ミュージアム

選ばれし日本画の美術館~小林美術館(2)

伊藤小坡「観桜美人」(小林美術館)

 

美しい松林で、かつては日本有数の景勝地として知られた浜寺公園のほど近く、堺市のお隣の高石市に小林美術館はあります。日本画の美術館で、しかも39名いる日本画の文化勲章受章者全員の作品を揃えているという、他にはないコンセプトを持った美術館です。
来館したのは4月4日。この日は、3階で開催されている春季特別展「愛おしき日本画の人びと」の学芸員解説があるので、その様子を取材しようという魂胆です。
前篇では、2階の季節展「四季の万華鏡―花と生命を描くー」を鑑賞してから、いよいよ学芸員解説へ。学芸員の福岡この実さんが2枚の名画を解説したところまでお届けしました。では、中篇です。

 

■富岡鉄斎登場! 似たテーマで作家を比較してみれば?

 

富岡鉄斎「普陀落山観世音菩薩像」(小林美術館)

 

では、福岡さんの案内で展示されている作品を見ていきましょう。

堺とゆかりの作家が登場しました。つーる・ど・堺でも幾度も記事にした富岡鉄斎です。
明治の文人画家、最後の文人とも謳われる富岡鉄斎は、高石市とは隣接する堺市西区にある大鳥大社の宮司を務め、堺に関係する画を多く残しています。展示されている作品は「普陀落観世音菩薩像」。
福岡「人ではなくて仏(観音)になりますが、これも(テーマである)人びとのうちと捉えました。観音は様々な姿を取るとされています。この観音様は、絵に柳を刺した水瓶が置いてあることから楊柳観音だとわかります。楊柳観音とは、人の病を治す観音です。富岡鉄斎は、理想的な人物像として楊柳観音を描いたのです」

もう1人、観音菩薩を描いた作品が展示されています。大正から昭和にかけて活躍した日本画家石川晴彦です。
福岡「石川晴彦は妻の死後に仏画を描き高い評価を得ました。仏教の理想像を描いた鉄斎に対して、救済のための仏画を描いた石川という対照的な2人の画をご覧ください」
長い歴史のある東洋の思想に裏付けされた文人画として描いた富岡鉄斎と、妻の死という極めて個人的な問題から描いた石川晴彦。同じく観音を描いているといっても、描こうとしている思いはまったく別物です。この2枚を比較したり優劣をつけることは難しいでしょう。

 

菊池契月「太平楽」(小林美術館)

 

さらに鑑賞を進めましょう。武者絵で知られる文化勲章受章者の前田青邨の作品「武将図」は、やはり武将を描いた武者絵ですが、描かれているのは勇ましい戦闘中の様子ではありません。
福岡「前田青邨らしい繊細な描写がされていますが、甲冑を脱ぎ、楽器を手にしてくつろいだ武者の様子が描かれています。前田青邨は、武将の色んな面を描きたかったのでしょう」
前田青邨の隣には、菊池契月の描く若武者が祈り舞を舞う作品「太平楽」。福田恵一の作品で、豊臣秀吉を描いた「豊太閤」とモチーフの近い作品が並びます。

 

福田恵一「豊太閤 」 (小林美術館)

 

武将の次は庶民。文化勲章受章者の堅山南風は、ちょこんと座る愛らしい農婦の姿を描いた「農婦図」。堅山南風の作品は2階で開催中の季節展「四季の万華鏡―花と生命を描くー」でも展示されていました。そちらは精密で写実的な鯉の絵で、こちらの肩の力の抜けた農婦の絵とは印象ががらりと違います。

■小テーマから日本画の多彩さを知る

 

上村松園「一枝の春」(小林美術館)

 

文化勲章受章者で人気の女流画家・上村松園の作品「一枝の春」はたっぷりの余白が印象的な美人画。福岡さんによると、日本画では女性の人生と季節を重ね合わせて描くということで、上村松園の作品の周囲には、少女から成熟した女性まで様々な女性の画が展示されていました。
濱田台児の「舞妓」は、芸妓の見習い段階である舞妓のおぼこさやうぶさを描いた作品。北野恒富の「侠妓幾松之図」は、歴史上の人物を描いています。幕末から維新にかけての英雄の一人桂小五郎の妻になる幾松がモチーフで、こちらはおぼこさではなくて粋がテーマでしょう。伊藤小坡の「観桜美人」は、桜と共に人生の盛りにある女が描かれています。歴史上の人物を描くことを得意とする菊池契月は2度目の登場で、作品は「紫式部」。紫式部は、日本文学の金字塔である「源氏物語」で、「源氏物語」だけでなく紫式部自身も画題として人気です。

 

菊池契月「紫式部」(小林美術館)

 

続いては洋画から日本画へのアプローチの紹介です。
洋画家として文化勲章を受章した梅原龍三郎の日本画作品「大戦宛城」。主題となっている宛城の戦いとは、三国志の英雄として知られる曹操が大敗した戦いです。一度は勝利して宛城を落とした曹操ですが、城主張繍の叔父の妻であった美女鄒氏を気に入って自らのものとします。これに怒った張繍は曹操を奇襲し、曹操は息子や重臣を失うという大敗を喫するのです。梅原龍三郎は、三国が雌雄を決する大戦ではなく、英雄が色に迷って敗北したという、人間臭いエピソードに魅力を感じたのでしょう。この戦いの主要人物たちを書き殴るような大胆な筆致で描いています。

もう1人は、藤田嗣治。あの藤田嗣治です。パリで活躍し、モディリアーニやピカソらと交流のあった藤田嗣治は規格外の存在で、実際戦後は日本を去りフランス国籍を取得し、スイスにて没します。そんな藤田嗣治の作品は「着物を着た女」と「アラブの子供」の2点です。
福岡「異国暮らしの長かった藤田嗣治ですが、着物など日本の折りたたむ文化は独特のものだと考えて、日本文化を愛していました。この正座をしている女の絵は藤田嗣治の日本文化への思いが表現されています」
梅原龍三郎と藤田嗣治の作品は、洋画の世界で生きた2人からのそれぞれ別ではあるけれど日本画へのアプローチといえるでしょうか。

 

▲福岡さんの学芸員解説に熱心に聞き入ります。

 

こうしてみると、展覧会の「人びと」という大きなくくりの中に、「観音」や「武将」「女性」など小テーマがあり、小テーマごとに文化勲章受章者など有名画家の作品もあって展覧会自体に小気味の良いリズムが感じられます。コンセプトがしっかりした小林美術館だからこそ、その特製がうまく活かされた展覧会ではないでしょうか。

さて、ではいよいよこの美術館を作った人物。館長の小林さんに話を聞くことにしましょう。解説が終わり、1階のカウンターに向かうと、小林館長が出迎えてくれました。カウンターの奥にある事務所へと案内してもらい、そこでお話を聞くことができました。

 

 

小林美術館
住所:大阪府高石市羽衣2丁目2−30
電話:072-262-2600
web:https://www.kobayashi-bijutsu.com/
開館時間:10:00 〜 17:00( 入館受付は16:30まで)
休館日:月曜日 (祝休日の場合は開館し、翌日休館)※展示替えによる臨時休館あり

 

 


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