この日のために『ミシオンセラミカ』に滞在中のスペイン人作家の皆さんが焼いたもの。
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▲水差しの蓋は、堺の職人さんが、パブロ・ルイスさんの「聖杯」に合わせて作ったもの。まさに東西アーティスト・職人のコラボレーションです。

 

3席あったお茶席は、いずれも満席。お客様からは「こんなに気楽に楽しめるお茶席は初めてです」「展示が素晴らしかった」などの感想が聞かれ、この風変りなお茶会を満喫されたようでした。

 

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▲左から順に、床の間の設えの説明をする朝岡あかねさん、歌人の北夙川さん、竹山市長、花道家片桐さん、スペインの現代アーティスト・フランチェスカさん。 ▲各席で老若男女30人のお客様がお茶席を堪能されました。
■ど☆さかいサミットvol.3
午後から開催されたトークセッションは、これまで『つーる・ど・堺』が2度開催してきた『ど☆さかいサミット』のvol.3として企画されたものです。
現代美術家の朝岡あかねさんが司会として、アートプロデューサーの原久子さんと花道家の片桐功敦さんを紹介。

 

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▲アートプロデューサーの原久子さんが、日本各地の事例を紹介。

 

まずは原さんから、全国で行われているアートプロジェクトの事例が紹介されました。
かつては温泉街として全国から観光客を集めながら、いまやすっかりさびれた別府で行われている『混浴温泉世界』、大分市内のトイレを舞台にした『おおいたトイレンナーレ』などユニークな芸術祭が日本各地で行われています。原さんは自身も美術館や温泉から出て、町を歩くことによってその場所の魅力を知ることが出来たのだといいます。
「全国に20ある政令指定都市の多くで、アートプロジェクトが行われていますが、堺では未だこのような現代アートプロジェクトが開催されていません。『堺アルテポルト黄金芸術祭』が初めての試みとなります」
アーティストの視線で、堺ならではの魅力を発掘する。そんな期待が出来そうですね。

 

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▲「一年に何度か美術館やアートイベントに良く行く方は?」の問いに手をあげる方多数。アートに関心のある方は少なくないようです。

 

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▲福島第一原発を中心とした同心円を前に活動を説明する片桐さん。

 

片桐さんは、実際に作品を作るアーティストとしての視点で、南相馬での経験を語りました。
2011年に発生した東日本大震災で起きた福島第一原発の事故は、未だに終息していません。原発から20km圏内に咲く花を活けて記録するプロジェクトに参加した片桐さんは、福島県南相馬市にアパートを借りて、足掛け1年近く活動しました。
「他の地域の瓦礫は片付けられていきましたが、福島の瓦礫は放射能汚染のために、灰にして処分することも出来ずそのままになっています」
津波の被害が生々しく残るエリアに咲く花を活けて撮った写真。その土地で1万年も前に生活していた縄文人の土器に活けた写真。茶室の壁をそのままスクリーンにして映し出された映像の迫力に、聴衆は圧倒されます。
今はすっかり人影の消えたこの土地には、1万年にわたる人の営みがあった。失われ、いつ取り戻すことが出来るかわからないそれを片桐さんというアーティストの視線と手が確かな記録として刻み込んでいたのです。

 

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▲「今日は線量を浴びすぎたな……」と確認する毎日はストレスになりましたが、一緒に野山に入って花を摘み花で人を飾るプロジェクトはいい息抜きになりました。(撮影;渕上哲也)

 

休憩を挟み、原さんを司会に、朝岡さん、片桐さん、西村さん、北夙川さんらを参加者全員で囲んでのクロストーク。そもそもなぜ『堺アルテポルト黄金芸術祭』というイベントが企画されたのかという問いに朝岡さんが答えます。
「政令指定都市でありながら、市立の美術館もない、ギャラリーの数も驚くほど少ない堺市。ハードもなければ、アートに対する支援も少ない」
そこでアートに親しんでもらうためには、アートが町に出ていくアートプロジェクトを行うしかないと、朝岡さんたちは考え、『堺アートプロジェクト』という団体を立ち上げ、『堺アルテポルト黄金芸術祭』を企画したのです。
「この秋の陣はプレイベントです。本展は3月11日から21日まで堺市民交流広場や商店街など町に出て開催される『冬の陣』です」
長年、堺市で活動を続けてきた片桐さん、多くの地域でアートディレクターとしてアートイベントに携わってきた北夙川さんから、地域の持つ問題やアートの可能性が示唆されます。今回、絵巻を作成した西村さんから、
「この絵巻は堺でなければ成立しなかった。海外とのつながりや広がりのある堺は独特の町だ」
との意見もあり、朝岡さんも同意します。
「東京出身で外から来た私から見ると、堺には魅力的なものが沢山ある。どうしてそれを活用しないのか不思議です」

 

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▲車座になってのクロストーク。

 

そして、この日は堺在住の版画家・安井須磨子さんをはじめ、多くのアーティストやアート関係者も姿を見せていました。堺は多くの課題を抱えているものの、決して文化不毛の地ではない。それを気付かせてくれるイベントでもありました。
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▲堺アートプロジェクトの代表・朝岡さん。冬の本展が楽しみです。
イベントを終えた朝岡さんからメッセージをいただきました。
「堺アルテポルトはやっと、はじめの一歩を踏み出しました。堺独特の時空の広がりを現代のアーティストと共に茶会という一期一会の瞬間で表現したい、堺的小宇宙を創出させたいという思いを持って挑みました。3月の本展に繋がる堺アルテポルトのヴィジョンを体感できる場としてアートde茶会を行いました。いよいよ3月に向けて走り出しました。よろしくお願いします」
来年の本展でも、私たちが気付いていない堺の魅力を見せてもらえるのか、期待です。
(撮影協力:ホリバエイジ)
堺アルテポルト黄金芸術祭
本展開催決定
会期:3月11日~21日
場所:堺区旧市街区を中心に4エリア
【アートボランティア】募集中!!
詳しくは、webサイトをご覧ください。

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