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「子ども食堂」から広がる波紋(5)

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堺市に25団体(2017年12月末の時点)ある子ども食堂の中でも、草分け的存在である「ともちゃんの子ども食堂」の芝辻友一さんにお話をお聞きする3回シリーズも後篇となりました。(前篇中篇
他の自治体からも注目されている堺市の「さかい子ども食堂ネットワーク」の設立に際して、様々な協力をした芝辻さんでしたが、ネットワークのお陰で目から鱗が落ちるように気づいていなかった子ども食堂の価値に気づくこともあれば、金銭的な支援を受けることも出来ました。そして、お隣さんともいえるほど近い距離に、芝辻さんの友人の石丸英樹さんによって「さくらの庭子ども食堂」がオープンしました。
この日は「さくらの庭子ども食堂」で学習支援が行われており、勉強を終えた子どもたちが次々と「ともちゃんの子ども食堂」に姿を現し始めました。

■子どもたちの存在意義を高める子ども食堂
芝辻さんが、やってきた子どもたちにまず向かわせたのは、手洗いでした。
「私は食品衛生の資格もとっているんです。子どもたちにはまず手を洗うことを徹底しています。口に入れる食べ物のことですから」
先の取材で社会福祉協議会の山本香織さんが言ったように、堺市の子ども食堂では、衛生管理の意識が徹底しています。それはO157による食中毒事件を経験しているからでもありました。
「(芝辻さんに子ども食堂を開設させるきっかけになった)キーマンの子どもには、キミが他の子らに手を洗うように言うんだぞ、いただきますの掛け声をするんだぞと言っています」
それは、自分を見失ってしまいがちな子どもたちに、役目を与えることで自分の存在意義を感じてもらうためでした。「キーマン」という言葉は、その子が子ども食堂開設のきっかけになったからではなく、今まさにこの子ども食堂を支えているという意味で芝辻さんは「キーマン」と言っているように思えました。
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▲銀紙を巻いたり、盛り付けをしたり、子どもたちもお手伝い。

しばらく見ていると、手洗いを済ませた子どもたちの中から、キッチンのスタッフに声をかける子もいました。
「何か手伝うことはある?」
ボランティアの方が応えます。
「銀紙を巻いてもらおうかな」
子どもたちはフライドチキンに銀紙を巻いたり、盛り付けを手伝ったりしています。こうした様子を見ると、子ども食堂が、食事に困っている子どもに一方的に食事を施すといったものではないことに気づきます。ここは双方向の交流の場であり、子どもたちもまた共にひとつの場を作り上げていく積極的な存在なのです。

■社会とのつながりが目に見える場
子どもたちも手伝ってテーブルの上にはフライドチキンとオムライスやポテトフライの盛り付けられたお皿が並びました。12月も下旬だから、今日はクリスマスパーティーでもあるのです。
食事に先立ち、芝辻さんは席についた子どもたちに向かって短い話をしました。
「この料理の食材やクリスマスケーキは、今日は来てないけれど、おじさんの友達が用意してくれたものです」
それは、子どもたちは決して孤独ではない、支援しようとしている人々がいる。社会とのつながりがあるのだと、子どもたちに感じてもらいたいという思いが籠った言葉でした。
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▲「友ちゃんの子ども食堂」代表の芝辻友一さんが、子どもたちに語りかける。

子どもたちの賑やかな食事がはじまります。
芝辻さんによれば、今はクリスマスケーキを見たこともない子どもだっているのだそうです。
「少し前に道であった子どもに、今度の子ども食堂ではクリスマスケーキがでるよ、と言ったら、その時の嬉しそうな顔。あんな嬉しそうな顔は見たことがなかったですね」
目に見えにくい子どもたちの困難さとはこういう事なのでしょう。
食事を終えて、ケーキを切り分ける時もにぎやかです。ちゃんと平等に切ることが出来るのか子どもたちの注目を浴びながら、芝辻さんの息子の亮輔さんが切り分けにチャレンジしています。
まだ年の若い亮輔さんは、子どもたちにとってはとりわけ近寄り易い存在なのでしょう。ケーキを食べ終えた後も、亮輔さんも一緒に輪に加わっておしゃべりを楽しんだりしています。
きっとこの食事とおしゃべりの2時間は、子どもたちにとって五感で人と人とのつながりをリアルに感じた記憶になることでしょう。
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▲友一さんの息子の亮輔さん。ケーキを開けるところに、子どもたちの注目が集まる。

