「子ども食堂」から広がる波紋(6)
堺市には、2018年1月現在25の子ども食堂運営団体が「さかい子ども食堂ネットワーク」に登録されています。
取材をしながら浮かんだ疑念は、子ども食堂への支援は、本来行政がすべき施策を民間に肩代わりをさせているのではないか、というものでした。それに対して、現代は、かつてのような絶対的貧困ではなく、誰が困っているのかも分かりづらい相対的貧困が広がる中で、間口の広い子ども食堂だからこそ様々な子どもたちを受け入れることが出来る。そんな状況も見えてきました。一方で、疑念が晴れたわけでもありません。
そんな中で、「ともちゃんの子ども食堂」とは違ったタイプの子ども食堂の様子を知りたいと社会福祉協議会に相談したところ、堺区にある「にしのこ☺まんぷく食堂」を紹介されました。
■響く子どもたちの声
「にしのこ☺まんぷく食堂」は大仙西校区の団地の中の「ふれあいサロン」にあるとのことでしたが、いざ現地に向かうと「ふれあいサロン」の場所がわからず、電話で助けを求めました。そこに迎えに来てくれたのが、代表の谷岡裕喜さんでした。谷岡さんの案内でたどり着くと、「ふれあいサロン」の前庭では、沢山の子どもたちが元気に走り回っていました。止めてある自転車の数も何十台とあります。
「今日は雨だから、これでも少ないぐらいなんですよ」
と、谷岡さん。子どもたちをかき分けるようにして「にしのこ☺まんぷく食堂」にたどり着くと、板張りの広い部屋に並べられたテーブルで、子どもたちの食事の真っ最中でした。
▲お仕事終わりにかけつけたスタッフが食事の準備。にゅうめんをよそっています。 |
右手のキッチンスペースでは大人たちが給仕や食器洗いをしており、やってきた子どもたちから順に長テーブルのカウンター越しに食事を受け取って左手のテーブルへ向かいます。
数十人はいる子どもたちの人数に比例して、スタッフの人数も多めです。入れ替わり立ち代わりですが、その場だけでも10名程度はいたようです。スタッフの皆さんはご近所の方なのでしょうか?
「近所の地域の方が多いですが、近くの病院のスタッフや、今日は来ていませんが、関西大学堺キャンパスの大学生も参加しています」
▲お腹いっぱいになるメニューですが、おかわりする子どももいます。 |
やってくる子どもたちは小学生から中学生ぐらいまで幅広く、多くは友達と一緒にやってきます。
様子を見ていると、スタッフと子どもたちの距離の近さに気づきます。子どもたちは、谷岡さんに対しても、「谷岡―、谷岡―」と呼び捨てにしながら、谷岡さんのお腹を叩いて「ぶよぶよや」と笑ったりしています。スタッフの方からも子どもたちに対して、下の名前で呼び捨てにする気さくさで、「ひさしぶりやな」「お前なにしてたんや」と話しかけています。
そんなものだから食堂は昼休みのような賑やかさで、「××に彼女が出来た」「そうなんや」「○○の妹らしいで!」といった会話が聞こえてきます。
お代わりをする子どももいれば、「もう食べてきたから」と食事はせずに友達の輪に加わってくつろいでいる様子の子どももいます。
食事を終えて帰る子には、お菓子のお土産も用意されていて、次から次へと子どもたちの手が伸びてきます。
「ここで食べたらゴミになるから、持って帰って食べるんやでー!」
さてみんな約束を最後まで守れたでしょうか。
子どもたちの波が一段落したら、すすめられてその日の食事をいただくことになりました。一仕事終えたスタッフの方のご相伴にあずかります。
献立は里いもの煮っ転がし、にゅうめん、牛肉と人参の卵炒めの三品。汁気のある煮っ転がしとにゅうめんはこの寒い冬の日にはありがたいメニューでした。体の内側からあったかく、お腹もいっぱいになります。
そして時計の針も19時半を回り、沢山の子どもたちも姿を消して、あれだけ賑やかだった食堂も少し静かになりました。それでも、何人かの子どもたちが残り、残った子同士、あるいはスタッフとおしゃべりをして過ごしています。
そんな中で、谷岡さんから「にしのこ☺まんぷく食堂」設立の経緯についてお話を伺うことが出来ました。
■自分がしてもらったように、子どもにもしてあげたい
▲「にしのこまんぷく食堂」代表の谷岡裕喜さん。 |
