インタビュー

アート×ホテル 新しい芸術活動・文化交流の形(1)

 

 

天見は山間にあり、駅の改札を潜ると緑の別天地に降り立ったかのようでした。
今日の目的地は、その名を知られた温泉旅館南天苑。徒歩三分の道のりですが、山の空気を沢山浴びたくて、倍ほども時間をかけて向かいました。すると、大きな案内板が目につきました。そこには、南天苑の本館が、もともとは堺の大浜にあった潮湯の施設で、設計は日本近代建築の父辰野金吾によるものだと書かれているではありませんか。辰野金吾といえば、堺市民なら浜寺公園駅駅舎の設計者だと言えば通じるでしょう。しかも、この事実を突き止めたのは、つーる・ど・堺で何度も登場いただいた柴田正巳先生率いる明治建築研究会とあるではありませんか。
しばし奇縁を感じて驚いてしまいましたが、今日の本題はそこにはありません。アートと宿泊施設。この二つの出会いによって道を切り拓こうとする方がいるのです。
その人は、富田洋子さん。これまでもアーティスト支援の様々な活動を行っておりましたが、今回はこの南天苑で日本のアーティストがアーティストとして生きていく活路を見出そうとしているのだとか。一体、どんな活動をされているのでしょうか?

 

■海外の方に、日本のアーティストの作品を知ってもらいたい

 

▲ケイラブジェイを主宰しアートマネジメントをされている富田洋子さん。

 

南天苑のロビーでは、丁度作品の展示作業が終わったところでした。
レトロで重厚な印象のロビー。そこにしっくりとくる展示ができたと、満足げな様子だった3人が今日の話し手です。
まずは、活動の発案者でアートのマネジメントに携わっている富田洋子さん。次に、展示作品の作者である画家で、ふすま絵プロジェクトを主宰されている福井安紀さん。最後はこの南天苑の女将である山﨑友起子さん。
まさに作品が展示されたロビーで話を伺いました。

――まずはどういう経緯があって、どういうことがここで行われているのでしょうか?
富田「アーティストがアート作品を売る販路は、ギャラリー、アートフェア、百貨店などの展覧会で1週間~2週間の短い期間でしかないんですね。アーティストはその短い期間に展示して、個展なりグループ展に参加して活動していくんですけれども、そういうところで活動を継続するのは難しいと思ったんですね。私は、もっと色んな所に販路を作って行きたいという思いで、お店の壁面を借りて展示販売をさせていただくという取り組みを5年前から始めて、今5店舗になっています。アートに興味のある方はギャラリーに足を運びますけれども、そうでない方にとってはギャラリー自体が敷居が高いというイメージがあります。でもお店だと普通にお洋服や本を買いに行く場所にアートがあることによって、普段アートに触れない方にもアートを知ってもらう機会になります。そうした「Shibashi Art」という取り組みをしています」
――シバシアート?
富田「しばし、アートに触れるで「Shibashi Art」なんです。ある時、そういう取り組みについて友人に話をしたんですけど、海外の方はもっとアートに興味があるよねっていう話になったんですよね。だったら、海外の方に見ていただける場所で展示販売をしたい。そういう所はないかと、紙カフェの松永友美さんに、思いを伝えてご相談したところ、松永さんから南天苑さんを紹介していただいた。それがきっかけです」

 

▲「専業画家」でふすま絵プロジェクト主宰の福井安紀さん(左)と、南天苑の女将山﨑友起子さん(右)。

 

――この話を受けて、南天苑の山﨑さんはどう思われたのですか?
山﨑「もともと南天苑は日本文化を日本の方に体験してもらうのはもちろんですけれど、海外の方たちにも日本の文化に触れていただく場所という感覚で、私たちはいるんです。もちろん、この建物自体が、それこそ堺とご縁がある111年の建物だし、うちはとにかく和にこだわって徹底的に和室であり、海外の人がこようが何しようが畳の部屋でご飯を食べていただいて、布団でお休みいただいて、出てくるのは和食ですし、日本の文化っていうのをぜひ堪能していただきたい。楽しんでいただきたい。お伝えしたいという姿勢でやっています。その日本の文化というのは、伝統的なものだけでなく、今実際にご活躍されている方々も含めてっていう話になってくるし、そんな中でお話をいただいて、それはもう私たちもぜひともご一緒させていただきたいっていう感じでした。ただ、お話をいただいた時には、どのような作風で作ってはるかも全然知らなかったんですけれど、お会いして作品を見せていただいたら、もうこれぴったりじゃないの! ってなったんです」
――なるほど。今回は福井さんの作品のみなのでしょうか? それとも複数の作家さんの?
富田「今回は福井さんの作品で、この先もご一緒させていただくことがあるんでしたら、他のアーティストの作品も紹介して、やはり世界に知っていただくということで、させていただけたら嬉しいなと思っています」
――今回、事前に富田さんのSNSを拝見したのですが、関わっておられるアーティストさんが複数いらっしゃいますよね。その中から、今回は福井さんというのは、どういう理由があったのでしょうか?
富田「福井さんの作品は、その土地の土や石を乳鉢ですって膠(にかわ)を混ぜて使うという作品なんですね。そういう作品が南天苑さんにはやはりぴったりだなと思ったんです」
――では福井さんは、その話を受けてどのように思われたのですか?
福井「アートに対して、ギャラリー以外の販売というか、出会いの場を作ろうという取り組みはとても大事なことだと思います。(富田さんとは)前から面識があった中で、色んなご活躍をされているのは知っていたのだけど、こういう外国の方に向けてホテルで展示販売というのは、興味があり、やりがいがあるなと思いました」
――先ほど、その土地の土を使って作品を作るとお聞きしましたが、今回の作品はどうなのでしょうか?
福井「今回は違いますね。ただ、今後はここのやつので、良いのがあれば使いますし、なくてもある種のゆかりのあるものを、半径何メートルというのはでなくて、良いものがあれば使いたいと思います」

