前田崇之
profile
堺区出身。
好きな言葉は「いただきます。ごちそうさま」「左手は添えるだけ……」
モットーは「適度に適当」
■3代目は天才和菓子”芸人”!?
フェスやバーのイベントにも気軽に姿を現しては圧巻の技を魅せてくれるのは、天才和菓子芸人の異名を持つ、堺の老舗『宝泉菓子舗』の3代目・前田崇之さん。
天才和菓子”職人”ではなく、天才和菓子”芸人”!? なぜそんな二つ名で呼ばれるのか。それは作品を一目見ればうなずけるでしょう。
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▲飼っているペットの写真を送っていただいてキャラクター和菓子をつくることも。 |
支援学校のイベントや、爆音響くライブハウスでも、キャラクター和菓子の技を披露する前田さんはガシフェスでもタオルハチマキで特製のかき氷を提供。
老舗の和菓子となると、かしこまったイメージもありますが、フットワークの軽さはどこから来るのでしょうか?
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▲堺東のお祭り”ガシフェス”では、紙cafeとコラボレーションでかき氷を。 |
▲大人の舌をうならせた『大人のかき氷』!! 抹茶と小豆に手作り白玉と氷が織りなす、甘味と冷たさの小宇宙が誕生!! |
「みんなすごいですよね」
暑い日差しの中、前田さんの言う”みんな”とは、イベントを陰日向で支える実行委員会、スタッフの人達のことです。
「直接利益になるわけじゃないのに。地元・堺の事が好きだからみんな頑張っている。僕も行ける時はいつでも行きますよ」
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▲風格のただよう宝泉の店舗。他に堺東店、北野田店、泉北店があります。 |
もちろん前田さんも地元は堺。
『宝泉』の本社は、堺東の駅前から三国ヶ丘をまっすぐ一本道を上りきった所に、今から80数年前前田さんの祖父が開業。以来同じ場所で、和菓子を作り続けてきました。
「戦後の一時期材料不足でパンを作ったこともあるそうですが、それ以外は和菓子一筋です」
『宝泉』はもともと紅白まんじゅうなどの引き出物や、料亭で出すお菓子を作っていました。現在店舗は本店を含めて4店舗。
「僕を職人としていいのか? ……はちょっとあるんですが、僕を含めて6人の職人で4店舗分の和菓子を本店で作っています」
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▲利休の井戸にちなんだ『椿井』(字は一休さんで有名な臨済宗大徳寺の最高顧問立花大亀老)、釜の形もかわいい『利休の釜』、小粒の栗が嬉しい『懐旧』の焼き菓子。 |
▲『利休の釜』。蜂蜜の風味もあってか、まったりとして味わい深くお茶が欲しくなります。 |
前田さんが自分の事を職人とするのに、「?」とエクスキューズをつけたのには、謙遜ではなく実は深い理由もあったのです。
「5才ぐらいから、家の手伝いで柏餅の葉をまいたりしていたので、和菓子を作るのはごく自然な事でした」
18才になって愛知県に修業に向かうのですが、父親から言われたのは第三者からすると意外な言葉でした。
「『職人になってはいけない』とよく言われていました」
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▲「職人さんたちは理解のある方ばかり」で、前田さんの型破りもなんだかんだと認めてくれているとか。 |
何故か?
「職人さんは自分の作るものが最高だと思って作ります。それはそれでもちろんいいんですが、お客様の意見も聞かないといけません」
お客様のニーズ、何を望んでいるかをお客様の気持ちにたって職人に伝えることが前田さんの役目で、そのためには完全に職人になってはいけないのです。
「でも、職人の技を持っていないとダメなんです。職人さんに『こうやって欲しい』と伝えても、僕が出来ないと『出来ないくせに何を言っている』となるでしょう」
一番古い職人さんともなると、前田さんが生まれる遙か前からの職歴で60年にもなる方もいます。
職人になってはいけない必然性と、職人の技を持つ必要性、その二律背反の中にいる”天才和菓子芸人”が前田崇之さんなのです。
■目・舌・手で楽しめる和菓子
「お母さんが和菓子を食べないと子供も和菓子を食べないですよね」
前田さんがキャラクター和菓子をはじめたのは、子どもが飽きないようにと『親子和菓子教室』でやったのがきっかけでした。
「食べても美味しいし、触っても楽しいし、目でも季節を感じることが出来るのも和菓子の良さです」
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▲バーなどで注文に応じて即興で作ると、大人にも大受け。 |
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▲宝泉では保存料は使用していません。白玉あんみつはその日の内におめしあがりください。生菓子は2日、焼き菓子は1週間程度で。 |
「洋菓子にもマロンを使ったり季節を感じることが出来るものがありますが、和菓子の良さは季節のものを表現しやすいことです」
『宝泉』には古くからの型もありますが、前田さんが新しく考案した春夏秋冬の果物のデザインの生菓子も数多くあります。
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▲芸術的な生菓子の数々。 |
▲前田さんデザインによる『すいか』。 |
果物を使った生菓子は、大人気です。
「冬なら『苺大福』、今なら『ぶどう餅』が人気ですね」
『ぶどう餅』は、大きなぶどうの粒をまるまる包んだ和菓子。新鮮で甘酸っぱいぶどうの味が、白あんの味と互いを引き立て合う美味。
「和菓子を食べて、もうすぐ秋だな……とか感じてもらえるのが素晴らしいですね」
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▲じめじめした夏もさわやかに。「ぶどう餅」。 |
■和菓子を世界へ 和菓子を元気に
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▲紙cafe店主とツーショット。イベントがお好きなんですか? と尋ねると「さびしがり屋なんです」 |
これまで様々な難しい注文を前田さんは頼まれてきました。
「断るのは簡単だけど、なるべく断らないようにしているんです。無茶振りされるのは期待されているからですよね。足を運んでもらったのに出来ませんは、格好悪いでしょ」
『宝泉』では、昔からそういう注文は多かったのだとか。
「なんでも昔、一抱えもあるような紅白まんじゅうを作ってくれと頼まれたこともあるんだそうです」
頼まれたからには職人のプライドをかけて無茶な注文を実現する。どうやら、”天才和菓子芸人”は『宝泉』の伝統だったようです。
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▲くずきりも。宝泉には色んなお菓子が。 |
前田さんの夢は、和菓子業界を元気にすること。
「今は洋菓子が元気ですよね。ひな祭りのお菓子も洋菓子で作ったり。でも、僕は逆にクリスマスを和菓子でそめてやるぐらいの気持ちでいるんですよ」
夢は海の向こうにも伸びています。
「外国で和菓子を作りたいんです。英語も出来ないんですけど」
和菓子の美味しさは、言葉が通じなくとも国境を越えるはず。
「日本にいる外国人の方に和菓子を教えるイベントは実現しそうなんですよ」
お客様の要望にはどこまでも応える和菓子芸人。ワールドワイドに広がる笑顔が見えてきます。
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▲趣味はバスケ、バレー、フットサル、スノーボード、ダーツ。かなりアクティブですね。
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宝泉菓子舗
大阪府堺市堺区南三国ヶ丘町3丁5-13
TEL 072-238-8128