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ちんちん電車にアートを載せて 与謝野晶子生誕芸術祭

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『ちん電通り』の名で堺っ子に親しまれる大道筋に、ヨーロッパ風の新しい「ちんちん電車」がお目見えしました。堺トラムです。
その堺トラムの車内に、2014年1月6日の運転再開から、アート作品が展示されています。
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▲2013年から運行開始した堺トラム。少しおやすみして2014年1月から運行再開しました。 ▲綺麗な車内の窓上のスペースがアート作品の展示スペースに様変わりします。
作者はアート集団『PAO』の現代美術家朝岡あかねさんと、フリークリエイターの渕上哲也さん。二人の作品は、毎年開催されている『与謝野晶子生誕芸術祭』の一環として制作されたものです。
与謝野晶子を題材にした作品ですが、使用されている写真は、若い女性がやりとしているスマートフォンの画像や、在日外国人の家族写真。
一見晶子とは関連なさそうに思えるこの作品について、話を伺ってみました。
■女性として腑に落ちた
朝岡あかねさんは、東京に生まれ、ロンドンでアートを学び、フランスやスペインなど海外で長年活動してきました。
「正直晶子のことは何も知らなかったし、短歌も馴染みのない世界なので構えていたところがありました。でも、晶子の言葉の中に自分も個人的に腑に落ちる所があったんです。1人の女性として自分自身で感じることが出来たんです」
それは晶子の詩の中にあった朝食の風景であり、23才の恋する女性としての心情でした。母であり、女であった晶子。
「文豪としての晶子の言葉ではなく、人間としての本当の心を共有できると思いました」

 

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▲堺に住んで2年になる朝岡さん。
遠い過去の風景ではなく、日常の中から晶子とフィットするものを掘り起こすことによって、何十年も昔の堺と、今の堺を結びつけることが出来ると考えたのです。
「だから晶子の作品に解説文をつけて説明するようなことはあえてせずに、視覚的なアートにしました」

 

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▲今に蘇った晶子の食卓。 ▲今、23才の晶子がいたらスマホでどんなやりとりをしたでしょうか。
作品のひとつでは、同じ母親として共感したという、晶子の詩『日曜の朝飯』の中にあった朝食をそのまま再現しました。
写真に写っている料理は、全て朝岡さんが材料を揃えて自分で調理したものです。
「季節的にグリーンピースが冷凍物しかなかったり、うずら豆をネットで取り寄せたりして、少し手間がかかりました」
フランスパンにバターや牛乳が並ぶ西洋風の朝食と、豆ご飯に蕪の漬物や味噌汁という和風の朝食が食卓に並びました。
「母親としては、炭水化物過多のメニューで、『おかずはどこ!?』とハムエッグでもつけたくなりますけれど、今でも通じる日常食だなと思いました」
最近ではCMにも使われ、有名な晶子の短歌『柔肌の熱き血潮に触れもみで悲しからずや道を説く君』も、現代の風景の中に再構築してみました。
「晶子が与謝野鉄幹を追って堺を出たのが23才。今の23才の現役の女子大生にリサーチしてみたんですね」
この短歌を今の関西の女子大生ならどんな風な会話で再現するだろうか。
「身近に感じてもらう装置としてスマホのSNS(ソーシャルネットサービス)を使ってみました。今の23才が恋バナをするように、23才の晶子も憧れの素敵な先生に出会って恋をした」

 

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▲「晶子は遠い存在ではなく、身近に感じる存在。過去のものじゃなくて、今のものだった」
■川を越える花
一方、堺出身の渕上さんは、晶子の短歌の中から、『川ひとすじ 菜たね十里の 宵月夜 母が生まれし 国美しむ』を取り上げました。
「23才で堺を出ていった晶子は、公式には二度と堺に帰ってくることはなかった。今でこそ、晶子ファンの多い堺ですが、堺以外の人からは『与謝野晶子は堺出身だったの!?』と驚かれることがよくあります。そんな晶子が『母が生まれし 国美しむ』と詠んだのは、とても寂しく美しい、簡単に言葉に出来ない風景にも思えました」
この歌にある普遍性を、どうすれば今の堺と響かせることが出来るのかと考えました。

 

