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秘密のばら園(2)

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和風庭園というスタイルで、野生種をメインテーマとして扱うという他にはない特徴をもった「浜寺公園ばら庭園」。特徴はそれだけではありません。「浜寺公園ばら庭園」は学術的にも重要な役割を担っていたのです。そのキーワードは、「絶滅危惧種の保全」です。(前篇
■バラの足跡を未来に遺す
「そもそも植物園となると、関西では数少ないのです。交野市には大阪市立大学理学部附属植物園があり、一般の方にも公開されていますが、研究・教育のための植物園という性格です。長居公園にある自然史博物館もありますが、こちらはさく葉標本のコレクションになります」
植物管理者辻正信さんの案内で自然回遊型のばら庭園を歩きながら、貴重な活動について説明していただきました。
「平成20年(2008年)、環境省の絶滅危惧種保存事業に合わせてバラ属の系統保存を『浜寺公園ばら庭園』ではじめました」
他の多くの研究機関とは違って種子保存ではなく、「浜寺公園ばら庭園」では各地に赴き採集し、同じ種であっても地域ごとに系統保存をしています。たとえばノイバラでは、堺の仁徳天皇陵の排水溝に自生していたノイバラだけでなく、生駒山、淡輪、京都など各地域ごとのノイバラが育てられています。
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▲杭の向こうに並ぶ灌木がノイバラ。一本ごとが別々の地域で採集されたもので、違う個性をもっています。「同じノイバラでも地域ごとに樹形が違うでしょう」

 

このような貴重な植物は、辻さん自身が全国を飛び回って採集しています。採集先には入る事すら困難な場所も少なくありません。
「国立公園の第二種特別保護地域や天然記念物のある一番厳しい所、たとえば尾瀬ヶ原や富士山の五合目以降などは、本来葉っぱ一枚持ち帰ることが出来ません。そこでの採集をするには環境庁や文化庁長官、各都道府県の長や、教育委員会の許可も取らないといけませんから、一年のうちに一つか二つ採集できる程度です」
「バラ属の絶滅危惧種の系統保全を行う植物園」であること。これはワンアンドオンリーな「浜寺公園ばら庭園」の三つ目の特徴です。

 

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▲「海浜の景」に咲くハマナス。
しかし、「浜寺公園ばら庭園」の保全が間に合わなかったケースもあります。
「海岸沿いに育つハマナスは、比較的寒さに弱いバラに耐寒性をもたらしました。ここには新潟のハマナスがありますが、採集した場所は今はコンクリート張りになって自生地がなくなってしまいました」
日本中の海岸でコンクリート張りが進んだのは、平成5年(1993年)に発生した北海道南西沖地震が契機でした。この地震では震源地に近い奥尻島を津波が襲い大きな被害を出しています。津波対策として、護岸工事が進んだのです。
「新潟のハマナスは保全することが出来たのですが、東日本大震災では津波で三陸のハマナスの大半の自生地が失われました。三陸のハマナスは採集しておらず、もう復旧することは出来ないんです」
私達の社会に大きな被害をもたらした大震災は、自然界にも少なからぬ影響を与えていたのです。

 

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▲「山の景」では何年もかけてハイマツを育てています。この岩もただ景観のためだけにあるのではありませんでした。
「浜寺公園ばら庭園」の浜辺をイメージしたゾーン「海浜の景」には、海岸の砂が敷き詰められ、新潟のハマナスをはじめ、地元の諏訪ノ森で採集されたハマヒルガオなども育てられています。一方、高山をイメージしたゾーン「山の景」では高山で育つ品種もあるのです。いくら自然回遊型の庭園とはいえ、これほど違う環境でどうやって育てているのでしょうか?
「ほとんど海抜0メートルの地帯の屋外で高山性のタカネバラを育てているのは浜寺だけだと思いますよ」
魔法を使っているわけではなく、これには秘密があります。
「山の景」は高山らしくごつごつした岩のある風景が再現されています。実はこの石は地面の中深く1m近く埋め込まれています。
「石は冷たいので温度が下がります。温度を下げる石を埋め込んだ丘の(陽の当たらない)北側に植物を植えています。標高2000m以上で育つシモツケや、ハイマツも種から7~8年かけてあそこまで大きくしました」
埋めた石を冷房装置にして、辻さんは高山の環境を浜寺公園に作りだしたのです。
海浜の品種から高山の品種まで野外で鑑賞できる。これは「浜寺公園ばら庭園」の四つ目の特徴といえるでしょう。
■奇跡のバラ園
最後にもう一つ、「浜寺公園ばら庭園」にはワンアンドオンリーがあります。
「バラを育てている方には絶対に『嘘でしょ』と驚かれるのですが、農薬を一切使っていないんです」
そう「浜寺公園ばら庭園」は、日本では珍しい農薬を使わないバラ園でもあるのです。たやすくはない無農薬を目指したのは理由がありました。
「幼稚園や保育園が遠足で利用されることが非常に多いんです。でも、農薬を散布してしまったら、落ちた花びらも拾ってはダメと言わなければいけない。バリアフリーが進んで車いすなどで来園される方も増えてきましたが、農薬がどんな影響を与えるのか心配です。一方で、多くの府民の皆様が楽しみにしているバラ園ですから、今年はバラが咲きませんでした、というわけにもいかない。非常に難しい決断だったのですが、無農薬のバラ園を目指すことにしたのです」
どのようにして農薬ゼロのバラ園を実現したのか。それもまた地道な努力の成果でした。
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▲2014年に誕生した「スパークリング&シャイン」。2005年に生まれた「ジュリアチャイルド」は病害虫には強いが暑さには弱い品種でした。それを改良して2012年に生まれた「スパークリング&シャイン」は病害虫だけでなく暑さにも強い特徴を持ちます。

 

「品種改良で登場した病害虫に強い品種に植え替えていってます。また園内に吊るしているポッドにはフェロモンを流してオスのコガネムシを引き付けて捕まえる仕掛けです。あの黄色い灯りは誘蛾灯になっているんです」
一見すれば見逃してしまうところに様々な工夫が仕掛けてあったのです。ここまでして成し遂げた無農薬のバラ園によって、誰もが安全にバラを楽しむことが出来る。それは「浜寺公園ばら庭園」の、最大の特徴かもしれません。
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▲害虫の被害を軽減するため庭園内に立てられた誘蛾灯。

 

浜寺公園管理事務所の汐見恵理佳さんは、こうした辻さんの仕事ぶりに全幅の信頼をおいています。
「辻さんはプロセスをきちんと踏んでくれて、丁寧な仕事をされています。浜寺公園ばら庭園を見に浜寺公園に来られる方は多く、今後も浜寺公園のシンボルとして沢山の方に来ていただきたいです」
美しいバラが咲き誇る「浜寺公園ばら庭園」。この美しいばら庭園には、他にはない沢山の秘密がありました。来園の際には、ぜひ秘密の数々にも注目してバラを楽しんでください。
浜寺公園ばら庭園
お問い合わせ:浜寺公園管理事務所
住所:堺市西区浜寺公園町
TEL:072-261-0936

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