■皆が何かをやりたいと思っている
「あなたも食事をしていってください。でも有料ですからね(笑)。この300円というのも馬鹿にならないものです」
芝辻さんにそう言われて、子どもたちが帰ったあとに食事を一緒にすることになりました。なんとなしに遠慮してしまいそうだったのですが、代金を払って食事をすることも子ども食堂の支援になるのだと聞くと、心置きなく食事を楽しむことが出来ます。むしろ、300円では得した気分になるディナーです。
「皆さんなにかやることがないか、そういう気持ちでいるのです」
芝辻さんが言うのは、この場にるスタッフの方たちだけのことではありませんでした。この場にこれなくても、食材やケーキを提供する人など色んな支援の仕方があるのです。実際、インタビュー中も、直に手に入れた野菜を差し入れに来た方もいました。
「これはうまくいかなかったのですが、大型スーパーでまだ賞味期限に達していないのに廃棄されてしまうような弁当や食材を提供してもらえないかと手を尽くしてくれた方もいました」
それだけではありません。この日は、大学で栄養学を専攻している学生さんや、子どもたちの学習指導を引き受けてくれる学校の先生。そんな人たちも、姿を見せていました。今後、ボランティアとして「ともちゃんの子ども食堂」を充実させてくれそうです。
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▲ご近所から野菜の差し入れも。

「私は何も出来ないのだけれど、本当にすごい人たちが一杯集まってくれるのです」
と、芝辻さんは満足げに言いますが、芝辻さんがそんな風に協力したいという人たちの力を認めるからこそ、多くの人が「ともちゃんの子ども食堂」に集まってくるのでしょう。
「これからもいろいろ関わる仕組みを広げてきたいとは思っていますが、ここはあくまで子ども食堂にこだわって、ボリュームも大きくしようとは思っていません。それよりも、共鳴してくれた人がどこかで子ども食堂をはじめてくれる方がいいと思っています」
多くの「子ども食堂」が生まれて、多様な支援の場やあり方が出来ていく方が、子どもたちにとっても多重のセイフティ―ネットとして機能するでしょう。
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▲陽が落ちたまちに、子ども食堂の灯りがともる。

そしてそれだけではありません。「子ども食堂」は決して「子どものためだけの食堂」ではないのです。「ともちゃんの子ども食堂」を訪れて気づいたことは、子ども食堂は、子どもだけではなく、関わる大人にとっても、人と人、社会と人とのつながりを確認する場であり、存在意義を見失いがちな自分を再生する場でもあるということです。子どものために始まった「子ども食堂」ではありますが、影響は子どもにとどまらず社会に波紋を広げていく起爆剤になるのではないかと思わされます。
「ともちゃんの子ども食堂」を辞すると、降りた夜の帳の中に、室内からの灯りに照らされて、「ともちゃんの子ども食堂」の看板が浮かび上がっていました。
ともちゃんの子ども食堂
堺市西区鳳中町5丁168番地5 有限会社トモ内(鳳小学校区)
毎月第4金曜日18:00~20:30
072-268-2225(有)トモ内 090-4274-6681 
子ども食堂代表芝辻友一
子ども100円 大人300円
さくらの庭子ども食堂
堺市西区鳳中町2-36-2 山埜宅(鳳小学校区)
毎月第2金曜日18:00~20:30
080-4247-6616(事前に申し込みをお願いします)
子ども100円 大人300円

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