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▲フリークリエイターの渕上さん。「堺出身ですが、幼少期は神戸の団地にいたので、堺を故郷とは言い切れない感覚もあります」
「丁度晶子と逆のことをすればどうかと思ったんです。堺市には12000人以上の外国人が生活している。彼らにインタビューして、故郷を思い出す花について聞いてみました」
取材したのはどちらも堺区でお店を持つ韓国人の方とペルー人の方。
「取材してみると意外な答えが出てきて驚かされました。韓国だからムクゲなのかと思ったら桜だったり、日本では超高級花の胡蝶蘭がペルーの人にとっては野に咲く日常の花だったり」
韓国のクンサンという町は桜並木が有名で、植民地時代に日本人によって植えられたそうです。同じルーツの花で、ずっと日本にいるのに、クンサン出身のオモニ(お母さん)は日本でわざわざ桜を見に行こうとは思わないとか。
「やっぱり故郷の風景と一緒に見るから綺麗だと思うんでしょうね」
と一緒に働く娘さんは語りました。
アンデス山脈からアマゾンのジャングルまで多様な気候のペルーは、百花繚乱の花の国です。その中でもペルー人にとって胡蝶蘭は特別な花。それは16世紀にスペインによって征服されたインカ帝国の花だから。
「インカの歴史の本を読むと、必ず胡蝶蘭が出てきます。アンデス山脈に咲く胡蝶蘭はインカの誇りなんです」

 

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▲堺市民病院の近くの韓国家庭料理『オモニ』。 ▲南海本線『七道』駅近くのお店に家族が集まりました。
「オモニは日本に来てようやく自分の店がもてたそうです。韓国人のコミュニティだけでなく、日本人や中国人も通いオモニの韓国料理の虜になっています。ペルーのお母さんは日本に20年働いて三人の息子を育て、今日本人のお嫁さんのお腹には九人目の孫がいます。出産前のパーティーで写真を撮ったんですが、色んなルーツの人たちが集まって賑やかでした」
世界70か国以上からの外国人が暮らす堺の、日常風景の一つが浮かび上がってきました。
■過去と現在から未来へ
『創造は過去と現在とを材料としながら新しい未来を発明する能力です』
堺港で撮った空と海の写真に、朝岡さんはこの晶子の言葉を添えました。
この広々とした景色に出会い朝岡さんは驚いたそうです。
「16世紀、かつての堺の『黄金の日々』。海の向こうから新しいもの、珍しいもの、美しいもの、すごいもの、美味しいもの、様々なものが堺港に持たされました。はるか彼方の過去へと思いをはせるとともに、現代の堺をそんな場所にしたいと思います」

 

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▲堺に住む人でも知る人の少ないスポット。「昔住んでいたバルセロナの港を思い出します」
『劫初より 作りいとなむ 殿堂にわれも黄金の 釘ひとつ打つ』
古典を愛した文学少女だった晶子が、謙虚さと自負をこめたこの短歌に、渕上さんは関東出身の刃物職人の高田充晃さんの写真を重ねました。
「この短歌を見た時、堺の伝統の技を受け継ぎながら、繊細な感性の作品を作る高田さんの姿がすぐに浮かびました」
先人に敬意を払いながら、自分自身の個性を大切にして積み重ねて未来へとつなげていく。真っ赤に熱した鋼をたたき続ける高田さんの姿を渕上さんはフィルムに収めたのです。
「堺には高田さんのように、伝統産業を守り受け継ぐ若い世代が何人も出てきています」

 

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▲芦刃物製作所に勤める高田さん。独自ブランド「Mitsuaki*T」が海外で大人気。「堺から世界へ」を体現しています。
2人のアーティストが、晶子のメッセージを汲み取り、咀嚼して自分なりの表現で現代に再構成したアート作品。1月一杯まで、堺トラムにて展示しています。時刻表を確かめてお越しください。
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PAO
(作品を大きな画像で楽しみたい方はこちらへ)
※朝岡さんと渕上さんのアート集団『PAO』が企画するイベントが2月8日(土)、堺市民会館にて開催されます。まちづくりを行っている人、関心がある人のための『ど☆さかい・サミット』。主催は『つーる・ど・堺』です。こちらもご注目ください。

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