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ビブリオバトルに参戦せよ!

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▲本への情熱を傾けるプレゼンテーション。

 

風格はあれど、暖房設備は心もとない堺市中央図書館のロビーに、人々が集まってきました。
彼らは『ビブリオバトル』の発表者、または観戦者なのです。本好きの方なら小耳にはさんだかもしれない『ビブリオバトル』という単語。一般にはまだまだ馴染みなく、「ヨーグルトにでも入っている菌のことかしら?」なんて間違われるかもしれませんね。
ビブリオバトルとは何なのか? 2013年12月に催された『第13回ビブリオバトルinさかい』の様子をちょっと覗いてみましょう。
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▲この日の総合司会は谷口也寸志さん。
まずは司会の方がビブリオバトルとは何かを解説。今回はビブリオバトル経験者が多かったようですが、毎回半数ぐらいは初体験の方が来られるのだそうです。
すぐにバトル開始と思いきや、まずはアイスブレイクという簡単なゲームでリラックスします。
今回はバトルのテーマ「白」にちなんで、「白い食べ物(飲み物や口に入れるものを含む)」を思いつくままに書いていくというゲーム。2人一組でアイディアを出していき、一番多く出たペアの勝利。
ゲームは予想以上に盛り上がり、制限時間の1分が気が付くと過ぎていました。
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▲アイスブレイクの司会の吉田さん。 ▲白い食べ物は? 「おもち」「白ごはん」「白ネギ」……「白ナス」なんてものも。
大笑いした所でバトラー(発表者)の紹介。本日のバトラーは6人。じゃんけんで順番決めをして、いよいよ発表のスタートです。
■「白」の戦い
今回のビブリオバトルのテーマは「白」。このひとつのテーマに沿って、バトラーたちが独自の視点で選んだ一冊を持ち寄り、プレゼンテーションを行います。
各バトラーの持ち時間は5分。そののち、観戦者と2分間の質疑応答という流れになります。
では、実際のバトルの様子をダイジェストで……。
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▲はじめてのビブリオバトル参加という方からベテランまで、この日は6名のバトラーが参戦。

 

●『白』 原研哉/著
当日の朝10時30分に図書館に電話して参加表明したという1人目のバトラーが紹介したのは、タイトルがそのものずばり『白』。無印良品のデザインをプロデュースしたり、長野オリンピックの開会式や愛・地球博にも関わったデザイナーの原研哉が著者です。デザイナーが語る「白」という色。
「真っ白な装丁がとにかくカッコいい」
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▲「万葉の時代には日本には四つの色の言葉で表していた。『白』には特別な意味があった」 ▲「海外に発信する意味合いをこめて、本文は日本語と英語の2言語で書かれています」「英語の翻訳なのか?」 セッションタイムでやり取りも。
●『センス・オブ・ワンダー』 レイチェル・カーソン/著
「テーマを聞いて、この本の嵐の夜の海のシーンが浮かびました。作者が1才8ヶ月の甥を抱きながら、嵐の夜の波しぶきの白さを見つめているシーン」
と、本を選んだインスピレーションを語る2人目のバトラー。
「『センス・オブ・ワンダー』を日本語に訳すと『不思議な気持ち』とひとつの意味になるけれど、英語の『センス・オブ・ワンダー』には色んな意味がある」
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▲大勢の前でプレゼンテーションをするのは初体験だというバトラー。素晴らしい表現力でしたよ。 ▲「高いメッセージ性とは?」「お天気のいい日に散策するとかだけでなく、自然のもっと色々な根本的な面から受け止めることができるんじゃないか」
●『新幹線 お掃除の天使たち』 遠藤功/著
東北新幹線の清掃を担当している会社のスタッフが主人公。いかにCS=カスタマーサティスファクション(顧客満足度)を高め、それをES=エンプロイーサティスファクション(従業員満足度)につなげていくのか。「ぶっちゃけ、会社で読めと言われたので読みました」とバトラーが本音をちらり。
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▲「こうしなきゃと思って読むと凹むので、『こんな人たちもいるんだな』ぐらいの話半分で読むといいですよ」というアドバイスに、つい頷いてしまいます。 ▲観戦者からは鋭い質問が飛びます。「会社の社員は本を読んで何か変化はあったのでしょうか?」

