インタビュー

アート×ホテル 新しい芸術活動・文化交流の形(3)

 

インバウンドの海外のお客様をターゲットとして、宿泊施設に日本のアート作品を展示販売しようとする試み。ここまで二回の記事(第一回第二回)で、発案者の富田洋子さん、そして参加アーティストの福井安紀さん、それぞれを中心にお話を伺ってきましたが、最終回の今回は受け入れ先である温泉旅館南天苑の女将・山﨑友起子さんに語っていただきます。南天苑さんには、なんと天見で文化村を立ち上げようという構想があったのです。

 

■古民家を再生しカフェに

山﨑「主人も若い頃ずっと油絵を描いていたんですよ」
――ご主人がそもそもアーティストだったんですね。アートに理解があるのもうなずけます。
山﨑「この地域って、本当に高齢化で人口減少してて、空き家がどんどん増えてっていうような課題がいっぱいあるんですよ。そんな中で、今、うちも一軒古民家を譲っていただいて、なんとかそこを使いたかったんですが、なかなか許可が下りなくて、もう何年もかかったんですけれど、ようやく去年の4月からカフェだかオープンできたんです。その建物は築400年と言われているんですけど、その隣の建物の持ち主さんから、うちもどうにかならないか、なんとか引き取って言われて、そこは大体250年前の江戸時代の建物で、まだ手はつけられてないんですけれど、そういう所がもう点在しているんです。それを放置して朽ちていくのは見てられないんです。立派なお屋敷に住んでおられても、若い人たちが出ていて帰ってこなくて、もう自分たちだけではどうにもっていう感じのお家がいっぱいあるんです」
山﨑「だから、このあたりの古民家の良さ、土地の良さっていうのを私たちが発信していくことによって、じゃあ帰って私たちもなんとかやってみようかなっていう方たちが出てきたり、今は本当に若い方でもこういう所に魅力を感じてくださる方っていっぱいいらっしゃるから、じゃあ自分たちもこの土地で何かをやってみようっていう方が出てくればいいなっていう思いで始めてやった1年なんです」
――それこそ、本当にアーティストのレジデンシーなんかいいんじゃないですか?
山﨑「はい、そうなんです。そういうのがやっぱりいいですね」
――海外のアーティストの方でも、たとえばフィリピンの先住民系の方だと、日本の神社と自分たちの先祖の宗教観に共通するものがあると感じられるそうで、そういう方に来ていただいて作品を作ってもらったりしても面白いんじゃないでしょうか。
山﨑「フィリピンの先住民族の方もそうだし、ネイティブアメリカンの方もそうだし、日本も元々、多神教というか八百万の神様という思いで暮らしている部分って絶対一緒なんですよね。日本人の中にはやっぱりまだそれって残っているやろうなっていう思いがあるんですよね。ここの里山地域には絶対ね」
――駅から降りて、山の景観が美しくて自然が息づいているエリアですよね。
山﨑「島の谷という場所が、古民家やっている所からまだもっと奥へ行った所にあるんですけれど、そこの風景って本当に、あの「萌の朱雀」に出てくる吉野のようなあんな風景ですよ」
福井「それなのになんばまで電車で40分(笑)」
富田「便利ですよね(笑)」

 

▲深い緑の山間にある南天苑。まさに別天地。

 

――アートの力は国境を越える共感の力だと思うので、世界の若いアーティストがこの美しい場所にやってきて天見が文化の拠点になれば本当に素晴らしいですね。
山﨑「そうですよね。そんな思いで、今回の古民家なんかも受けさせてもらってやり始めているとこですけど、なかなかこれからですけど、やっと第一歩ですけど」
――海外の方が来られて、皆さんの反応はどんな感じですか?
山﨑「昔、お客様が日本人の方ばっかりの頃に、日本人の方が来られて時々言われるのが、何もないとこやね、ここって。お店も一軒もないのね。観光するとこもないみたいな感じだったんですよ。お庭にもゆっくり散策に出はれへんっていうような方が結構多かったんです。それがコロナで状況はちょっと変わって、皆さん自然の中で過ごすっていうのがすごくいいなって思われるようになりました。お庭もどんどん歩いてくれるように、日本人の方もなったんですが、海外の方は初めからそうです。里山のサイクリングもしたいってことで、なんで(南天苑の入り口に)自転車を置いてるかというと、外国のお客様から「レンタサイクルはないの?」ってだいぶ言われたんですよ。調べてみたら、河内長野だとバスでなん十分もいった道の駅にしかない。誰が長野からバス乗ってってそこで自転車借りるんて感じでしょ。駅前の観光案内所にも1~2台置いてあるけど、ほとんどサラリーマンの方が乗って行ったりして借りれる状態じゃない。今やっと近くの酒蔵の西條さんが自転車を出しはったんですけど、その頃はどこもなかったんです。ほんでJTBさんも声をかけてくれはったから、じゃあうちででも自転車置きますって言ってレンタサイクルを始めたんです」

