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ミュージアムへ行こう! 企画展「千年の宇宙ー手のひらの中の宇宙 宇宙の中の人類ー」レビュー (1)

 

宇宙という言葉があります。宇という字は、上下前後左右……つまりは空間を表わし、宙という字は過去・現在・未来……すなわち時間を表わし、宇宙とは時空全体のこと。地球や太陽系もその一部であるこの世界全体のことを宇宙といいますし、それひとつで完結した世界観を持つもののことも宇宙、あるいは小宇宙といったりします。宇宙という言葉が意味するものは、どうやら色々あるようです。
なぜ、こんなことを言い出したのかというと、さかい利晶の杜の企画展「千年の宇宙ー手のひらの中の宇宙 宇宙の中の人類ー」が2020年2月22日より開催されているからです。千利休と与謝野晶子をテーマとしたさかい利晶の杜で、なぜ「宇宙」という言葉が使われているのか、少し不思議ではないでしょうか?
今回、この企画展の内覧会で展示を詳しく解説していただく機会を得たのですが、さてこの企画タイトルに使われている「宇宙」は、どんな意味の宇宙のことなのか、なぜ使われたのか迫ってみることにしましょう。

 

■陶芸家の宇宙と宇宙飛行士の宇宙

 

▲企画担当の川嶋博之さん。

 

企画展を案内してくださるのは、さかい利晶の杜の指定管理者の企画担当者である川嶋博之さんです。

川嶋博之(以下、川嶋)「今回の企画展は、三千家の茶道具を作る職人集団・千家十職の一つ樂家の15代目樂直入さんと、堺の三国丘高校を卒業した宇宙飛行士土井隆雄さんの2人を取り上げた展覧会になっています」
――また挑戦的な企画展ですが、どういう経緯でこのアイディアが生まれたのでしょうか?
川嶋「この企画展はさかい利晶の杜の5周年記念の展覧会として、3年前の夏から企画の準備をはじめていました。さかい利晶の杜オープンの時、シアター映像で千利休を語る方として登場していただいた樂家15代目の樂直入さん、それに16代目の樂吉左衛門(当時は篤人)さんと一緒に企画を温めていたのですが、こちらから企画アイディアを提案してもなかなか面白いと言ってもらえない。そんな時、樂美術館のwebサイトを見たら、『手のひらの中の宇宙』という言葉を見つけたのです」
――樂美術館で使っていたんですね。その『手のひらの中の宇宙』という言葉はいつ頃から使われている言葉なのでしょうか?
川嶋「元々は1987年に放送されたNHKのTV番組で『手のひらのなかの宇宙(日本 その心とかたち)』という番組があり茶陶を取り上げていました。このタイトルの名付け親は、もう亡くなられていますが加藤周一さんです。そこから、この言葉を取られたのです」
――おお、評論家の加藤周一さん。
川嶋「その宇宙という言葉から、三国丘高校を卒業した宇宙飛行士の土井隆雄さんの事を思い出したのです。土井さんは、三国丘高校では天文部にいました。その後、東大工学部から文部省の宇宙科学研究所を経て、NASAの研究員となり、NASDA(宇宙開発事業団)で毛利衛さん、向井千秋さんと共に宇宙飛行士に選抜されたのです。宇宙へは毛利さんや向井さんの方が先に行ったのですが、土井さんは日本人初の船外活動を行った方なんです」
――宇宙服の向こうは宇宙ですよね。土井さんは宇宙に1番近いところまで行った人の一人ですね。
川嶋「そこから土井さんは、国連で7年間、宇宙応用課長として働き、途上国の人が宇宙へ行けるように尽力しました。2016年からは、京都大学の宇宙総合学研究ユニット特定教授に就任して、有人宇宙学を研究しています」

さかい利晶の杜を基点として、宇宙をキーワードに、まったく畑違いの樂さんと、土井さんの2人をテーマに企画展を作る……一体どんな化学反応が起きるのか、まったく見当もつかないような挑戦的な企画です。しかし、実現までのハードルは低いものではなかったようです。

 

■伝書鳩のように

 

 

畑違いの2人に化学反応を起こさせるためには、どこかに接点、発火点を見つけなければなりません。それは、2人をつなぐ企画者の仕事。川嶋さんは、なかなか苦心されたようです。

川嶋「樂家では、3代前の土を使っているのだそうです。90年前の土です。だから、自分の代では、3代先の土、90年後の土を確保して寝かせているのだそうです」
――顔も見たことがない、見ることもないであろう、子孫や弟子のために下準備をしているってことですよね。すごいタイムスケールの話ですね。
川嶋「この話を土井さんにすると、土も惑星の成分で、人間は地球の成分を使って陶器を焼いているんだね、という話になったんです。土井さんは、オリオン星雲の超新星を2つも発見しているのですが、超新星というのは星のもとになるんだそうです」
――超新星を二つ発見したというのも半端ないですが、作陶のための土づくりの話から、そんな話に広がっていく土井さんという方が面白いですね。
川嶋「そうですね、こんなこともありました。古墳時代の堺には須恵器を作っていた陶邑の跡が残っていますが、これは焼き物を焼く木が無くなってしまったことで、途絶えてしまったんです。この話を土井さんにすると、土井さんは火星で木を育てる研究をしているというんです。ポプラを火星で育てたら300mぐらいに成長するんだとか。これは、京都にいかれて日本文化について感じることがあったそうで、木の文化である日本文化を活かせないかと、人工衛星のパーツに木を使う研究もされているのだそうです」

 

▲木製のキューヴで人工衛星を作ることは出来るのか!?

 

――土井さんは、焼き物について知識や興味がある方なのですか?
川嶋「そんなことはないです。樂美術館にもまだ行ったことがないはずです」
――では、樂さんと土井さんは、実際に会って打ち合わせしたことは?
川嶋「無いです。この企画展で対談を予定しているのですが、それまでは会わない方が、会った時に新鮮で面白いだろうということになって」
――ライブ感があっていいですね。色んな話が広がるのも、直接会ってないからこそかもしれませんが、その分、川嶋さんは大変だったでしょう?

川嶋さんは2人の間を伝書鳩のように行ったり来たりしながら、企画を作りあげていったようです。直接会わない2人の間の見えない線をつなぐような作業。それは、違う星に住む2人の間を行き来するようなものだったのかもしれません。あるいは、彦星と織り姫の間の天ノ川に架けられたカササギの羽の橋にたとえた方がいいかもしれません。

それでは、次回は川嶋さんから、企画展のお薦め展示について紹介してもらうことにしましょう。

 

※コロナウィルスの予防のため、樂直入さんと、土井隆雄さんの特別対談の中止が決定しました。

 

堺市博物館
堺市堺区百舌鳥夕雲町2丁 大仙公園内
072-245-6201

○開催期間:令和2年2月22日(土)~3月22日(日) ※休館日3月17日(火)

○開館時間:午前9時~午後6時(最終入館午後5時30分)

○会場:さかい利晶の杜 企画展示室(2階)(堺市堺区宿院町西2丁1-1)

○協力:公益財団法人樂美術館

京都大学宇宙総合学研究ユニット

大阪府立三国丘高等学校

 

 


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