円卓に集いしものたち~さかい子ども食堂ネットワーク~(2)
「さかい子ども食堂ネットワーク」が主催した円卓会議には、子ども食堂を運営する人たちと、子ども食堂に関心を持つ人たちが大勢集まり部屋は満員状態でした。
前篇では、子ども食堂に関わる、大阪府立大学と大阪健康福祉短期大学の2つの大学の学生グループからの活動報告を中心にお伝えしました。後篇では、いよいよ円卓会議を円卓会議と称するゆえんがよくわかる語り合いのプログラム「わかちあいタイム」の様子をレポートします。
■ペアで語り合い
司会の「さかい子ども食堂ネットワーク」の山本さんと石垣さんの指示で、出席者はお隣同士でペアになることになりました。
参加者の手元には、すでにボードと紙、そして太字のペンが行き渡っています。この語り合いの時間では、まず司会からお題となる質問が出されます。その質問に対する自分の意見を1分間使って一言で紙に書きます。その後ペアでお互いに紙に書いた一言を見せ合い、意見を交換します。その後、司会が意見をピックアップして選ばれた人が全体で発表、という手順を踏みます。
まずは全員に質問。
「発表を聞いた感想を一言で!」。
一言、というのも結構頭を悩ませる所ですが、参加者の皆さんはある方は迷い無く、ある方はじっくり考えてからキーワードを書き込みます。その後、2分間のトークは、思いがあふれだして、かなり賑やかなトークタイムとなりました。2分たって、「トークをやめてください」と司会からアナウンスがあっても簡単におしゃべりが止まりません。
ようやく全員が司会の指示に気づいて、書いた紙を頭上に掲げました。紙をチェックして、最初に司会が指名したのは、大阪健康福祉短期大学の学生ボランティアの飽田さん。
飽田さんの書いた一言は「やばい」。一体何がやばいのでしょうか?
「(府大の発表を聞いて)やばいです。とにかくやばいと思いました」
子ども食堂に関わる同じ年代の学生として、「しらさぎおうちごはん」を運営する府大グループの活動に感じることが多かったようです。
上の世代はどう聞いたのでしょうか。指名されたのは、西区の「みんなの食堂in鳳」さん。紙に書いた一言は「ありがたい!!」。
「これまで子ども食堂を、おばちゃんたちが鍋を買って、クッションを縫ってやってきました。先ほどの発表を聞いて、『ありがたい!!』と思いました。若い人たちが受け継いでくれるのではないか」
次の質問は子ども食堂実践者への質問。「子ども食堂をされていて『良かった』と感じる瞬間は?」というもの。
これにも色んな言葉が書かれました。「地域の人とつながれる」「地域で子どもが寄ってくる」「子どもたちから来月も来るわ!」。
中でも面白かったのが、堺区の「にしのこ☺まんぷく食堂」さんがあげた「あだ名」でしょうか。「にしのこ☺まんぷく食堂」さんは、つーる・ど・堺でも昨年取材しました。もともと子どもたちと大人たちの垣根の無い関係性が出来ている子ども食堂でしたが、今ではいつの間にか子どもたちから「あだ名」で呼ばれるようになっているのだそうです。ちなみに、円卓会議に出席された方は大柄で、あだ名は「トトロ」だそうです。
■力が集結する
その後も、この要領で「子ども食堂実践者」と「子ども食堂実践者以外」の両者に質問が繰り返されました。そのやりとりで実際のエピソードや個人の思いが明らかになってきました。
「子ども食堂実践者以外」への質問。「なぜ子ども食堂に関心をもたれたのですか?」。
「ニュースで知ったから」「暇」……各人それぞれの理由があります。
そんな中、「近くにあったら良かった」とは、どういうことでしょう。これは、子ども食堂支援企業から来られた壮年男性の一言でした。それにはこんな思いがありました。
「自分の子育ては共働きで子どもには寂しい思いをさせました。あの頃に子ども食堂があれば良かった」
また、子ども食堂に大きな可能性を見いだした人もいました。
「子ども食堂はイノベーション。未来への投資だと思います」
子どもたちを育む子ども食堂はまさに未来への投資でしょう。子どもたちが成長することで、地域の力は向上していくのですから。
そして、子ども食堂には地域を変革する力もある。それは行政に携わる次の方の言葉からもうかがえます。
「行政からアプローチしても地域の方の協力を得るのは簡単とは限らない。でも、子ども食堂の場合は、アプローチをしなくても向こう(地域)から来てくれるのです」
地域に住む方から、積極的に関わってくれる。次の質問でその様子が具体的に見えてきます。
「今までどんな応援・寄附が嬉しかったですか?」という「子ども食堂実践者」への問いはバラエティに富んだ面白いものでした。
堺区の「英彰こども食堂ここなら」さんは、先日はじめての開催を終えたばかりです。その準備に走り回っると地域から様々な協力を得ることが出来たそうです。
「スーパーからは野菜の協力を得ることができました。また、軌道に乗るまではお米はうちが提供しますと言ってくださった方。また寄附をしたいから口座番号を教えてほしいと、銀行から電話をかけて来られた方もいました。実行委員会が幸せな気分になっています」
同じく堺区の「PROJETO CONSTRUIR KODOMOSHOKUDOU」さんは、若いお母さんが実家から送られてきた野菜のお裾分けを寄附してくれたというエピソードを披露。
北区の「マリリンの家」さんが、ピアノの寄附があったと披露すると、会場がどよめきました。
「このピアノで傷ついている子が主役になる音楽会をしたいと考えています」
堺区の「みんな食堂ハート食堂」でも音楽が活躍しています。
「ボランティアでギターのできる人がギター教師をしたり、日本語がペラペラの留学生がいて英語教師をしてくれたりしています」
子ども食堂は、文化学習の場にもなっているようです。
子どもたちに関わりたいという気持ちが、子ども食堂に地域の力を集結させる。子ども食堂は、途切れがちな地域の関係性(リレーション)を回復させ、活性化させる。そんな社会再生の発信地、再生の砦になっている様子が、「わかちあいタイム」の様々な話から見えてきたように思えます。
この日は、大阪府立大学と大阪健康福祉短期大学以外の堺市内の大学関係者も見学に来ていました。会議の最後に、
「うちの大学の学生たちにも活動を紹介したい」
とコメントを残されました。子ども食堂を媒介にして、大学のもっているパワーが社会に注がれ、地域の資産として活かされ、社会が活性化していくのではないでしょうか。
この円卓会議は実際の円卓こそなかったものの、“子どもたちのため”という1つの目的のために年齢も立場も違う人々が一室に集まって上下関係の無い対等な関係で、話し合い知識や経験を分かち合う、真の“円卓”精神が息づいているイベントでした。ここに集った人々は、子どもたち受難の時代に果敢に困難に立ち向かう、使命を帯びた円卓の騎士、現代の円卓の騎士と言えるのでは無いか。そんな風にも思ったのでした。
つーる・ど・堺では、これからも引き続き子ども食堂とその周辺の取材を続けていきたいと思います。
堺市社会福祉協議会
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