 

●『どおんと・クマ』 ひろかわさえこ/著
「クマのクイズー! 色んなクマがいますが、1番目から4番目までのクマのどれかあててください!」突然のクイズに驚かされました。
「なんと体重700キロ、全長2m以上。僕は誰でしょう!」「チャームポイントは胸の白い三日月!」
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▲本当に本当に愛すべき動物であるというクマ。どうしてもクマの魅力を伝えたいというバトラーの気持ちが溢れるプレゼンでした。 ▲爆笑のプレゼンでクマラブが会場に広がります。
●『水と森の聖地 伊勢神宮』 稲田美織/著
写真家だった筆者はアメリカで起きた同時多発テロの現場すぐ近くにいたため、しばらく写真がとれなくなってしまいます。世界中の聖地を巡り始めた筆者は薦められて伊勢神宮へと向かい、そこで写真家として再生する。
「自分の生まれた所、生まれた母親にはじめてあったような気持ちになったのではないでしょうか」
筆者が伊勢神宮で撮った素晴らしい写真が掲載されているそうです。
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▲「乾いた砂に水が吸い込むように素直に伊勢神宮について学んだことが、詩のような文章で書かれています」 ▲「伊勢神宮に行きましたか?」「読んでからは行ってないので、また行きたいと思います」
●『法然の涙』 町田宗鳳/著
浄土宗の開祖・法然の一生を描いた小説。高位の僧だけが身にまとうことが出来る「白い衣」と題名にもなっている「涙」をキーワードにバトラーはプレゼンテーション。
侍の子だった法然は、9歳の時に闇討ちで父を殺されますが、仇討をするなと遺言され、仏の道に入ります。優秀だった法然は比叡山で修業して白い衣をまとうこともできたのですが、末法の世の人々のため山を下ります。……法然のエピソードをぎゅっと凝縮して5分で紹介!
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▲「法然の涙の意味は?」「小学三年生で、父や母と辛い別れをした涙。その後も多くの涙を流します」 ▲「どんな所に感動されましたか?」「沢山あるのですが、母から与えられた偉くなった時の法衣用の白い反物を、貧しいらい病患者のために包帯にしたり……」

 

2分間の質疑応答によって、本の魅力がさらに深く掘り下げられる。これもビブリオバトルの面白さのようです。
●はたしてチャンプ本は!?
6人のプレゼンテーションが終了し、いよいよチャンプ本の決定です。
投票の基準は、「どの本を読みたくなったか」です。だから表彰は、チャンプでなはく、チャンプ本となっています。ビブリオバトルはプレゼンテーションの上手さを競うものではないというのが、このゲームの精神なのです。

 

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▲読みたくなった本を挙手で投票。 ▲健闘を讃えて拍手!
投票は挙手で行われ、今回は5人目のバトラーが紹介した『水と森の聖地 伊勢神宮』がチャンプ本となりました。投票は接戦で、2位は『どおんと・クマ』でした。
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▲チャンピオンが決定! これまでのチャンプ本やビブリオバトルの様子は中央図書館のHPで閲覧できます。

 

チャンプ本が決定したらイベント終了というわけではありません。
「ビブリオバトルinさかい」では、バトラーごとに発表本のデータを書いた名刺サイズの「コミュニケーションカード」が作られており、興味を持った観戦者がカードを受け取りながら、バトラーとおしゃべりを楽しむ時間がもうけられています。
本好きの輪が広がる時間です。
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▲セッションタイムで足りなかった質問や感想も。

 