 

▲南天苑の女将・山﨑友起子さん。

山﨑「一度、ヨーロッパの方でしたけど、自転車で岩湧山に行くっていいはってね。電動ですけど、ちょっと無理ちゃうんこの暑さでって言ってたら、やっぱり途中で断念しはって、戻ってきてうちの古民家で休憩して、その後島の谷へ行って、集落の所まで行って帰ってきたーって言って、そいう形で自然を楽しんでくれはります。サイクリングもそうだし、ちょっと散策してこの辺をうろうろ歩いてくれはったりとか、もうちょっと足を延ばして岩湧山とか、滝畑ダムの方まで下りるという方もたまにいたはるんですよ。そういう楽しみ方をしてくれはるのは、海外の方で、海外の方にとって、こういう里山風景っていうのは、なかなか自分のお国にはない風景やからっておっしゃいますね」
――海外の方が、里山の風景の価値をすぐに認められる。日本のアートも同じように見てもらえる気がしますね。

 

■ドラマティックな辰野金吾建築再発見

▲堺に残る辰野金吾建築といえば、こちらの浜寺公園駅の駅舎です。

 

――この南天苑さんの魅力の一つはまさに天見の里山の景観ですが、もう一つはやはり辰野金吾建築の建物自体ですよね。恥ずかしながら、面の案内板を見るまで堺と縁がある辰野金吾建築だったとは知りませんでした。存在を明らかにしたのが、柴田先生の明治建築研究会だったんですね。
山﨑「そうなんですよ。明治建築研究会の柴田先生が世に知らせてくださったんですよ。うちの父も、ここが元々堺にあった潮湯の移築というのは知ってて、南海電鉄さんから戦後に引き受けてくれと言われて頼まれたって事だけは知ってたんですけれど、その作品が辰野さんやっていうことは、明治建築研究会の先生がて来てくらはるまでは全然知らずにいたんですよ」
――柴田先生の大発見だったんですね。
山﨑「南海さんにも柴田先生は行ってはってね。この建物を移築したのは、あんたんところ、南海さんがやったんやから、ちゃんと書類あるでしょって言ったらね、そんな古い書類ありませんって返答やったんですって」
――古い話なのは確かですしね。
山﨑「私らの時も、柴田先生が最初はアポなしでいきなり来られたので驚きました(笑)。でも調査の時には共同通信さんとかを連れてこられて、もうテレビとか新聞、色んなマスコミに取り上げられることになったんです。テレビの夕方のニュースで紹介されて、辰野金吾さんの幻の作品かもしれないものが、河内長野の天見というところで旅館として営業されているというのをやらはって、その時に柴田先生が当の移築した南海電鉄に資料が無くてと一言いわはったんです。そしたらその日、南海さんで大騒ぎになって」
一同「(笑)」
山﨑「書類庫の中を大探ししてくれはったらね、出てきたんですよ。建物移築引き渡し状。堺大浜潮湯家族湯を天見のこの地に移築竣成しましたっていう昭和10年の書類がちゃんと出てきたんですよ。それで、これは間違いないということになった、その翌年に有形登録文化財に指定していただいたんですよ。だから本当にあの時はドラマチックで、柴田先生に足向けて寝られへん」
――古民家もそうですが、海外の方だと建築に対する愛というのがありますよね。
富田「そうですね」
山﨑「古いものを大切に使っているというのは、特にヨーロッパの方だとすごく感激して帰っていかはります」
――アメリカでも結構なお金持ちの方が、古いお家を大切に使われてたりしますね。
山﨑「うちもアメリカ人の留学生の子を預かっていた時に言ってたんですけど、なんで日本は建築年数が経ったら価値が下がるねん、アメリカは逆やでって言ってました。アメリカはどんどん古いものを大事にして住んでたら価値は上がっている」

 

▲こちらは柴田先生に提供いただいた、昭和時代の浜寺公園駅。明治の建築が町に息づいていた時代ですね。

 