■怒りを原動力に

 

 

――3人のそれぞれの思いがあって、今回の展示になったという形ですね。そこで富田さんが取り組みに対して持っているテーマ的なものについて、もう少しお聞かせいただけませんか?
富田「私も絵を描いているんですけれども、一番最初の原動力っていうのは、絵を描き始めてギャラリーを回った時に、素晴らしい作家さんとか作品が沢山あるのに、まだ世の中の方は全然ご存じないってことにある意味衝撃を受けたんですね。悪い言い方じゃない意味で怒りみたいなものもあったんですよ。これだけいい作品、いいアーティストがいるのに、なぜみんなに知られていないんだろうと思って、それで何かアートで出来ることはないかっていうことを試行錯誤していたんです」
――怒りが活動の原点なんですね。
富田「けれども、やはりアーティストとして活動していくには、その作品が売れることがやっぱり大事なんですよ。他の仕事をしながら作品作りをして、また創作してっていうのは本当に大変なことなんで、そこを考えると作品を売れる場所を作りたいという思いで、販路という言い方はあまり好きじゃないんですけれど、出会う場所を作っていければいいなという思いで今も活動しています」
――なるほど、日本だと美術学校を出たからといってアーティストとして活動できるわけじゃないという事がすごく多い。海外と比較すると、日本はとても特殊なんじゃないかと思うのですが、福井さんはアーティストとして、実際にどう感じてらっしゃいますか?
福井「全くもって解答のような事ですが、僕は絵で生活しています。どうして絵で生活できるのかという本(※)を書いています。有名にならずに、なぜ活動が個人として継続できるのか、というのを3年前に書かせてもらったんですね。その本の存在も有名にならずに無名なまま1万部ぐらいまでたどり着いて、知っている人だけ知っているという状態で2冊目の本を今年の五月に出しました。やっぱり専業でやろうとする時に孤独なんですよね。特に日本の場合、色んな軋轢もありますし、メンタル的な意味でやられちゃう部分があるのでね、それを乗り越える心の部分を頑張って書いたという感じです。なので自分としては、富田さんが、作品との出会い場、お客さんとの出会いを作る場を、ギャラリーとか、アートフェアじゃない部分で作ろうとしているってことに対して興味をもったんです」
――なるほど。
福井「自身もギャラリー以外の出会いの場を、「ふすま絵プロジェクト」とか、色んな形のプロジェクトを立ち上げて、イケてる絵描きを仲間に引き連れて郎党を作ろうとしているんですよ。なので、そんなことを半ば実現しているものですから、そういう意味で共感をもったということです」
――アーティスト側からも取り組みをされているんですね。
福井「そうですね。自分は富田さんの活動を、富田さんのスタンスだけでは、多分たどり着かないであろう、一つの自分やったらこうするっていう部分を勝手に発言させていただいてます」
富田「色々ご提案していただいているんです」
福井「どういう風に取り込まれるかは富田さんの活動だから、それはどうでもいいんだけれど、そういう色んな自分が持っている、ある種のお客さんと出会うノウハウ、どういう形でどういう風に出会うのか、お客さんがどんな風にトランクの中に作品を入れようとするのか、どういう所にお客様がこういう小さなサイズ感の日本の作品を飾ろうとするのか、みたいな事を含めてちょっとずつ共有できて、いい結果に結びつけられれば、もう一回この場所に来て、何かまた新しいことがあるやろうか、とか、喜びが何かあるやろうかとか、お客さんが思ってくれれば一番いいなって思っているんです」

(→第二回へ続く)

※「職業は専業画家: 無所属で全国的に活動している画家が、自立を目指す美術作家・アーティストに伝えたい、実践の記録と活動の方法」福井安紀著/誠文堂新光社

 

話し手:
ケイラブジェイ マネジメント 富田洋子
あまみ温泉南天苑 女将 山﨑友起子
ふすま絵プロジェクト 主宰 福井安紀

 

天見温泉 南天苑
大阪府河内長野市天見158

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