鳥井駒吉展~鳥井駒吉を知る・語る(2)

アサヒビールの創業者にして、南海鉄道の2代目社長にも就任した鳥井駒吉は、その功績の大きさに比して名を知られていない堺の偉人です。その鳥井駒吉を顕彰し、開口神社の境内の人目につかない所にあった鳥井駒吉建立の石碑を、陽のあたる場所に移設しようとはじまったのが、「鳥井駒吉の会」でした。
2020年2月22日。開口神社の瑞祥閣では、「鳥井駒吉を知る・語る」として講演と講談の会が開催されていました。前篇の記事では、堺市の司書竹田芳則さんによる講演「堺が生んだイノベーター鳥井駒吉」で語られたことをまとめましたが、後篇はその続きとなります。

 

■講談「鳥井駒吉」

 

▲講談の世界に戻ってきた旭堂南也さんは、お笑いの世界でシンプル西野としても活躍。

 

堺で講談といえば、講談師旭堂南陵さんの出番ですが、この日は飛び入り参加がありました。旭堂南陵さんの息子にしてお弟子さんの旭堂南也さんです。南也さんは、お笑いの世界でも活躍されていましたが、芸の幅を広げるために、再び講談の世界にも戻ってこられたとのこと。千利休と加藤清正の講談を一席披露されました。講談師としての活動は昨年からのようで、どこか初々しさが感じられる一席でした。

続いて、旭堂南陵さんの登場。
南陵さんは、上方講談会の大名跡である旭堂南陵の4代目で、芸歴50年を越える大ベテラン。マイクの前に立つだけで、聴衆を引きつける雰囲気が漂います。観客席の様子もよく見ています。聴衆の中に、40年ぶりに堺に酒造を復活させた『千利休』の蔵主西條裕三さんがいらっしゃるのを見つけるとマイク越しに声をかけて、聴衆に紹介します。

 

▲堺市の親善大使も務める旭堂南陵さん。

 

このように南陵さんの舞台は自由闊達なものでした。蒐集家としても知られる南陵さんは、集められた資料を紹介しながら、ぽんぽんと小気味良く話題を飛ばしていきます。
樽と桶の違いや、南海鉄道の車両などに使われた羽と車のマークが鳥井の鳥からとられたことなど、驚きの話題が満載です。
もはや数少なくなったアサヒビールの「朝日に波頭」のロゴマーク入りのビールジョッキも披露されたのですが、このマークのデザインは鳥井駒吉とも親しかった浮世絵師・中井芳瀧のものです。大阪市生まれで、京都で暮していた中井芳瀧ですが、堺の酒が好きで、いちいち堺から注文するのが面倒と、堺に居を移したというほどの大酒飲みだったとか。ロゴマーク以外にも、アサヒビールの引札やチラシ・ポスター類を、弟子の川崎巨泉と共に多数手がけたそうです。
客席からは、その都度驚きの声があがりました。

 

先の竹田さんの講演と重なる話題も、講談の切り口で語られると、ドラマとして印象に残ります。こうして知識と感性で鳥井駒吉を知った後は、舌で鳥井駒吉の功績を味わうことになりました。講演会と講談に引き続き懇親会が開催され、アサヒビールからビールやジュースが提供されたのです。会場には、鳥井駒吉の親族の方もいれば、アサヒビールの社員の方もいて、鳥井駒吉の魅力に引きよせられ、集まった人々が楽しく歓談する場になりました。

 

■鳥井駒吉展@ギャラリーいろはに

 

▲ギャラリーいろはにでの鳥井駒吉展。

 

イベント会場の開口神社には、「鳥井駒吉の会」結成のきっかけになった鳥井駒吉建立の石碑が建っています。実は、昨年の台風の影響で、石碑の前に建っていた稲荷社が被害を受け、今は稲荷社も周囲の樹木も撤去され、石碑の姿が顕わになっていました。
現在は、石碑の整備と、稲荷社の再建のために、寄附を集められているとのことです。

石碑を拝観したら、ぜひ鳥井駒吉展にも足を伸ばして欲しいところです。この開口神社の門前町である山之口商店街にある「ギャラリーいろはに」では、3月4日まで鳥井駒吉展が開催されています。
「ギャラリーいろはに」は、展覧会をしたい人に場所を貸すレンタルギャラリーではなく、堺では数少ない企画ギャラリーです。なのしろ、オーナーの北野庸子さんが、石碑を「発見」したことが「鳥井駒吉の会」の発足のきっかけだったので、展覧会にも力が入っています。

 

▲鳥井駒吉の年表など、わかりやすいパネル展示。

 

鳥井駒吉の業績を年表風にまとめたパネル展示は、講演や講談で話されたことを教科書的に確認できる、資料として優れた展示だといえるでしょう。
また、コピーではありますが、鳥井駒吉の書画もパネルとして展示されています。これは鳥井駒吉の文人としての側面を紹介するものとなっています。堺の商家では、茶道や能楽の謡を嗜むのが習いだったそうですが、商売をするのに文化的な素養は重視されていたことがうかがえます。

また、第2展示室では、壁面に堺の様々な地図が掲示され、各種資料も揃えられています。このスペースは鳥井駒吉について語り合う場となっているそうです。新しい資料を持込まれる方もいて、この場から鳥井駒吉に関する新発見があるかもしれませんね。

 

▲第二展示室は、語り合いの場に。

 

懇談会に参加された方からこんな話がありました。現在堺市の市長室には、堺市の偉人として5人の人物が掲げられているそうです。その5人とはすなわち、千利休、与謝野晶子、行基、河口慧海、阪田三吉です。その6人目として、鳥井駒吉を加えるべきではないかというのです。
先にあげた5人は堺に生まれ、堺の文化資源の薫陶を得て、堺にとどまらない活躍をみせた人物です。鳥井駒吉もその系譜に連なる1人で、功績や志の高さからも十分資格があるように思えます。それどころか、鳥井駒吉の実像が分かってくるのは、まだこれからでしょう。

鳥井駒吉の会の活動がきっかけになって、行政も交えて堺市をあげて鳥井駒吉をプッシュする日も遠くないのではないか!? そう思わせるイベントと展覧会でした。

 

 

ギャラリーいろはに
堺区甲斐町東1-2-29
072-232-1682

 

 

 


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