――本当に、日本だと古くなるとすぐに建物を壊してしまうから、南天苑さんが古民家を救ったのはすごいですね。
山﨑「(カフェの他に)もう一軒の方は、もうちょっとボロボロになりかけてて、まだ手がつけられてないんですけど、あそこは茅葺だったのをトタン屋根にしているから、それをなんとか茅葺に戻したいんですけど」
――それはお金がかかりますよね。
山﨑「そうなんです。お金と材料がなかなかないのと、人の問題で、技術がなかなか継承されていない。でも本当は岩湧山ってね、萱場なんですよ」
――じゃあ、本当に地域の文化という側面があるんですね。
山﨑「なんですよ。ところがあれね。全国の文化財の補修にね、地元にいかんと全国に行ってると思うんです。ちょっとぐらい回して欲しいんですよね」
――なるほど。だから、文化村の三つ目のポイントとして、地域の歴史との関係性があると思うんです。この辺りは高野街道が走っているし、先ほど名前があがった西條さんが復活させた天野酒や、お大師様が修行された槇尾山が近くにあったり、また河内長野の長野といえば古代に牧場として馬を飼育した場所だった。長い歴史があり、重層的な文化資産があるってことだと思うんです」
山﨑「この天見のちょっと向こうにある千早口との間に、松明屋ってあるんですけれど、そこはお大師さんが寄るに松明を持って高野山と京都を行き来している時に丁度そこでよるが明けたから、持ってきた松明をそこに刺して休憩していたら地元の人にもてなしを受けたっていうんで、お大師様がお礼に粽(ちまき)の作り方を教えてくれはって、その松明から松の木が生えたっていう伝説が残っているんですよ。それ自体はものとしては残ってないけれど、建物とちまきの伝説は残ってます。多分松の木も何代目かになっちゃうと思うんですけどね」
――ここが文化村になったら、そんな話にライターやったら面白いって食いつくし、アーティストならじゃあそれを題材にしようという人が絶対に出てくると思うんですよね。

 

■天見に文化村を

 

▲ふすま絵プロジェクト主宰で、画家の福井安紀さん。

福井「その日本文化についてなんですが、前に京都に来たローマ人が言ったのは、やっぱり日本は伝統文化がすごい。こういう風になってるんだからって。私はローマ人に言ったんですよ。ローマは紀元前の建物に住んでるじゃないか、と。そしたら彼が明確な言葉で言ったのが、自分たちが住んでいるのは遺跡であって、文化じゃないんだよ。だから、その昔のローマ人がどんな宗教観でこの階段を使ったのかとか、この地下室をなんのために作ったのかとか、そういうことがさっぱりわからないし、キリスト教以前にどんなお祭りをしていたのかもわからない。そんな中に住んでいても、それは遺跡でしかなくて、文化じゃない。だから日本が1000年前のことも、今の生活習慣の中に前提として物語れるでしょ。それはやっぱりすごいことなんだよって話をされていました。だから、この天見っていう場所とか、先ほど話されていた色んな文化は、基本的に全部今の生活とリンクしようと思ったらできるじゃないですか。もうちょっとしたら出来なくなるかもしれませんけど。それが出来ることがいかにすごいか。そんな国が意外に他にはない。フランスだって革命があったりして、尺度が変わってますから、お祭りも引き継げてない。とすると、珍しいのが日本なんだろうな」
山﨑「ねぇ」
福井「だから、そんなニュアンスの一端をね、この天見に来た人が、勉強会なんかしても重たすぎてダメだけど、普通にサイクリングとかの範疇の中で、なんとなくくみ取ってくると楽しんじゃないかと思ったりしますね」
――建築とアートも大切になってくるんじゃないでしょうか。私は勉強会もやりようかなと思います。それこそ柴田先生に話していただくとか。でもアートでやるとハートに直接来ると思うので、天見の作品がこれから生まれてきたりしたら、すごく価値のあることになるかなと思います。
福井「おっしゃる通り、天見という場所が特別な場所で(アートを)入れているとか、そのニュアンスをうまく伝えることができれば、文化村構想は成功するんやろうなと思います」

 

▲今回のプロジェクトの発案者である富田洋子さん。

――それにしても、インタビューさせていただく前は、ホテルでアート展示という事だけ伺っていたので、福井さんのお考えであったり、南天苑さんの文化村構想など非常に膨らみのある話に驚かされました。
富田「南天苑さんとご縁ができて、私自身がびっくりしているんです。本当にインバウンドのお客様にアートを知っていただきたいという思いがあって、松永さん(元紙カフェ店主)に紹介していただけませんかって言った時に、えっ? て思ったんです。南天苑さんを紹介していただけるんですか! って」
――やっぱり松永さんも勘が働く人ですよね。話を聞いた時に、このペアリングや! って思ったんでしょうね。
富田「なんか私が連絡したその日に、(山﨑さんに)お会いしていたみたいなんです。だから本当にご縁があるなと思います」
――なるほど。なんともそのご縁から、こんないワクワクする話になったってことですね。
富田「はい。ワクワクします」
――今後どうなっていくのか、本当に楽しみです。

 

文化村といえば、堺にも大正時代に南海高野沿線の北野田に文化村があった事が思い起こされます。南天苑さんには、すでに富田さんと福井さんという、力あるアーティストが集っています。さて、これから先、天見でどんなアート、文化を見ることができるようになるのか、大いに期待したいところです。

 

話し手:
ケイラブジェイ マネジメント 富田洋子
あまみ温泉南天苑 女将 山﨑友起子
ふすま絵プロジェクト 主宰 福井安紀

 

天見温泉 南天苑
大阪府河内長野市天見158

 

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