こうして堺中央図書館で行われる2013年のビブリオバトルも無事終了。堺では丸2年の歴史を刻んだのですが、どういう経緯でこのイベントが始まったのか、立ち上げに関わったスタッフに話を伺いました。
■関西での図書館開催の先鞭をつけ
現在は堺市中区図書館で館長代理を務める岩本高幸さんは立ち上げスタッフの1人です。
「堺市中央図書館の当時の館長が、ビブリオバトルの創始者・谷口忠大さんの講演を聞いて興味をもたれたのがきっかけです。図書館での開催は可能なのではないか? 私ともう1人のスタッフで、ビブリオバトルを取り入れていた奈良の図書情報館へ見学に行きました」
そこでビブリオバトル普及委員会の援助を仰ぐことになったのですが、ビブリオバトルの運営は図書館ではなく、有志によって運営すべきだとアドバイスを受けます。
岩本さんが大学で講師を務めていた縁もあって、大学生の金川さんが「面白そうだ」と興味を持ち、スタッフとして参加することになります。
こうして堺ビブリオバトル倶楽部が誕生したのです。
2011年の秋ごろから準備をはじめ、2012年の1月15日に中央図書館ロビーにて第1回の「ビブリオバトルinさかい」が開催されます。
学生さんが活躍しているビブリオバトルが多い中、第1回チャンプ本『ラーメンと愛国』を発表したバトラーはお年寄り。この時から幅広い年齢層が参加する「ビブリオバトルinさかい」の特徴が出ていたのかもしれません。
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▲同じく立ち上げスタッフで堺ビブリオバトル倶楽部の金川さん。
以来2年間、偶数月にはビブリオバトル、奇数月にはインターミーティングが堺ビブリオバトル倶楽部によって行われてきました。
インターミーティングでは、イベントの運営の改善が提案される他、バトルのテーマ案が出されて決定されます。
「テーマ決めは頭を悩ませますね。意外性を狙って12月に『ホラー』というテーマにしてみたり、漢字一文字にしてどう読むのかの解釈も委ねてみたりと、試行錯誤してきました」
バトラーがどんな解釈で本を選んでくるのかも、テーマ決めの楽しみのひとつです。
堺ビブリオバトル倶楽部は、それ以外にも南図書館で出張ビブリオバトルを開催したり、ネットラジオに出演するなどの活動を続けてきました。
そして、この2年間の間に各地の図書館や民間で数多くビブリオバトルが開催されるようになってきたのです。
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▲皆で名前を決めた『ハニボン』。

 

他の地域のビブリオバトルスタッフからもよく羨ましがられ、ちょっと鼻が高いのがマスコットキャラクターの存在です。デザイナーの石山杏理さんデザインによるハニワのキャラは可愛いとの評判でした。
せっかくだから、みんなで決めようとマスコット名が公募され、イベントでの投票の結果、ついに名称が決定。
その名は「ハニボン」!!
もちろんハニワと本、それに関西地方で小さな男の子をさす「ぼん(坊)」から名付けられた名前でした。
「ビブリオバトルのチャンプにはオリジナル『ハニボン』グッズをプレゼントしています。ぜひグッズゲットを目指してください」

 

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▲バトラーに司会にと大活躍の谷口さん。ビブリオバトルを発明した谷口忠大さんとよく間違えられたり、関係者だと思われてしまうのだとか。
第13回ビブリオバトルin堺の開催が年末だったということもあってイベント後に初めて堺ビブリオバトル倶楽部の忘年会も開催されました。
第1回の開催に発表者として参加し、以後スタッフとしても中核的な活躍をしている谷口也寸志さんは感慨深げでした。
「新しい倶楽部員も増え、こうして忘年会が開催されるまでになったことを嬉しく思います」
ビブリオバトルの根本的な精神を守りながらも、実験的な事にもチャレンジしていくのが堺ビブリオバトル倶楽部らしさ。今後は商店街のまちおこしイベントなどでの開催や、市役所の展望室での開催などもやってみたいと夢が膨らんでいます。
忘年会では、仕事関係の中ではなかなかないリラックスした様子で、世代を超えた交流で会話も弾んでいました。
堺市中央図書館
堺市堺区大仙中町18-1 TEL
tel:072-244-3811
fax:072-244-3321
堺ビブリオバトル倶楽部
※堺ビブリオバトル倶楽部では、発表者・観戦者に加えて倶楽部員を募集しています。お気軽にご連絡ください。

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