「にしのこ☺まんぷく食堂」の前身は「大仙西校区子ども食堂」で、2016年の4月にスタートしていました。
「私もスタッフとして関わらせてもらっていました。それが昨年責任者が代わることになり、私が代表になったのですが、その時にリニューアルをしようということになって、『にしのこ☺まんぷく食堂』にしたのです」
丁度堺市でも「さかい子ども食堂ネットワーク」が出来て、バックアップ体制が整ってきており、いいタイミングでした。
「責任者は代わっても中身は変わっていません。一年前に前代表がおっしゃっていたのは、『自分たちが子どもの時に地域の人にしてもらったことを、自分たちもしよう』ということで、大切なことだと思っています。この辺りは、同和地区で昔から隣保事業がありました。識字活動や講習事業などで、地域の人と地域外の人とが交流しながら、子どもたちも地域の人に声をかけてもらうことが多くありました。隣保事業は今でもあるのですが、今工事中で運動場が無くなったり、7階建てだった解放会館が建て替えで3階建てになって声を出して騒ぐことが出来なくなった。また、この地域は流出入が激しくて、地域や隣近所とのつながりが希薄化しているのです」
この地域の団地や公共の施設は老朽化して、新しい建物に生まれ変わっているのですが、それにつれて失われたものや不便になったこともあったのです。
「子どもたちは、ここに来たら前で大声を出して騒ぐこともできるし、大人と子どもの関わりもできる。私も副代表の2人も、ここで育った人間で、自分たちもそうやって育ってきた。やってきた子どもにどこの子か聞くと、お父さんお母さんが地域の人で、あああそこの子かとわかる」
本来はあった地域とのつながりが、いつのまにか見えなくなっていた。それが子ども食堂を開くことによって、つながりが可視化されたのです。西区の「ともちゃんの子ども食堂」でもそうでしたが、そんな地域再生の場に子ども食堂はなっているようです。
▲お土産のお菓子を求めて四方八方から手が伸びる! |
子ども食堂の役割や方向性には、こうした地域の多様なつながりの場としての「共生型食堂」と、一般的にイメージされる貧困対策としての「ケア付き食堂」の両面があるとされますが、この観点から「にしのこ☺まんぷく食堂」を見た時には、どのような子ども食堂と言えるのでしょうか。
「家庭に事情を抱えている子もいますけれど、そういう子どもだけを呼んでしまうと、あいつは貧乏だからとなります。だから、誰でもきてやと言って、誰でもこれる場所にしています。ただ、小学校には、シングルの家庭や、虐待などで気になる子がいたら、来るように言って欲しいとお願いしています。こちらに子どもたちが来た時も、さっきのようにフレンドリーに接している中で、何気ない言葉からサインを発する子どももいるのです。私たちも、それを必ず逃さないようにアンテナを張っています」
子ども食堂は子どもたちと地域、さらには小学校ともつながってセイフティネットとして機能しています。谷岡さんは、さらにここに重要な存在との結びつきを築こうと考えているそうです。
「子どもたちは、ずっと来てくれるようになって「にしのこ☺まんぷく食堂」も根付いてきています。でも、保護者はどう思っているのかを知りたいのです。ある保護者から、ここのことをもっと早く知りたかったという意見を前にもらいました。私たちも保護者とも密に関わっていきたい。今、19時半になったら、子どもたちを帰らせています。送ってほしいという要望があれば、ついていって送ってもいます。でも、帰っていった子どもたちが19時半以降どうなっているのかは分からない所があるのです」
前身も含め1年以上活動をつづけ、まるで家族のように子どもたちと親しく接する谷岡さんたちでも、まだうかがい知れない子どもたちの世界がある。子どもたちが去っていった夜の向こうに何があるのか、子どもたちは暖かい場所にたどり着けているのか。夜の闇を照らす燈台のような、この「にしのこ☺まんぷく食堂」がどんな存在なのか、次回更に掘り下げることにします。
にしのこ☺まんぷく食堂
協和町1-1-23(大仙西校区) ふれあいサロン
毎月第3水曜日17:30~
072-245-2531